★世界の多数の国が核兵器の廃絶に向かって動くのに日本は米国に隷属しこれに加わらない。
そして存在しない「核の傘」の論を振りまく。-(孫崎享氏)

A事実関係「核兵器禁止条約に向けた報告書採択 日本は棄権 朝日新聞8月20日

核兵器禁止条約に向けた報告書採択 日本は棄権

スイス・ジュネーブで開かれていた国連核軍縮作業部会は19日(日本時間20日未明)、

「核兵器の法的禁止を協議する会議を2017年に開くよう国連総会に勧告することに、

広範な支持が寄せられた」とする報告書を賛成多数で採択した。国連総会の場で、

核兵器禁止条約づくりに向けた議論が初めて本格化する。

 報告書は、国連加盟国(193カ国)の半数超の約100カ国が支持、と記している。

一方で、日本や韓国など米国の「核の傘」の下にある国々など「特に24カ国」が

「勧告に同意しなかった」と明記した。

 議長国のタイは全会一致を目指してきた。だが、双方の立場の溝は深く投票となり、

メキシコやオーストリアなど68カ国が賛成、22カ国が反対、日本など13カ国が棄権した。

米国など核保有国は作業部会に参加しなかった。

B:評価

・日本は唯一の被爆国としてかつては核兵器廃絶の先頭に立っていた。

・しかし核兵器使用の選択を残したい米国の政策にれいぞくし、

世界の100以上の国が廃絶に向かい動く中、日本は棄権している。

・ここでもまた、日本は米国の「核の傘に依存しているからという論理が使われている。

「核の傘」はない。虚構である。日本人は早くこの虚構から脱するべきである。

本ブログの「“核の傘”など、はじめからありません。(『21世紀の戦争と平和』から)」を再掲する。

「日本は核の傘によって、ロシアや中国の核兵器から守られている」と言われるのを、私たちはよく耳にします。 

ここでいう「核の傘」とはなんなのでしょうか。

 もちろん、文字通りの「傘」が日本上空に漂っているわけではありませんし、

ロシアや中国が撃ってきた核弾頭ミサイルを撃ち落とすシステムがあるわけでもないのです。

日本を攻撃する中距離弾道ミサイルは、秒速二〇〇〇メートルから三〇〇〇メートル、

長距離弾道ミサイルにいたっては秒速七〇〇〇メートルの速度で落下してきます。

これを撃ち落とすことなど、現実的にありえないのです。

「核の傘」は次の手順を踏みます。

①特定の紛争で日本が中国に合意しないと、中国は日本に「核兵器を撃つぞ」と威嚇する。

②日本は米国に「中国から核兵器で脅迫されている。助けてくれ」と頼む。

③米国は中国に「日本を核兵器で脅すのを止めろ。日本を核攻撃したら、
その報復に中国の上海を核兵器で攻撃するぞ」と牽制する。

①→②→③→中国は上海を核兵器で攻撃されたらたまったものでないので、
日本に対する核攻撃の脅しを取り下げる。

 以上が「核の傘」と言われるものです。

 しかしこれが機能しない可能性があるのです。

①特定の紛争で日本が中国に合意しないと、中国は日本に「核兵器を撃つぞ」と威嚇する。

②日本は米国に「中国から核兵器で脅迫されている。助けてくれ」と頼む。

③米国は中国に「日本を核兵器で脅すのを止めろ。日本を核攻撃したら、
その報復に中国の上海を核兵器で攻撃するぞ」と牽制する。

④中国は米国に「上海を攻撃したら、米国本土のサンフランシスコを撃つぞ」と中国が応酬する。

 この④が発生するケースは十分にありえます。

 そういう可能性を踏まえ、米ソ間の戦略交渉の中心人物であった、

ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は代表的著書『核兵器と外交政策』(日本外政学会、一九五八年)
の中で「核の傘はない」と主張し、こう指摘しています。

