★社会保障切っての五輪開催を誰が求めているかー(植草一秀氏)

東京都の小池百合子知事が9月30日の定例会見で、

豊洲市場の主要建物下から盛り土が消えた問題の調査結果を発表した。

しかし、どのような経緯で「盛り土」が消滅したのかを明らかにできなかった。

この結果を「予想通り」と受け止める向きは存在するが、それで済ませるわけにはいかない。

盛り土を行い、その上に建屋を建設することになっていたものが、

盛り土をせず建屋を建設したのであるから、その間の経緯が存在する。

2011年3月から6月の間に基本設計が変わったことが明らかになっているのだから、

関係者からその間の正確な証言を得ることによって真実は明らかになるはずだ。

それをできない、あるいはしない、ということになるなら、

ガバナンスの欠如を問われるのは小池百合子新知事自身になる。

関係者および職員から、詳細に説明を求めることすらできないなら、

今後の都政を運営することなど不可能になる。

新市場の水質調査では生命に危険を及ぼす有害物質が環境基準値を上回って計測された。

いよいよ新市場の利用は困難な状況を迎えている。

建屋地下部分に空洞がある方が好ましいとの関係者意見が散見されるが、

このことと盛り土をすべきかどうかとは全くの別問題だ。

汚染された土壌の上に市場を建造することから盛り土を行うことが決定された。

建屋の地下部分に空洞部分を設けることが望ましいなら、

それは、盛り土の上の建造物において、そのような設計をすればよいだけのことだ。


盛り土を行い、その上の建造物の地下部分に空洞部分を建造するとなると費用がかかる。

そこで、盛り土部分を除去して空間部分に充てただけであると思われる。

工費を浮かすための工作であった疑いが濃厚である。

建築施工の入札が公正に行われるなら、設計変更は工事費に反映されることになる。

しかし、落札業者を選定する入札が、一企業体だけの応札で、

しかも、予定価格とほぼ同額の落札価格ということでは、この価格が適正であるとは全く言えないことになる。

誰かが不正に利得を得るために設計変更を行ったとしか考えられない。

学術上の意見対立があったわけではない。

東京都は納税者である都民に対して、新市場建屋は盛り土の上に建造したと公表し続けた。

虚偽公表を行っていたわけで、その責任も問う必要がある。

「調べたけれども分からなかった」

では小学生の宿題でも許されないはずだ。

小池氏の力量が問われるのはこれからである。


東京汚リンピックの総費用が3兆円を突破するとの見通しを東京都の調査チームが発表したが、

国は傍観者の振る舞いを続けている。

丸川珠代五輪担当相は、自分の任務はセキュリティー対策、輸送、気運の醸成だけだと答弁したが、

組織委員会、東京都が負担できない費用は国が最終的に負担することになる。

国の負担は丸川氏の負担ではない。

国民の負担である。

最終的に国民負担が発生する問題に対して、

組織委員会や東京都に丸投げの姿勢では、国民が納得しない。

そもそも、東京五輪開催を日本国民は求めていない。

東京五輪を求めているのは、

五輪開催にかこつけて私腹を肥やそうとする利権亡者および利権亡者企業だけである。

一般の国民は五輪にお金を注ぎ込む前に財政支出を優先的に充当するべき対象があると考えている。

政府は社会保障を徹底的に切り込む一方で、利権支出だけは積極的に増大させている。

観光ビジネス、訪日観光客増大の政策と言えば聞こえが良いが、

財政資金に関係業界や関係省庁、関係天下り機関が群がっているだけの構図だ。

その一方で、介護保険のサービス提供が一気に切り下げられる。

要介護1~2の要介護者は自己負担が激増して生きてゆくこともままならない状況が生じる。

日本財政から利権支出を取り除けば、北欧並みの社会保障水準を確保できるだろう。

日本の社会保障制度が貧困であるのは財政窮迫によるものでない。

利権支出優先の財政支出構造に原因がある。

築地の豊洲移転を延期しただけでは何も変わらない。

問題の本質を抉り出し、五輪についても「利権体質がもたらす闇」を明らかにして、初めて「成果」と言える。

小池新知事の真価が問われるのはこれからである。


日本財政を利権支出優先の構造にしている最大の先戦犯は財務省である。

財務省は財政危機を叫ぶが、それならば、なぜ、財務省の天下り利権を切らないのか。

自分の利権は温存しておいて、財政危機を叫んでも、真実を知る人はあきれるばかりだ。

その象徴が菅直人という人物と野田佳彦という人物である。

二人とも「天下り根絶」を叫んでいた。

そもそも、天下り根絶の必要性を強く訴えたのは私である。

私が設立間もない民主党の勉強会で繰り返し「天下り根絶」の重要性を唱えた。

そこから、菅直人氏が天下り根絶を主張し始め、その後、野田佳彦氏も唱えるようになった。

日本を刷新するには「三つの構造」を打破することが必要だ。

「米国による支配」

「官僚による支配」

「大資本による支配」

の打破だ。


「米国による支配」を打破するには、

「米国に対して言うべきことを言う」

ことが必要である。

「辺野古に基地を作らせない」

ことを鳩山由紀夫首相が初めて米国に対して言った。

「官僚による支配」を打破するために、

「官僚天下り根絶」が必要であると私が唱えた。

そして、中央官僚の少数エリート構造が官僚支配をもたらしていることから、

第一種国家公務員制度を見直すことも必要であると主張してきた。

そして、第三の「大資本による支配」の構造を打破するには、

「企業団体献金の全面禁止」が必要であると訴えてきた。


2009年の政権交代は、日本政治刷新を目指した点で画期的であった。

小沢一郎氏と鳩山由紀夫氏が主導して実現した政権交代は、

明確に日本政治刷新の方針を明示したのである。

その一つの柱が「官僚天下りの根絶」

である。

野田佳彦氏は2009年8月15日の街頭演説で、天下り根絶を声高に訴えた。

「シロアリを退治しないで消費税を上げるのはおかしいんです」

菅直人氏も「天下り根絶」を訴えていた。

ところが、あろうことか、この2名の人物が、

「シロアリ退治なき消費税増税」

を主導する暴走車に変質した。

裏で糸を引いたのは財務省である。


財務省は、

「自分たちの利権を維持するためには、国民を切り捨てる」

との考えをはっきりと持っている。

野田佳彦氏も菅直人氏も、自分の地位や欲望のためなら、

政治的な思想・信条はいつでも捨てられるタイプの人間なのだろう。

二人とも、首相の地位というエサにつられて、

「シロアリ退治なき消費税増税は許さない」

という思想・信条を捨て去った。

そのために、日本政治が崩壊したのである。


日本は世界で第3位の経済大国である。

それなのに、社会保障の水準は世界のなかでも後進国である。

財政規模が小さいわけではない。

財政支出を社会保障の充実に優先して充当して、

それ以外の必要性のない利権支出は完全に排除する、との方式をとるならば、現状は一変する。

しかし、現状は、社会保障はどこまでも切り捨てられて、

他方、利権支出は温存、拡大させるとの方針が明確に取られている。

これをリードしているのが財務省であり、足並みをそろえているのが自民党政治=安倍政治なのだ。

安倍晋三氏は自分のために五輪を推進している。

政治家に求められる姿勢は、

「国民のために尽くす」

というものだ。

首相経験者がたくさん存在するが、

「自分のため」

の者が大半、

「皆のため」

に尽くした首相経験者は本当にひと握りである。

為政者の基本姿勢が是正されなければ、この国の政治が良くなるわけがない。

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