★尖閣問題を考える②。
尖閣周辺で米中が戦う時、今や中国が優勢(ランド研究所)ー(孫崎享氏)

尖閣問題を考える②法律論を越えて、軍事バランスの観点から、

米国は尖閣諸島をめぐり中国軍と戦うことはあるでしょうか。

実は尖閣諸島周辺では中国が優位に立っています。

ランド研究所は、カリフォルニア州サンタモニカに本部を持つ米国屈指の軍事研究所です。

ランド研究所に関連した人々のリストを見れば、その影響力の大きさがわかります。

ヘンリー・アーノルド(ランド創設者):原爆投下時の元空軍司令官
ドナルド・ウィリス・ダグラス(ランド創設者):ダグラス・エアクラフト社社長
ケネス・アロー : ノーベル経済学賞受賞
ハーバート・サイモン: ノーベル賞経済学賞受賞
ポール・オニール:元財務長官
ジョン・ナッシュ :ノーベル賞経済学賞受賞
ドナルド・ラムズフェルド:元国防長官
コンドリーザ・ライス:元国務長官
トーマス・シェリング:ノーベル経済学賞受賞
フランク・カールッチ:元国防長官
ハロルド・ブラウン :元国防長官
ウォルター・モンデール:元副大統領

このランド研究所が二〇一五年、「アジアにおける米軍基地に対する中国の攻撃
(Chinese Attacks on U.S. Air Bases in Asia、An Assessment of Relative Capabilities, 1996–2017)」
と題したレポートを発表しました。主要論点は次の通りです。

○中国は軍事ハードウエアや運用能力において米国に遅れを取っているが、
多くの重要分野においてその能力を高めている。

○中国は自国本土周辺で効果的な軍事行動を行う際には、
米国に挑戦するうえで全面的に米国に追いつく必要はない。

○特に着目すべきは、米空軍基地を攻撃することによって米国の空軍作戦を阻止、低下させる能力を
急速に高めていることである。

○一九九六年の段階では中国はまだ在日米軍基地をミサイル攻撃する能力はなかった。

○中国は今日最も活発な大陸間弾道弾プログラムを有し、
日本における米軍基地を攻撃しうる一二〇〇のSRBM(短距離弾道ミサイル)と中距離弾道ミサイル、
巡航ミサイルを有している。

○ミサイルの命中精度も向上している。

○滑走路攻撃と基地での航空機攻撃の二要素がある。

○台湾のケース(実際上は尖閣諸島と同じ)は嘉手納空軍基地への攻撃に焦点を当てた。
台湾周辺を考慮した場合、嘉手納基地は燃料補給を必要としない距離での唯一の空軍基地である。

○二〇一〇年、中国は嘉手納基地攻撃で嘉手納の飛行を一〇日間閉鎖させることが可能であった。

○二〇一七年には、中国は嘉手納基地を一六〜四七日間閉鎖させることができる。

○ミサイル攻撃は米中の空軍優位性に重要な影響を与える。それは他戦闘分野にも影響を与える。

○空軍を多くの基地に分散させるなどして、中国の攻撃を緩和することができる。

○米中の軍事バランス
台湾周辺 南沙諸島
一九九六年 米軍圧倒的優位 米軍圧倒的優位
二〇〇三年 米軍圧倒的優位 米軍圧倒的優位
二〇一〇年 ほぼ均衡 米軍圧倒的優位
二〇一七年 中国優位 ほぼ均衡

 尖閣諸島の軍事バランスについては、空軍力がもっとも重要です。

仮に米軍機が中国軍機よりはるかに勝っていたとしても、滑走路を破壊されればもう終わりです。

さらに二〇一五年には次の動きがありました。

 一一月一九日付のロシア経済紙コメルサントは、

ロシアが最新鋭の戦闘機二四機を中国に売却する契約を結んだと伝えた。

国営防衛企業ロステクのチェメゾフ最高経営責任者(CEO)が同紙に

「対中供給に向けた長期間の協議が終了し、中ロは契約にサインした」と明言した。

 契約額は二〇億ドル(約二四〇〇億円)規模で、一機当たり八三〇〇万ドル(約一〇〇億円)の計算。

ロシアが最新鋭のスホイ35を外国に供給するのは今回の中国が初めて。

ロシアは中国によるコピー生産を警戒。協議は難航が伝えられたが、

今回の契約はウクライナ危機後に接近した中ロの軍事協力の象徴とも言えそうだ。

プーチン大統領は一七日、モスクワで会談した中国中央軍事委員会の許其亮副主席に対し

「ロシアは軍事協力を継続する意思がある」と表明したばかり。(モスクワ時事、二〇一五年一一月一九日)

スホイ35戦闘機 最大速度:マッハ2.25(高空)、マッハ1.25(地表付近)
航続距離:3,600km(高空)、1,580km(地表付近)
輸送距離:4,500km(ドロップタンク×2使用)
飛行高度:18,000m

スホイ35はF-15の最新モデルに匹敵するか、これを凌駕する。

中国は南シナ海や尖閣諸島周辺などで利用。南シナ海は225万平方キロと広大。
   航続距距離長いのが特徴。

 ランド研究所のレポートで述べているように、

尖閣諸島周辺の軍事バランスをみるときには全体を考える必要がありません。

尖閣諸島周辺において米国が空軍力で中国よりも弱体であることを認識しながら、

日本のために戦うでしょうか。戦いません。戦えないのです。

「尖閣諸島で米中が戦ったら、中国機は簡単にやられる」と思っている方も少なくないかもしれません。

たしかにそれは二〇〇三年あたりまでは正しい認識でした。

しかし変わったのです。この変化を理解している人がまだ日本には少ないようです。

それに対して、米国で重要な職にある政治家はこのランド研究所の結論を理解しています。

尖閣諸島で「中国がこれ以上を越えたら米軍が出る」というレッドラインは

ますます後退していっている、あるいは存在しなくなっていると見るのが妥当でしょう。

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