★アメリカのグローバリズムに立ちふさがるトランプとドゥテルテー(田中良紹氏)

アメリカのCNNと世論調査機関ORCが全米規模で実施した最新の調査によると、

共和党大統領候補ドナルド・トランプの支持率が民主党の大統領候補ヒラリー・クリントンの支持率を

2ポイント上回った。

民主党全国大会直後の8月上旬には8ポイントの差をつけてリードしていたヒラリーが

ここにきて逆転を許したのである。

しかも調査対象が11月の本選挙で投票する意思のある者に絞られていることから

ヒラリー陣営にとっては深刻である。

数々の暴言を吐き続け、メディからも共和党主流派からも嫌われてきたトランプが、

なぜアメリカ国民の心をつかむのか。

逆に優秀な頭脳とキャリアウーマンとして華麗な経歴を持つヒラリーがなぜこれほど苦戦するのか。

トランプが最終的に大統領になれるかどうかは別にして、この問題は真剣に考える必要がある。

フーテンはその原因を冷戦後にアメリカが目指したグローバリズムにあると考える。

そしてトランプ現象はその破たんが明らかになってきたことを示すものである。

グローバリズムを最も強く推進したのは民主党のクリントン大統領だから、

ヒラリーが苦戦するのはグローバリズムに対する米国民の不満の強さを物語る。

冷戦後のアメリカをスタートさせたクリントン大統領とゴア副大統領は、

21世紀を「グローバリズムと情報の世紀」と呼び、

インターネットの普及とデジタル技術を駆使して世界にアメリカの価値観を広めようとした。

それはアメリカ経済を追い越そうとしていた日本経済に痛烈な打撃を与え、

日本の家電産業はあっという間に韓国や台湾など新興国に追い抜かれ、

一方でアメリカは情報の技術革新を金融と軍事の2分野に応用して

日本経済を完全にコントロール下に置くことができた。

その頃のアメリカに「ダウンサイジング・オブ・アメリカ」と呼ばれる現象が起きた。

湾岸戦争は精密誘導兵器などハイテク兵器の威力を見せつけたが、

インターネットを導入した軍事技術革命は、

戦場にいる個々の兵士を監視衛星で戦場を見るアメリカ本土の司令部が直接指揮できるようにした。

そのためピラミッド型の軍隊組織が必要なくなった。

経済界はこれを企業経営に応用しようとする。

企業経営の頭脳部分と底辺の個々の労働者をネットでつなげば中間管理職のリストラが可能となる。

クリントン政権下で家のローンなどを抱える中高年ホワイトカラーが次々に会社をクビになり

深刻な社会問題になった。一方で知能程度の高い移民をホワイトカラーに採用する合理化も行われた。

それが「ダウンサイジング・オブ・アメリカ」である。

またグローバリズムによって企業は低賃金労働者を求め国境を越える。

韓国、台湾から中国、ベトナム、バングラディシュ、ミャンマーへと

アメリカが新興国を国際市場に招き入れているのは、表向きは民主化の拡大のためだが、

真の狙いは低賃金労働である。だからフーテンはアメリカが表では北朝鮮を非難するが、

いずれは第二のミャンマーにしようと考えているはずだとみている。

グローバリズムによって新興国をアメリカ経済に巻き込めば、その国の経済は成長し、

賃金も生活水準も上がる。それによって民主化も進展するだろうが、

それらの国に資本が投下された分だけアメリカ本国に投下される資本は少なくなる。

それはアメリカのビジネス・エリートには利益をもたらすが、

中間層以下の労働者に回るはずの資金はアメリカの外に出ていく。

それがクリントン政権以降グローバリズムの名の下に続いてきたのである。

そのうえブッシュ・ジュニアは中東を民主化すると言って戦争を始め泥沼にはまり込んだ。

だから世界の警察官をやめて日本などに肩代わりさせようとしているのがオバマ政権である。

しかし中間層以下のアメリカ人はそれどころではない。

グローバリズムをやめて自分たちの国のことを考えてほしいと思うわけだ。

それが今回の大統領選挙で民主党ではサンダース、共和党ではトランプを浮上させた。

サンダースがヒラリーに負けたのは、トランプより支持が低かったせいではない。

民主党には共和党にはない特別代議員制度があり、

民主党の一般党員ではないエリート層に特別の投票権が与えられていたことから

一般の声が反映されにくかっただけのことである。

それがなければ民主・共和両党とも反グローバリズムの候補者が大統領の座を争う可能性があった。

グローバリズムは中東に根強い反米感情を生み出したが、それがアジアにも伝播する兆候が現れた。

トランプ有利の世論調査結果が発表されたころ、

フィリッピンのドゥテルテ大統領が、

麻薬犯罪撲滅のため殺害を認めるやり方を懸念するアメリカのオバマ大統領に対し、

「フィリッピンはアメリカの属国ではない。私はフィリッピン国民以外の誰からも指図は受けない。くそったれ」と

暴言を吐いた。

彼は「フィリッピンのトランプ」と呼ばれ、過激な言動で問題視されているが、

率直な物言いは国民に人気があるようだ。

おそらくドゥテルテだけではなく世界の多くの国のリーダーが本音では

「アメリカの指図など受けたくない」と考えているかもしれない。

それほどに世界を一極支配しようと、アメリカはアメリカの価値観を世界中に強引に押し付けてきた。

それに対する反発が現れてきているのである。

無論、アメリカは腐ってもまだ鯛である。世界最強の軍事力と、

ボロボロになりつつあるが基軸通貨を維持して世界に君臨している。

しかしグローバリズムはごく一部のエリートを除き

アメリカ国民に何の利益ももたらさないことが分かってしまった。

だからグローバリズムは終焉の時を迎えている。

大統領選挙でのトランプ現象やフィリッピンのドゥテルテ発言はそれを教えてくれる。

そのグローバリズムの典型がTPPである。オバマ大統領の狙いは中国をTPPに取り込むことで、

中国経済の土俵をアメリカと同じにし、アメリカ的価値観を押し付けようと考えている。

そのためなんでも言うことを聞く日本を利用して中国包囲網を作ろうとしたが、

もはやアメリカ国内は反対論の方が強い。

それなのに安倍総理はTPPの早期批准に強い意欲を表明し、

臨時国会の主要な課題にするつもりのようだ。

安倍総理にはグローバリズムの黄昏が見えないのか、あるいは毒を食らわば皿までというつもりなのか。

いずれにしても「日本はアメリカの属国ではない。

私は日本国民以外のだれからも指図は受けない」と言い切る政治リーダーが出てくることはないのだろうね、

この国では。

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