★尖閣問題を考える①。尖閣諸島で中国が攻撃した時、米国は出てこない。
(出典私の『21政治の戦争と平和、きみが知るべき日米関係の真実』より)-(孫崎享氏)

尖閣問題を考える時、ほとんどの日本国民は尖閣諸島で紛争時米軍が出てくると思っている。

制度設計では出ないようになっており、そのこと、ジャパンハンドラーのアーミテージや

オバマ大統領自ら発言し来ているが、日本人は依然かって読みして出てくる。

以下、私の『21政治の戦争と平和、きみが知るべき日米関係の真実』より

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「尖閣諸島を中国が攻撃した場合、日本は「防衛のための主体的責任を負う」立場ですから、

米国の援助は受けられないのです

ジョセフ・ナイ氏はハーバード大学教授でしたが、

一九九四年から九五年にかけて国防次官補(国際安全保障担当)を務めた人物です。

リチャード・アーミテージ氏は二〇〇一年から〇五年にかけて国務副長官を務めた人物です。

 両者は対日政策に深く関係しました。

ナイ氏は一九九五年に「東アジア戦略報告(EASR)」を作成しました。

アーミテージ氏は二〇〇〇年に「アーミテージ・レポート」と呼ばれる政策提言報告を作成しています。

 彼らは日本の防衛、とくに私たちの関心が高い尖閣諸島問題をどのようにとらえているのでしょうか。

両者による共著『日米同盟vs.中国・北朝鮮』(文藝春秋、二〇一〇年)にはこう記されています。

(菅首相)は自分で何を言っているのか理解できていないでしょうね。

 つまり、日米安保条約第五条に基づく、米国の責任を彼は理解しているとは思えないのです。

 いいですか。

 日本が自ら守らなければ、(日本の施政下になくなり、我々も尖閣を守ることはできなくなるのですよ)

 ここで、極めて重要なことを言っています。

 中国が攻撃してきたとき、最初の段階では米軍は出動しません。

「日本は日本の国民及び領域の防衛のための主体的責任を負う」状況です。

 そして自衛隊が破れ、中国が尖閣諸島を支配したとしましょう。

すると「施政権」は中国に移りますから、安保条約第五条の対象にならないのです。

「自分で何を言っているのか理解できていないでしょうね」と批判されているのは、

あの菅元首相だからだろうと考える人もいるかもしれません。

 ですが、この「日本が自ら守らなければ、(日本の施政下になくなり、

我々も尖閣を守ることはできなくなるのですよ)」という言葉を、

日本の政治家やマスコミや国民は、果たして理解してきたでしょうか。

皆、「自分で何を言っているのか理解できていない」レベルだったのではないでしょうか。

オバマ大統領は「尖閣諸島問題は米軍が軍事行動に踏み切るレッドラインではない」と述べています。

しかし日本のマスコミはそれを報じません

 二〇一四年四月二四日、安倍首相とオバマ大統領は首脳会談を行ったあと、

共同記者会見を開きました。ここでオバマ大統領はきわめて重要な発言をしています。

日本の新聞は「尖閣諸島は安保条約の対象になる」という部分だけ報じましたが、

米軍の軍事行動についても触れているのです。

 記者会見の席上でオバマ大統領は、日本の安全保障に関する米国の条約上の義務に疑問の余地はなく、

日米安全保障条約第五条は尖閣諸島を含む日本の施政下にあるすべての領域に適用されると

明言したうえで、尖閣諸島の領有権に関する最終的な決定について、

米国は特定の立場を取っていないことを強調しました。そして記者と次のような質疑応答をします。

記者:大統領が言っているのは、中国が尖閣諸島に何らかの軍事侵攻を行った場合、

米国が尖閣諸島を守るために軍事力の行使を考慮する、ということですか。

これは大統領が何らかの措置を取らなければならなくなるかもしれない(踏み越えてはならない)

レッドラインを再び引くことにはならないのですか。

シリアやロシアの場合と同様、米国と大統領に対する信頼が再び揺らぐことになりませんか。

オバマ大統領:まず、日米安保条約の締結は私が生まれる前なのですから、

私がレッドラインを設定しているわけでないことは明らかです。

日米同盟の条項について歴代政権が標準としてきた解釈であり、

日本の施政下にある領域は条約の対象とされています。

米国の立場に変わっていません。レッドラインも引かれていません。

米国は条約を適用しているだけです。同時に、首相にも直接言いましたが、

この問題をめぐって、日中間で対話と信頼構築ではなく、

事態を悪化させる行為を続けることは、大きな誤りです。

(在日米国大使館の資料より抜粋)

 オバマ大統領が尖閣諸島の問題で

「レッドラインも引かれていません」と述べたのはきわめて重要な意味を持っています。

「レッドライン」とは、その一線を超える行動を敵対国がとったときに米国は軍事行動に出る、

という境界線のことです。たとえばオバマ大統領は二〇一二年八月、

シリアのアサド政権に対して「化学兵器の使用や輸送に関してレッドラインを超えるな。

超えれば米国の軍事攻撃がある」と警告しました。

 しかし尖閣諸島問題に関してはレッドラインがない。

つまりオバマ大統領は

「中国がどのような行動を取ったら米軍が軍事行動に出るかという明確な基準はない」と述べているのです。

 少なくない数の日本国民は、中国が尖閣諸島に攻めてくれば、

米軍は自衛隊と一体になって戦うと思っています。

オバマ大統領はこれを明確に否定したのです。

それも東京で、首脳会談後の共同記者会見で述べているのです。

 日本でオバマ大統領のこの発言を把握している人はほとんどいません。

日本のマスコミはこの部分をほとんど報道しなかったからです。

日本国民の認識と、米国大統領の認識のあいだの隔たりはこうしてさらに大きくなっています。

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