★国民安保法制懇見解──安保関連法制定から1年を経て
「自衛隊の活動やがて国民の安全を脅かすリスクを説明なしに強引に進める政府の姿勢、
リベラル・デモクラシーの政府でなく、
形ばかりの選挙を施行する非民主的な独裁国家にふさわしい」ー(孫崎享氏)

国民安保法制懇

国民安保法制懇:愛敬 浩二(名古屋大学教授)青井 未帆(学習院大学教授)
伊勢崎賢治(東京外国語大学教授)伊藤 真(弁護士)大森 政輔(元内閣法制局長官)
小林 節(慶應義塾大学名誉教授)長谷部恭男(早稲田大学教授)樋口 陽一(東京大学名誉教授)
孫崎 享(元外務省国際情報局長)柳澤 協二(元内閣官房副長官補)

われわれ国民安保法制懇のメンバーは、

集団的自衛権行使容認へと踏み出した2014年7月の政府見解、

昨年5月に法案が提出され同年9月に制定された安全保障関連法等、

憲法9条を正面から破壊しようとする安倍政権の行動を批判し、

日本の安全保障および自衛隊の活動に関する冷静で理性的な判断と対応を求めてきた。

安全保障関連法の制定から1年が経過したことを踏まえ、現時点でのわれわれの見解を示したい。

政府は、参議院選挙後の8月24日、安全保障関連法に基づく自衛隊活動の訓練を順次実施すると発表した。

選挙が終わるまではなりをひそめて安保法への目を逸らし、

選挙が終わってから安保法を運用に移したことになる。

さらに、いかなる訓練を行うかについて、具体的な説明はまったくない。

予想される訓練の中には、PKO活動に参加する国連やNGOの職員らが武装集団等に襲われたとき、

武器を携行して救援に赴く「駆けつけ警護」も含まれる。

焦点となるのは、今後、南スーダンPKOに派遣される部隊に「駆けつけ警護」の任務が付与されるか否かである。

最近の南スーダンでは、首都ジュバで大規模な戦闘が行われるなど、

そもそも派遣要件であるPKO参加5原則、

中でも紛争当事者間での停戦への合意が満たされているか否かに疑いがある。

そうした状況下で自衛隊に「駆けつけ警護」の任務を与えるならば、

自衛隊員の安全に従来を大きく上回るリスクをもたらすことが予想される上、

「駆けつけ警護」任務での武器使用が、憲法の禁止する武力の行使に踏み出すことになりはしないか、

再度の慎重な検討が必要となっている。

また、自衛隊の武器使用が不幸にも民間人の殺傷をもたらした場合に、

それがいかなる責任をもたらし、

その責任を国と個々の自衛隊員がいかに分担することになるかがきわめて不分明であることも懸念材料である。

さらに、1999年8月12日付国連事務総長告示「国連主導多国籍軍による国際人道法の遵守」はすでに、

戦闘時においてPKO部隊が紛争の当事者として限定的に交戦権を行使することを一般論として想定しており、

PKO活動に関する内外の認識が大きく変容しつつあることも、

自衛隊の任務遂行の是非に関して考慮すべき要素であろう。

安保法はすでに本年3月に施行されている。

自衛隊の活動によって生じる現地での住民感情の悪化や緊張の激化は、

やがては国民の安全を脅かすリスクを含むのであるから、

この法制の下でどのような活動を行い、どのようなリスク・効果が見込まれるのかにつき、

政府は国民に真摯に説明し理解を求める努力を行うべきであった。

しかしながら、政府から国民に対する真摯な説明は全くなされていない。

国民への説明を怠って選挙を戦い、選挙が終わりさえすれば

あたかも国民の白紙委任を得たかのように周囲の声に耳を傾けることなく、

強引にことを進める政府の姿勢、人がそれぞれ自律的な判断主体であることを無視し、

説明を通じて納得を求めることもしない政府の姿勢、

すべては選挙結果を目当てとして人心を操作するための術策であるかのように振る舞う政府の態度は、

普遍的価値を標榜するリベラル・デモクラシーの政府にはおよそ似つかわしくない。

それは、形ばかりの選挙を施行する非民主的な独裁国家に、むしろふさわしい。

政府が集団的自衛権容認の根拠としてあげた憲法第13条にいう国民の生命、自由、幸福追求の権利を

真に守るのであれば、同条が定めるように、すべての国民を個人として尊重することこそが、

政府には求められるであろう。 以上(9月19日)

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