 全面戦争という破局に直面したとき、ヨーロッパといえども、

全面戦争に値すると(米国の中で)誰が確信しうるか。

米国大統領は西ヨーロッパと米国の都市五〇と引き替えにするだろうか。

西半球以外の地域は争う価値がないように見えてくる危険がある。

「核の傘があるかないか」はきわめて重要なので、別の人物の発言も見てみたいと思います。

ドイツ生まれの国際政治学者ハンス・モーゲンソウの著書『国際政治』(福村出版、一九八六年)は、

米国の古典的リアリズムのバイブル的存在です。国際政治を研究する者で、

この本を手にしたことのない人間はまずいないというくらいの本です。

同書は核の傘について次ように言及しています。

 核保有国Aは非核保有国Bとの同盟を尊重するということで、

Cによる核破壊という危険性に自らさらすだろうか。

極端に危険が伴う時にはこのような同盟の有効性に疑問を投げかけることになる。

「核の傘」に疑問を呈しているのは学者たちのみではありません。

「米国が日本に核の傘を与えることはありえない」と発言した人物がいます。

元CIA長官のスタン・ターナーです。

 ターナーはアマースト大学、海軍士官学校卒、ローズスカラー(ローズ奨学生)
(歴代、米国の蒼々たる人物がこの栄誉をうけ英国オックスフォード大学に留学しています。
ナイ・ハーバード大学名誉教授、スーザン・ライス元米大統領補佐官、ビル・クリントン元米大統領、
アシュトン・カーター元米国務長官、リチャード・ハース外交問題評議会会長など)
としてオックスフォード大学に留学し、ミサイル巡洋艦艦長、NATO南部軍司令官、海軍大学校校長、
大西洋を所管する第二艦隊司令官を経てCIA長官となっています。
ミサイル巡洋艦艦長、NATO南部軍司令官、第二艦隊司令官として、
核兵器の実勢配備の責任者にあった人物です。

 一九八六年六月二五日付の読売新聞一面トップは、

「日欧の核の傘は幻想」「ターナー元CIA長官と会談」「対ソ核報復を否定。

米本土攻撃時に限る」の標題のもと、次の報道を行いました。

 軍事戦略に精通しているターナー元CIA長官はインタビューで核の傘問題について、

アメリカが日本や欧州のためにソ連に向けて核を発射すると思うのは幻想であると言明した。

 我々は米本土の核を使って欧州を防衛する考えはない。

 アメリカの大統領が誰であれ、ワルシャワ機構軍が侵攻してきたからといって、

モスクワに核で攻撃することはありえない。そうすればワシントンやニューヨークが廃墟になる。

 同様に日本の防衛のために核ミサイルで米国本土から発射することはありえない。

 我々はワシントンを破壊してまで同盟国を守る考えはない。

 アメリカが結んできた如何なる防衛条約も核使用に言及したものはない。

 日本に対しても有事の時には助けるだろうが、核兵器は使用しない。

 キッシンジャー、モーゲンソウという米国の安全保障・外交理論の第一人者たちが、

核の傘はないと明言し、米海軍第二艦隊司令官やCIA長官という重要ポストを経たターナーもまた

同じことを延べているのです。

 もちろん米国国務省員や国防省員は、日本を引きつけるために、あるいは有利な取引を得るために、

ある種のリップサービスとして「核の傘を提供しています」と過去に言ってきました。

おそらくこれからも言いつづけるでしょう。

 しかし米国が同盟国に「核の傘」を保証することが、米国の安全に重大な害を与える行為である以上、

「核の傘」は存在しないと考えるほうが現実的です。

 日本が集団的自衛権行使に踏み切るからといって、

米国は日本に有益な新たな取り決めはなにも行いませんでした。

ターナー元CIA長官が述べたことを覆すようなことは、なんら起きていないのです。

 第二次大戦以降、日本は非核三原則を貫いてきました。

その状況の中では、自衛隊員は、「本当は核を保有したいという願望があるのだろう」と

非難されることを恐れ、核理論を勉強してきませんでした。

リベラル勢力は「核兵器なんてとんでもない」と考えるばかりで、

それについて知ることさえもタブーにしてしまい、核戦略を勉強しませんでした。

 つまり、右も左も、核の理論を考えることを怠ってきたわけです。

しかしその背景には、前述の理由に加えて、

両者ともに「日本は米国の核の傘に守られている」という根拠のない油断を

同じく持っていたせいもあるのではないでしょうか。

 しかし核の傘など、はじめからなかったのです。

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