★戦艦大和の悲劇と重なって見える日本の姿ー(天木直人氏)

きょう9月3日の日経新聞文化面に戸高一成(とだかかずしげ)という人のインタビュー記事を見つけた。

 いまは広島県呉市の海事歴史科学館の館長をしているという戸高氏は、歴史が好きで、

調べ物をするうちに、船とか飛行機とか、だんだん海軍の歴史に興味を持つようになったという。

 その戸高氏が、戦艦大和について次のように語っている事に私は注目した。

 「大和は日本海軍のシンボルとして建造され、沖縄特攻途中、シンボル的な沈み方をしたわけです。

大和は不思議な船で、国民も知らないうちに建造され、海軍関係者以外、知らないうちに沈んでいる。

基本的に国民が知ったのは戦後ですから。

国民にとって知った瞬間にすでに神話なんです・・・よく言われるのは日本人の判官びいきのメンタリティーです。

能力のある人が能力を発揮するところがなくて悲劇的な最後を遂げる、大和はそのものです。

世界最大の能力を期待されながらその能力を発揮できず、不本意な最後を遂げた。

ああ、気の毒という日本人の心情にぴったりの船の一生でした。

戦後最初に出た大傑作の吉田満の『戦艦大和ノ最期』なども重なって、大和は神話的背景を持った船になった。

でも私は大和の悲劇を神話から現実に引き戻したいのです・・・」

 これを読んだ時、私は、何も知らされないままに沈没する今の日本の姿と戦艦大和がダブって見えた。

 そして私はこの戸高氏の言葉を読んだ時、

かつて大蔵省(現財務省)の田谷廣明主計官が発言して話題になった昭和三大馬鹿査定発言を思い出した。

 田谷発言は、昭和時代の巨額の税金の無駄遣いをあらわす隠語として

大蔵省主計局の間で語り継がれていた三代査定が

戦艦大和・武蔵、伊勢湾干拓、青函トンネルであることを明かした言葉だ。

 この三代馬鹿査定を持ち出した上で、

田谷主計官は当時問題になっていた整備新幹線の予算を認めたら歴史に残る馬鹿査定になると

記者懇で語った。

 私がここで言いたいのはそのような田谷主計官の発言の適否ではない。

 整備新幹線予算の査定の是非でもない。

 私が言いたいのは、歴代の大蔵省主計官の間で三馬鹿査定の一つとして戦艦大和・武蔵の査定が

語り継がれていたという事実だ。

 つまりこれは航空機時代の到来を見極められずに、巨大砲艦主義を固守し、

戦艦大和を建造した事への歴代の大蔵官僚の批判なのだ。

 つまり政府内部では知る者は皆知っていたのだ。

 間違って事をやっている事を。

 戦艦大和の沈没は悲劇ではない。

 ましてや判官びいきの対象になるものではない。

 間違いを知っていながら止められず、その事を国民に隠し続けた、

この国の為政者の誤りの行き着く先なのである。

 今われわれが知るべきは戦艦大和の悲劇の本当の悲劇である。

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