★日本農業壊滅が目的のハゲタカ主導JA解体ー(植草一秀氏)

オリンピックの閉会式は現地時間で8月21日の夜、日本時間で8月22日朝になる。

夏の甲子園は順延がなければ8月21日に決勝戦が行われる。

国民の関心はオリンピックなどに引きつけられる。

オリンピックが終わると、もうすっかり秋の気配が漂ってくる。

夏休みも終わり、新たな局面が到来する。

安倍政権は9月中旬にも臨時国会を召集する予定であるが、

この臨時国会では2016年度第2次補正予算が審議されるとともに、日本のTPP参加が審議される。

安倍政権が8月2日に閣議決定した経済対策は28兆円規模と伝えられているが、

直接的な財政支出をもたらす資金量=真水は7.5兆円にとどまる。

しかも、そのうち3.5兆円は2017年度分であり、

今年度の財政支出は国と地方合わせて4.5兆円しか追加されない。

「見かけ倒し」経済対策である。

第2次補正予算は「お飾り」のようなもので、本腰が入っていない。

安倍政権が全力を投入するのは

TPP承認

である。

TPPを推進しているのは、グローバルに活動を展開する

強欲巨大資本であり、強欲巨大資本の指令に基づいて、安倍政権が日本での承認を目指す。

TPPが発効するには、署名から2年以内に交渉に参加している12ヵ国すべてで

批准手続きが完了することが必要である。

しかし、2年以内にこの手続きが完了しない場合でも、

1.12ヵ国のGDP合計の85%以上を占める

2.少なくとも6ヵ国が手続きを完了する

場合には発効する。

日本のGDPが17.7%、米国が60.4%を占めているため、

日米2ヵ国のいずれかがTPPを批准しなければ、TPPは発効しない。

このうち、アメリカはトランプ氏がTPPを承認しないことを明言している。

クリントン氏は表向きTPPに慎重姿勢を示しているが、

実態としては、条件付き賛成のスタンスであると推察される。

オバマ大統領は新大統領が就任する2017年2月までの間に、

米国のTPP批准を強行する考えを有していると見られる。

しかし、上下両院で多数勢力を有する共和党のライアン下院議長は、8月4日に、TPP協定について、

「国内の反発が強い項目の修正が必要だとして、

現状のままでは、オバマ大統領の残された任期に議会で採決しない」

との考えを明らかにした。

米国が批准しなければTPPは発効しない。

米国のTPP審議は2017年にずれ込む可能性が高く、

新大統領にトランプ氏が就任する場合には、米国のTPP承認の可能性は極めて低くなる。

この状況下で、日本が秋の臨時国会でTPPを承認する必要性は存在しない。


安倍首相が8月3日に実施した内閣改造は、

TPPシフト

と呼べるものである。

安倍首相は石破茂氏を農水相に起用しようとしたが石破氏に断られて断念した。

代わりに安倍氏が起用したのは石破氏側近の山本有二氏である。

経産相には世耕弘成氏が起用された。

また、農水省の副大臣と政務官4人のうち3人が経産省元官僚が占めた。

農水省が経産省に支配され、TPP推進に舵が切られている。

内閣人事局が設置され、各省庁の幹部人事を内閣が支配することになった。

官庁人事は菅義偉官房長官、さらに、安倍首相が直接支配する体制が整えられた。

このこと自体、「官高政低」を是正し、「政治主導」の行政を実現するために悪いことではないが、

問題は「政の質」である。

「政の質」が悪ければ、「政高官低」の人事運営は悪い結果しか生まない。

「政の質」が良いか、悪いかは、主権者が判定するべきことだが、

「日本をハゲタカ資本に売り渡すべきではない」

との立場に立つ限り、現在の安倍政権の「政の質」は著しく不良なものである。

安倍政権は「究極の売国政策」である「TPP参加」に突き進む体制を整えている。

この「売国政策」を阻止するということは、即ち、日本のTPP批准を阻止するということである。

8月20日、秋の臨時国会でのTPP阻止に向けて、新たな国民運動がキックオフされる。

「TPPを批准させない!全国共同行動8.20キックオフ集会」

http://chikyuza.net/archives/65269


