【訳者あとがき】 IWG『用語ガイドライン』関連の抄訳作業を終えて①



■はじめに

2016年1月末に、児童の性搾取・性虐待問題に関わる18の関係機関で構成されるIWG(Interagency Working Group)が発表し、同6月中旬に国際刑事警察機構ICPOが賛同を表明した『児童を性的搾取と性的虐待から保護するための用語ガイドライン』(以下『ガイドライン』は、その後、IWGに参画した各機関(国連人権高等弁務官事務所UNOHCHR、国際労働機関ILO等)で公式に「ガイドライン」として掲載されるに至っている。実は2016年6月14日、関係各機関は一斉にそれぞれの公式サイトに賛同リリースを掲載している)。

OHCHR http://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=20096&LangID=E
ICPO http://www.interpol.int/News-and-media/News/2016/N2016-080 (参考私訳)http://tkatsumi06j.tumblr.com/post/150436225671

ILO http://www.ilo.org/ipec/Informationresources/WCMS_490167/lang--en/index.htm (公式和訳)http://www.ilo.org/tokyo/information/pr/WCMS_490927/lang--ja/index.htm

IWGには、欧州評議会事務局やアフリカ委員会等の欧州やアフリカ、南米の政府機関、国連事務総長特別代表、国連人権理事会の担当委員会やILO等の国連関係機関や、EUROPOL、ICPO等の国際司法機関、PLAN、SAVE THE CHILDREN、ECPAT等の非政府組織、INHOPEやICMEC等の民間援助団体等と、この問題に関わる主だったステイクホルダー機関がほぼすべて参加している。つまりこの集まりが決定して『ガイドライン』を普及すれば、まさに”世界標準”となり得る。

そんなマキシマムな権威を伴う『ガイドライン』を推奨したICPOの賛同表明は、とくに『児童ポルノ』に関わる表現規制の問題で揺れる日本の関係者にとっては影響が大きかった。日本では1999年の「児童ポルノ処罰法」が制定され、その後の2回の改正を経て現行の「児童ポルノ禁止法」へと修正されたが、現安倍内閣下の2014年の改正では、表現規制と処罰規定が強化されるのではと懸念が高まり大きな抵抗運動が起きた。

そんな折、ICPOが2014年に行った別の「表明」が、表現規制反対派にとってひとつの拠り所となった。それは『重大な犯罪には深刻な定義を』という趣旨で、「児童ポルノ (child pornography)」は不適切なので「児童性虐待記録物 (child sexual abuse material: CSAM) 」として表現すべきというものだった。とくにドキュメントやプレスリリースを出す訳でもなく、突如として公式サイトに "Appropriate Terminology (適切な用語)" なるページが現れた。

NPO法人『うぐいすリボン』和訳の旧バージョンより
http://mega80s.txt-nifty.com/ICPO.pdf

『児童虐待画像はポルノではない』というICPOの"表明"は、表現規制反対派にとっては追い風になる筈だった。ところが実は、この時ICPOはすでにIWGの一員としてより広範な用語策定に入っていたのだ。その動きを主導したのが、表現規制派の推進力となっているECPATであったということは、今年6月に初めて明らかとなった。

ただ、このことは(日本では)広く知られていなかった。

IWGは2014年9月、ECPATタイ国際本部の提唱で立ち上げられた。ECPATを事務局にそれから約1年半に及んで18の国際機関による議論が行われ、2016年1月に『ガイドライン』は策定され、同6月に正式にリリースされた。

http://www.ecpat.org/news/luxembourg-guidelines-terminology-step-forward-fight-sexual-exploitation-sexual-abuse-children/

おそらく、1月の作成終了と同時に関係各機関の間で協議が行われ、さらに5か月の議論を経てリリースされることになったのだろう。そういう意味でも、『ガイドライン』はマキシマムの権威と意義を持つものとしてこれから各国各機関で推進される筈だ。ICPOが賛同リリースで述べているように、加盟国や加盟機関を持つ国際機関がこれから「世界各国の法執行機関に対して推奨してゆく」というのだから。

問題は、この『ガイドライン』が網羅する「用語」の”定義”が、各国の異なる法制に今後どのように影響するかだ。実際、ICPOが推奨するその中身は、およそ単純な内容ではなかった。『児童ポルノ』をすべからく『児童性虐待記録物』と呼べばいいだけの話ではなかった。そこに、この動きを主導し事務局役を務めたECPATの思惑が見え隠れする。

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