★調査と呼べないJOC身内緩い目による報告ー(植草一秀氏)

「支払いの透明性に問題はあるが、違法ではない」

どこかで聞き覚えのある言い回しだ。

政治資金の不適切な使用問題で辞任に追い込まれた舛添要一前東京都知事。

政治資金の不適切な利用について、調査を依頼された弁護士は

「不適切だが、違法ではない」

と説明した。

舛添氏が記者会見で繰り返したのは、

「厳しい第三者の目で見てもらうことがいい」

だった。

冒頭の言葉は、2020年東京五輪・パラリンピック招致をめぐる金銭授受疑惑で、

日本オリンピック委員会(JOC)が設置した調査チームが9月1日に公表した報告書が示した内容である。

JOCの調査チームは、

メンバー
早川吉尚(座長 立教大教授、弁護士)
宍戸一樹(弁護士)
久保恵一(公認会計士)

オブザーバー
松丸喜一郎(JOC常務理事)
和久井孝太郎(東京都審理担当部長)

で、厳密な意味での「第三者」でない。

身内が含まれていることは、調査が「第三者の厳しい目」で行われなかったことを示唆している。


招致委員会が五輪開催地決定に影響力を持つ海外の有力者に金品を贈呈し、

その結果として五輪招致が実現したとしても、

日本の法律は、基本的に公務員に対する金品の供与が贈収賄の対象になるから、

もともと違法性が問題になる可能性は低いと見られてきた。

しかしながら、フランスにおいては、民間人同士の賄賂のやりとりについても

贈収賄罪が成立するとされることから、問題はフランス警察当局の取り調べのなかで顕在化してきたものだ。

フランス当局が賄賂認定をすれば、IOCは東京招致を取り消すしかなくなるだろう。

判断するべきことは、日本の法律に照らして違法性があるかどうかではなく、

五輪招致活動として適正なものであったのかどうかである。

五輪招致が活発に行われるのは、日本でスポーツの祭典を開催しようという純粋な動機に基づくものでない。

各関係者の欲得、金銭的な利害動機から行われているものである。

五輪はすでに商業イベントと化しており、放映権、スポンサー料を中心に巨大ビジネスと化している。

安倍晋三氏とNHKは、五輪を

「国威発揚」

のために利用することを最重視している。

五輪招致には不透明な巨大資金が動き、その資金から甘い蜜を吸うシロアリも群がる。

いまや五輪は利権の巣窟である。

スポーツ各界の関係者は五輪開催によって政府の補助金が増額されることを目指す。

純粋にスポーツに打ち込むのではなく、

スポーツをネタにして巨大な資金を獲得することが目的化しているのである。


ちなみに、

『雑談日記(徒然なるままに、。)』さまが、極めて重要な事実を伝えてくれている。

「「国威発揚」の五輪憲章真逆解説にも腰を抜かしたが、
くだんの刈屋富士雄 解説委員の『時論公論』頁が改竄されてて再度ビックリ。」

http://soba.txt-nifty.com/zatudan/2016/08/post-8322.html

8月23日付の本ブログ、メルマガ記事

「国威発揚五輪とあべさまのNHKはどちらもいらない」

http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2016/08/post-e19c.html

で触れた、

NHKによる「五輪開催意義は国威発揚にあり」報道

について、そのNHKが密かに放送内容の改竄を行っていたことを、上記記事が暴露したのだ。

8月22日朝の22日朝のNHK「おはよう日本」で、

「リオ五輪成果と課題」を解説したNHK解説委員の刈谷富士雄氏が、

「五輪開催5つのメリット」

として、

<1>国威発揚
<2>国際的存在感
<3>経済効果
<4>都市開発
<5>スポーツ文化の定着

を挙げたのだが、この一番目の「国威発揚」が五輪憲章にも明らかに反する問題解説だった。

この点に対する批判が一気に広がると、NHKはウェブサイト上の解説ページを、断りなく改竄したのである。

改竄後の解説では、上記の5つが、

<1>国際的存在感
<2>経済効果
<3>都市開発
<4>スポーツ文化の定着
<5>国民を元気に

に改竄されている。

すでに放送したものを訂正するなら、何らかの訂正報道が必要である。

