★「調教過程」にある稲田防衛大臣とアメリカを揺さぶるドゥテルテ大統領ー(田中良紹氏)

平成28年度第二次補正予算案を巡る基本的質疑が終了し、国会序盤のジャブの打ち合いは終わった。

提案型野党を標榜する蓮舫民進党のデビュー戦だったが、何が提案型かは納得させられないまま終わった。

むしろ自民党憲法草案や稲田防衛大臣の過去の発言を追及したところに野党としての見せ場はあり、

特にフーテンが言うところの「調教過程」にある稲田大臣を格好の目標として攻撃したのが最大の特徴だった。

このたびの内閣改造において目玉は稲田朋美氏の防衛大臣起用である。

防衛大臣は外務大臣と並んで対米関係の要であり、対米人脈作りを有利にする他、

将来の日本のリーダーとして米国に認知させることができる。

この人事は稲田氏が安倍総理の後継者に抜擢されたことを意味する。

稲田氏の思想は安倍総理の年来の主張と瓜二つで、

安倍総理は若いころの自分を見る思いがするのだろう。

だから自らの後継者に育て上げる決断をしたが、育て上げるには自らも経験した「調教」が必要になる。

安倍総理は第一次安倍政権で日中関係への配慮からできなかった靖国参拝を、

第二次政権誕生後の2013年12月にようやく果たして自らを支持する右派勢力にアピールしたが、

直後にアメリカから「失望」が表明され、対米関係はぎくしゃくした。

アメリカは小泉総理と異なり安倍氏を右翼思想の持ち主と警戒しており、

小泉総理の靖国参拝より以上に安倍総理の参拝を問題視し、

結局、安倍総理はアメリカの言うとおりにしないと政権運営は行き詰まると判断した。

安倍総理はアメリカの要求通り集団的自衛権を閣議決定し関連法案を強行採決するが、

その間もアメリカからは次々に注文が付けられ安倍総理は「調教」を受け続けた。

その調教結果をお披露目したのがアメリカ議会での演説である。

安倍総理はひたすらアメリカ社会とアメリカの価値観を称賛して拍手喝さいを浴びた。

従って稲田氏を後継者に育て上げるには同じ「調教」が必要だと安倍総理は考える。

まずは靖国参拝を見送る口実を作るため急きょ海外視察が組み込まれ、

稲田氏は恒例にしてきた8月15日の靖国参拝と全国戦没者追悼式を欠席した。

それを委員会で民進党の辻本清美議員から厳しく追及され悔しさからか涙を見せた。

与野党攻防の国会で野党が稲田氏を攻撃するのは理にかなっている。

稲田氏起用が安倍総理の改造人事の要であり、

安倍内閣の最も弱い環を攻撃するのは任命権者である安倍総理に対する効果的な攻撃になるからだ。

蓮舫民進党は提案型野党を標榜するが、それがフーテンにはまだよく理解できない。

野党が提案すれば権力を持つ与党はおいしいところをつまみ食いし

あたかも自分たちの政策に作り変えて実現することができる。

権力を持たない野党は何を提案してもそれを自分の成果にすることはできない。

現在、自民党に提案をする主要政党は公明党と日本維新の会だが、

公明党には選挙協力という切り札があり、自民党には公明党の提案を受け入れざるを得ない事情がある。

しかも提案が実現すれば公明党は自分の功績であることをアピールして

連立の効果を支持者に納得させることができる。

一方、日本維新の会は自民党と連立したいがゆえの提案である。

野党ではなく「ゆ」党の立場から与党入りを狙っている。

しかしこちらには公明党のような盤石の選挙組織はなく、

自民党から見て公明党の代替にならない。とりあえずは野党共闘つぶしに利用価値がある。

選挙に勝って政権交代を果たすことが野党の仕事だと考えるのなら、まずは与党の弱点を攻撃することである。

弱点を攻撃することでどこかに突破口を見いだし、世論の動向が変化をすれば、

そこで与党と異なる提案を繰り出し、世論をさらに引き付ける材料にする。

しかし初めから提案などしても相手にされないのが関の山だ。

ところで国会はいよいよ来週からTPPの批准を巡る審議が始まり、与野党攻防は山場を迎える。

安倍政権はアメリカ大統領選挙が行われる11月8日より前の衆議院通過を目指し、

そのためには強行採決も辞さない構えだと言われる。

アメリカでは大統領候補者2人ともTPP反対を明言し、

共和党上院院内総務など議会幹部も批准に反対である。

ベトナム議会もアメリカの動向を見て今年中の批准を見送った。

そうした中で日本が切り込み隊長のように批准の先陣を切ろうとしている。

政権末期でレームダック状態のオバマ政権に忠実になろうとするわけだ。

アメリカ大統領選挙の候補者たちがなぜTPPに反対かと言えば、

グローバリズムに対するアメリカ国民の強い不満を感じているからだ。

冷戦後のアメカは世界の一極支配を目指し、アメリカ的価値観で世界を覆いつくそうとした。

最強の軍事力をちらつかせて経済や社会のルールをアメリカと等しくする。

特に最も経済成長が見込めるアジア太平洋でそのルールを実現しようとするのがTPPである。

目標は世界最大の市場中国をアメリカのルールに取り込むことで、

日本などに中国包囲網を作らせ、アメリカの利益にしようと考えた。

しかし現実はグローバリズムによってアメリカの中産階級に支払われるはずのマネーが

新興国の低賃金労働者に向かいアメリカの中産階級は没落した。

利益を得たのは一握りの多国籍企業だけである。その反発がトランプ現象を生み、

サンダースを熱狂的に押し上げた。だから彼らはグローバリズムそのもののTPPに反対である。

日本もアメリカほどではないが資本が海外の低賃金労働者に向かい、

日本国内に低賃金構造を作り出し、また製品価格を押し下げてそれがデフレの要因になった。

にもかかわらず安倍政権はTPPを「アベノミクスの成長戦略の柱」として、

アメリカ主導のグローバリズムのお先棒を担ごうとしている。

なるほど「調教」の効果は抜群である。

そんなときにアジアに現れた反グローバリズムの闘士がフィリッピンのドゥテルテ大統領である。

「アメリカの価値観など糞くらえ」と暴言を吐き続け、反米意識をむき出しにする。

それが80%近い支持率を得ているといるから驚きだ。これを単なる反米主義者とみるかどうかである。

フーテンはアメリカの弱みをとらえ揺さぶりをかける外交術ではないかとみている。

冷戦時代の日本は自民党と社会党が「絶妙の外交術」でアメリカを揺さぶり高度経済成長を成し遂げたが、

いま「新冷戦」と言われる時代にアメリカを揺さぶり

アメリカから利益を吸い上げようとするアジアの指導者が現れたのかもしれない。

そんなことを考えながらフーテンはTPPの国会審議を見ることにする。

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