★それでもアベノミクスのエンジンを吹かせるのかを徹底吟味すべきー(田中良紹氏)

英国のEU離脱が決まったことで為替市場は円高が継続する見通しとなった。

円安・株高を演出してデフレから脱却しようとしたアベノミクスは転換を迫られる事態である。

それはとりもなおさずこの参院選での自公のスローガン「アベノミクスのエンジンをさらに吹かせる」を

変更しなければならないと考えるのが常識である。

何をどう変更するのかと思っていたら自公は「政治の安定」を言い出した。

危機が訪れたから「政治の安定」が必要というわけだ。

この「政治の安定」は公明党が選挙のたびに使ってきた言葉である。

自民党との連立、とりわけ思想的に水と油の安倍自民党との協力関係を支持者に納得させるには

「政治の安定」を前面に押し出す必要があった。 

第二次安倍政権になってからはなおさら、

「民主党政権のように政治が不安定になるのはもうこりごりでしょう」と言って

民主党のマイナスイメージを思い出させれば、

自民党と協力する方がまだましと支持者に思わせることができる。

それを公明党が言い出すのは定石通りだが、

安倍総理も選挙演説で「政治の安定」を言い出したのを見ると、

フーテンにはまたまた公明党におんぶにだっこの参院選という印象が強くなる。

ところで参議院選挙は自公の候補者が全員落選しても政権交代にはならない選挙である。

もちろんそうなれば安倍総理は責任を問われ、他の誰かに総理の座を譲らざるを得なくなるが、

しかし自民党の誰かがアベノミクスを修正してこの危機を乗り切れば、「政治の安定」が損なわれることはない。

したがって自公への投票が減れば「政治の安定」が損なわれると思わせるのは、

無知な国民に無用の恐怖感を植え付ける心理作戦以外の何物でもない。

あの英国の国民投票や米国のトランプ現象と共通する「理性ではなく感情」に訴えて恐怖をあおる

ポピュリズムの手法である。

すでに年初以来の円高基調によってトヨタ自動車の豊田章男社長は経済の「潮目は変わった」と発言した。

にもかかわらず安倍政権は「アベノミクスのエンジンをさらに吹かせ」ることで

「変わった潮目」を再度引き戻そうと考えた。

ところが今回の英国の国民投票は「変わった潮目をますます変える」方向に向かわせるのである。

アベノミクスのエンジンをどうするのかを安倍政権は責任をもって答えなければならない。

それでもエンジンをさらに吹かせるのか、それともエンジンを止めるのか、

あるいはエンジンを取り換えるのか、これが参院選で示されなければならない。

政府は連日会議を開き、

英国のEU離脱が国民生活に悪影響を及ぼさないように万全の構えを見せるという

パフォーマンスに明け暮れているが、

これも無知な国民を洗脳するためのポピュリズム政治の一環に過ぎない。

「あれもやります」「これもやります」と言うのは言うだけならバカでもできる。

選挙で問われているのは、

与党が「アベノミクスのエンジンをさらに吹かせる」とした公約をどうするのかである。

それを曖昧にしたまま「政治の安定」とか口先の約束を並べてみても意味はない。

日本記者クラブは参院選公示の前日に党首討論会を開催したが、

それは英国の国民投票が行われる前であった。

そこでは安倍総理が「アベノミクスは失敗していない」と延々説明していたが、

それならば世界経済を不透明にする英国のEU離脱の投票結果を受けても

「失敗していないからエンジンをさらに吹かせるのか」を問いただす必要がある。

日本記者クラブには再度討論会を開催するよう要求するとともに、

各メディアも候補者全員に対し、世界史に残る出来事が起こったことを受けてそれをどうとらえているか、

またアベノミクスのエンジンを吹かせるという与党の主張の是非とその理由などを取材して公開すべきである。

日本の選挙の問題点は国民に考える十分な材料と時間を与えないことだ。

先進各国と比べて選挙期間は短く、どの国でもやっている戸別訪問を禁止し、

配布される文書などが厳しく規制されている。

そのため国民が多角的に候補者の主張を吟味することができない。

それが国民の判断をムードに流されやすくし、また顔の知られた現職が有利になる原因でもある。

2005年の郵政選挙や2009年の政権交代選挙は国民がムードに流されて投票率も上向き、

それぞれ自民党と民主党に圧倒的な議席を与えたが、

国民が十分に吟味したうえでの判断だったとはいいがたい。

その反動からかその後は投票率が下降の一途をたどり、第二次安倍政権になってからは

戦後最低の投票率を更新している。

メディアが「一強」という安倍自民党の議席数は国民が選挙に行かない結果に過ぎないのである。

それを上向かせて国民の本当に意思を探るためにも、

「危機には政治の安定」とかいう情緒的な判断ではなく、

安倍政権が推し進めてきたアベノミクスがこの世界情勢の中でも太刀打ちできるという主張を

徹底吟味すべきである。

世界ではとっくに「アベノミクスは失敗」が常識になっているが、

それでも「失敗でない」と言い張る総理のオツムの中を照らし出さなければこの参院選の意味はない。

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