「謝罪と訂正」なく、このようにすでに放送が終了したものについて改竄することは許されることでない。

なお、本題から外れますが、月初にあたり、

有料メルマガについてもご購読のご検討を謹んでお願い申し上げます。


JOCが実施した調査について、東京新聞(中日新聞)は次のように伝えている。

「調査チームは34人の関係者にヒアリングをした。

しかし、2億円余を支払ったコンサルタント会社「ブラックタイディングス(BT)」代表イアン・タン氏や、

国際陸上連盟会長でIOC委員(ともに当時)のラミン・ディアク氏へも連絡を試みたが、

「何ら返答を得ることができなかった」。

またディアク氏の息子で、タン氏と親交のあったパパマッサタ氏は、

ヒアリングを受ける可能性がある旨の回答が来たが、「連絡を取ることができなくなった」。

欧州メディアは、パパマッサタ氏がパリで高級時計など1600万円相当の買い物をし、

1000万円相当の代金をBT社が振り込んだと報道していたが、報告書では事実関係への言及はなかった。

タン氏がどのようなロビー活動をしたのか、IOCの投票行動にどう結びついたかは、

「タン氏に直接聴取できていないため、不明というほかない」とされ、

五輪招致にタン氏がどういう役割を果たしたかは不明のままだ。

招致委がBT社に払った二億円余の額は妥当だったのか。

報告書は、タン氏から「言い値」で提示された二億円余は「想定予算を大きく超えるもの」で

「事務局長らとしては抵抗があった」と指摘した。

招致委が計11人のコンサルタントに払った平均額は1人約1億円で、BT社へは倍以上。

それでも報告書は「相対的に高額という事実だけから不当だとはいえない」と結論づけた。

理由として「タン氏との交渉を経て、九千万円を基本的な契約金額とし、

招致が成功した場合に限って一億三千万円余を上限に成功報酬を支払う条件にまで『押し戻し』た」と、

契約を二分割した交渉を評価。

招致決定後の13年10月に結んだ支払契約書には「成功報酬」の記載はなかった。

報告書は「あくまで口頭での合意にすぎなかったため」と指摘、契約や手続きの不透明さに言及した。」


読んでみれば分かるが、「調査」と呼べる代物でない。

何も調べられず、民間人への賄賂の提供は日本では違法ではないから「違法でない」としただけのことだ。

問題は、民間人に賄賂を贈って五輪を招致することが適正であるのかどうかについて判断することだ。

五輪招致資金に国民資金が含まれていないなら、少し議論が変化する余地があるが、

五輪招致資金には血税が含まれている。

その血税が賄賂に充てられることを、日本の納税者は了承しない。

「五輪招致」

の名目で、血税が、関係者の私腹を肥やすために使われるということなのだ。


賄賂を渡さなければ五輪招致など実現しないとの反論があるかも知れないが、

そんな五輪なら招致する必要など皆無だ。

安倍政権とNHKはメダル獲得競争が五輪の最大の目的であるかのような言動を示しているが、

五輪憲章が明記するように、オリンピック=五輪は国家の競争の場ではないのだ。

誰が勝ってもいい。

外国の選手が勝てば外国の選手を褒め称え、日本の選手が勝てば日本の選手を褒め称えればいい。

また、負けてもスポーツマンシップに則り、堂々と力を尽くすなら、その精一杯の努力に惜しみない拍手を贈る。

これが五輪ではないのか。


ところが、現実は

「五輪」

をネタにして、

私腹を肥やすこと

だけを考えるシロアリ、ダニ、蛆虫のような者が多すぎるのだ。


JOCの調査は調査と呼べる代物でない。

「コンサルタント料」

の名目で支払われた金銭が、どのような費用であるのかの細目を示す必要がある。

その資金が「民間ベースの賄賂」に該当するなら、日本は五輪開催を返上するべきだ。

フランス当局には政治的な圧力を跳ね返して、適正な捜査を実行してもらいたい。

「スポーツ」を「ネタ」にして利権をむさぼる行為そのものが、オリンピック精神に基本的に反するものである。

この意味で、現代版の五輪そのものが五輪憲章から外れたものになっていることについての

根本的な論議が求められていると言える。

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