農水省では2016年夏の人事で、

経営局長の奥原正明氏が事務次官に起用された。

昨年8月に事務次官に起用されたばかりの本川一善氏が更迭され、

同期の奥原氏が突如、次官に起用された。

首相官邸が強行した人事である。

次官に就任した奥原氏は農協解体を推進する原動力となると見られる農協法改定を推進した人物である。

新農協法は農協=JAグループを狙い撃ちにして、農協の解体、弱体化を狙うものである。

自公政権が強大化しているため、農業関係団体の幹部が自公勢力に丸め込まれており、

農協解体を推進する政策が激しい勢いで策定されている。

真実を洞察する農業関係者はこうした動きに反応して反対運動を展開しているが、

多くの農業従事者は真実を十分に見抜けぬまま、

政治的に丸め込まれている農業関係団体幹部の動きに引きずられてしまっている。

現在、日本の農業を支えている中心にJAが位置している。

JA=農協は協同組合事業であり、非営利であり、

金融事業を含む総合事業を行っていることで、活動の財務基盤を確保している。

日本農業を簒奪しようとするハゲタカ資本にとって目障りなのがJA=農協なのである。

全国各地に根を広げるJAは、まさに「地産地消」、「安心・安全」の農業を展開する中核である。

この協同組合事業を財務的に支えているのが、

信用事業



共済事業

である。

これらの事業は「非営利」であるために、

組合員に対してコストパフォーマンスの高い保険商品等を提供できている。

全国各地で活動が展開されている生活協同組合事業と極めて類似した構造である。


日本からの収奪を目論むハゲタカ勢力は、

日本農業を収奪するためには農協=JAの破壊、解体が必要であると判断している。

そのために、JAから信用事業と共済事業を奪うことを目論んでいる。

JAの信用事業によって獲得した資金は、農林中央金庫に上納されているが、

この農林中央金庫がリーマンショック時の巨額損失などで存立不能の状況に陥った。

この農林中央金庫が自己の存続のために、JAを切るという行動に進みつつある。

JAの事業から信用事業と共済事業を切り離してしまうと、

この農林系の信用事業、共済事業そのものが、ハゲタカの恰好の餌食になる。

ハゲタカは日本の郵政マネー、年金マネー、そして、農林系マネーを収奪の対象として

狙いを澄ましてきているのである。


さらに、JAから信用事業と共済事業を切り離してしまえば、JAは単独で存立不能になる。

この存立不能になったJAを株式会社組織に組み込んで、

ハゲタカ株式会社の全国各地の営業所に組み替えることが目論まれている。

日本の農業をハゲタカに売り渡す。

JAをハゲタカに払い下げる。

このような暴政が、いままさに展開されようとしている。

ハゲタカは日本国民の幸福など、寸分も考えていない。

考えているのは、ハゲタカの利益、リターン、ROEだけなのだ。


日本の国民は

食糧の自給ができなくなり、

地産地消の生活ができなくなり、

地域農業、地域の田園風景を守ることができなくなる。

農業は株式会社運営の下に置かれ、

利益追求至上主義が幅を利かせ、

食の安全、食の安心も完全に消える。

種子も農薬も、農業機材も、すべてがハゲタカ資本に管理されることになる。


TPPで流通する農林水産物の価格が多少下がるとしても、その裏側で、

安全な食を確保する道は消え、

日本の食糧自給体制は完全に崩壊する。

地域の共同体も完全に消滅することになる。

日本農業を守ってきた中核がJA=農協である。

効率が悪い部分は是正すればよい。

しかし、JAそのものを解体、破壊することは、日本農業そのものを解体、破壊することである。

農業従事者は農業関係団体の幹部が自公政権に丸め込まれて、

大多数の農業従事者を苦境に追い込む道に突き進んでいる現実を知るべきである。

そして、実際の農業の担い手である農業従事者が、

ハゲタカ主導のJA解体論=JA破壊論に突き進む、丸め込まれた農業関係団体幹部に対して、

明確に反旗を翻すべきである。

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