mina_kohno

甲埜美南 · @mina_kohno

25th Jul 2016 from TwitLonger

うーん……なかなか難しいな。もやもやと、書きたいものはある気がするんだけど。


「もしかして、見えるようになったのかな」
「……どうして、そう思うんですか?」
私が部屋に入ってきた彼女を見て、挨拶代わりに声をかけると、元々くりっとしている大きな目をさらに丸くして驚いた。その反応は予想していたものとはやや異なる。
おや、単にカマをかけただけだったのに、意外と当たりだったのかもしれない。だとするとそれはまた新しい症例だ。モニタに戻しかけた視線を彼女に留めたまま、今度は身体ごと向き直ってきちんと話を聞こうとする。
居住まいを正した私の様子を見て、彼女は慌てふためいて、手を振りながら否定する。
「違います、見えてないです」
「なんだやっぱり。ちょっとだけ、驚いたよ」
彼女の胸元――大きくはだけられた服から覗く真新しい半球状のレンズと、その中で息づく白い小さな花を、私は見ていた。
「見えているなら、きっとこんな真似はしないからね。自傷癖があるというのなら別だけど」
レンズの縁に挟まれていた数枚の葉を裡に戻してやる。葉に触れた瞬間、ぴくりと彼女の身が揺れたけれど、それはただの生理反応だ。微か過ぎて、彼女自身が知覚できないくらいの。
「……それではどうして、急にそんなことを言いだしたんですか、先生は」
互いに身なりを整えて、向き合う。彼女が来る前に予め用意してあった、濃い目のミルクティを渡すと、ほう、と一息ついて、彼女が改めて切り出してきた。
「わかっている癖に」
私をかかりつけ医にしている目の前の少女との付き合いは、もうそれなりに長い。
彼女が聡明なことは、きっと彼女以上によくわかっている。あの子のように。
にこりと笑いかけると、予想通り彼女の視線が胸元へ落ちる。そっとレンズに触れた手付きは、恋人に触れるそれのように柔らかだった。
「それじゃあ、診察を始めようか。まあ、いつも通りカウンセリングもどきの雑談なんだけどね」
そう言って肩を竦めると、私の胸元でヘリオプシスが手を振るようにかさりと揺れる。遠くない未来、彼女が私を必要としなくなることを予感して。

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