★民進党代表の都知事表敬訪問を見て考えたくもないことを考えるー(田中良紹氏)

民進党の蓮舫代表が小池東京都知事を表敬訪問した様子をニュースで見ていささかの感慨を覚えた。

舛添前東京都知事の辞任が取りざたされたとき、

真っ先に候補として名前が挙がったのは民進党の蓮舫氏だったからだ。

もし蓮舫氏が都知事選立候補を決断していれば、

日本政治は現在とは全く異なる構図になっていた可能性がある。

もちろん「たら、れば」を言っても仕方がないことは十分に承知している。

しかしフーテンは安倍政権があの時は蓮舫出馬を最も恐れていたと思っている。

2020年東京オリンピックの主役の座を野党に奪われれば、

これまで描いてきた政権運営のシナリオがことごとく崩れてしまうからだ。

都知事選挙は安倍政権にとり死活的に重要であった。

これまでの選挙結果を見れば東京で蓮舫氏に勝てる候補を探し出すのは簡単でない。

しかし都知事の座を野党に奪われれば政権運営は打撃を受ける。

安倍政権も与党もまずは蓮舫氏の動向を注視したと思う。

安倍総理によって「氷の牢獄」に閉じ込められていた小池百合子氏も、

あの時点で都知事選出馬を考えていたならば、蓮舫氏の不出馬を祈っていたことだろう。

蓮舫氏が出馬するかもしれない状況では誰も手を挙げることはできなかった。

蓮舫氏が不出馬を表明したことで、

小池百合子氏は自民党東京都連や森喜朗氏に対抗する形での立候補に踏み切る。

蓮舫氏以外に勝てる候補のいない野党陣営では2度の立候補経験がある宇都宮健児氏も

手を挙げることになった。

その後は野党陣営の候補擁立が順調に進まず、ぎりぎりになって鳥越俊太郎氏が出馬するが、

そこには「どうしても都知事の座を野党が奪う」とする執念も、

「都知事の座を握ればその後の政局を揺さぶることができる」という計算も感じることができなかった。

一方の与党は公明党とその意をくむ菅官房長官が増田寛也氏を擁立し、

徹底した組織選挙を貫いたが、石原慎太郎都知事時代からの都政の闇を暴くと訴えた小池氏が、

護憲とか反原発とか国政マターで安倍政権を批判する鳥越氏より

都政における「政権交代」を感じさせ、共産党支持者まで巻き込む幅広い支持を得て圧勝した。

もし蓮舫氏が出馬して石原知事以来の都政刷新を掲げれば、

おそらく小池氏は手を挙げることができなかったかもしれない。

あるいは手を挙げて与党が蓮舫氏に対抗できる候補として小池氏を公認すれば、

小池氏は自民党東京都連や森喜朗氏との対決姿勢を打ち出すことはできなかった。

東京都民が小池氏を圧勝させたのはこれまでの都政の闇を暴くという主張にある。

野党の蓮舫氏が出馬すれば当然これまでの東京都政を批判することになり

都民に支持されたことは間違いない。

蓮舫氏の当選は首都東京で「政権交代」が起きたことを国民に感じさせ、

それが選挙に負け続けてきた旧民主党と民進党にとって反転攻勢の足掛かりになったと

フーテンは考えるのである。

しかし蓮舫氏は不出馬を決めた。後ろ盾である野田佳彦前総理が出馬に反対したと報道されている。

野田氏はその頃から民進党代表選挙での蓮舫氏擁立を考えており、

将来の総理候補になる方が良いと蓮舫氏を説得したものと思われる。

蓮舫氏は「考えた末、国政の方に自分のやりたいことがある」と不出馬の理由を述べた。

しかし国政と地方政治に違いがあるとはいえ、

政治の力量を磨く意味で地方自治体の首長を経験することは無意味でない。

アメリカでは1970年代半ばから州知事を務めた人間が大統領に就任するケースが多い。

カーター大統領以来現在まで6人の大統領のうち4人までもが州知事経験者である。

東京都知事を狙うことは蓮舫氏自身にとっても、

また野党勢力が「一強他弱」の政治状況を転換させるためにも意味のあることだとフーテンは思っていたが、

結局、野田氏の考えを受け入れ蓮舫氏は不出馬を決めた。

その蓮舫氏が民進党の代表選を制すると真っ先に野田氏を幹事長に指名し、

党内で自民党に政権を渡したA級戦犯と批判されてきた野田氏の復権を図った。

これを意地悪く見れば、野田氏が自らの復権を図るため蓮舫氏に都知事選立候補を断念させ、

代表に就任させることに力を入れたとみることもできる。

そうであるとは考えたくないが、しかしそう思われても仕方がない状況を民進党は迎えている。

そして民進党代表選挙は蓮舫氏の「二重国籍問題」ばかりが注目され、

二転三転する蓮舫氏の説明に批判が集まった。

都知事に就任するのであればおそらく「二重国籍」は問題にならなかった。

外交を所管する総理を目指したことでそれが問題にされた。

一方の小池氏は誰かが共産党都議団に豊洲の地下に空洞があることをリークしたことから、

一躍メディアの注目の的となった。

そうした時期の蓮舫代表の小池都知事表敬訪問で蓮舫氏は盛んに小池氏にエールを送ったが、

エールを送るのは良いとしても、小池氏とは選挙で争わなければならない立場であることを

都民に印象づけなければ野党の代表としては失格である。

ひたすら小池氏を称賛しただけでは小池人気にあやかろうとするただのポピュリストとして

与党から舐め切られることになる。まるで小池氏が自民党籍を残していることを忘れているかのようだ。

蓮舫新代表は「批判するだけでなく、提案型の野党になる」と言ったが、

民主党政権下で自民党が下野したとき自民党は提案型の野党であったのか。

徹底的に民主党の政策を批判し、国会では閣僚のスキャンダルを真偽を別に徹底追及したではないか。

フーテンはそれを良いとは言わないが、そこには何が何でも政権を奪い返すという強い意志を感ずる。

どんな正しい政策でも権力を奪わない限り実現することはできない。

権力を奪うための知恵こそが野党に求められるのであって、

綺麗事を言って一部の「建てまえ好き」から評価されるのが野党の務めではない。

かつて社会党に土井たか子委員長が誕生したとき、

自民党が総力を挙げて土井氏のスキャンダルを探していたのをフーテンは覚えている。

その経験から言えば自民党は蓮舫氏とその周辺のスキャンダルを総力を挙げて探っているだろうと思う。

それを材料にして与党は裏で取引を求めてくる。取引に応ずればスキャンダルは表に出ないが、

応じないとメディアに流されることになる。

それへの対応を万全にしておかないと権力闘争に勝つことはできない。

土井たか子氏は社会党末期を象徴する女性政治家であったが、

民進党も社会党と同じことになってしまうのではないかと

蓮舫代表の小池東京都知事への表敬訪問を見ながらフーテンは懸念してしまうのである。

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