★NHK政治部とは?
政権が不利にならないよう情報管理、他部局記事に異議、
強引に介入厭わぬ集団 元NHKプロデューサー津田正夫氏ー(孫崎享氏)

今日、NHKは安倍首相の広報機関に成り下がった。

 それは大いに、安倍政権、自民党の圧力による。

 さらにNHK会長に籾井 勝人氏が指名されこの動きが加速された。

 しかし、この動きは、安倍首相の一方的な圧力だけでできたものではない。

NHK側にこれを受容する動きがあってのことだ。

元NHKプロデューサー津田正夫氏は『みなさまのNHK』(現代書館六月二五日発売)で、

NHKサイドの動きを分析している。貴重なので抜粋する。

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・安倍政権が「放送の停波」「沖縄の新聞廃刊」などの言葉を振りかざして、

批判的なメディアを威圧して服従をせまり、

TBS以外の放送局が次々沈黙していく風景が繰り返される。

戦後営々と築いてきた平和、人権、言論・表現の自由、検閲の禁止といった憲法に示された公共的土台が

ガラガラと崩れていく。公共放送のNHKのニュースから、炉心溶解のように公共性が溶け出し、

政治的広報機関に再編されていく。

 しかしよく考えれば、ジャーナリズム内部の崩壊が進んだ結果、なるべくしてなっているのでないか。

・1980年代こそはテレビジャーナリズムの内部崩壊の一つの転換期であったのではないか。

80年代は新自由主義やグローバリゼーションをキーワードにして、

グローバリズムが巨大な姿を現してくる時期だ。

職場の慣習や環境も、ジャーナリズムの倫理と論理も根本から変質していった。

・特権的な正義論、既得権に寄り掛かったジャーナリズムが

ジャーナリストの腐敗をおびき寄せてきたのではないか。

・テレビにもタブーがある。問答や解釈を許さない社会の恥部だ。

特に今のNHKは政権の意向に敏感で、

日米関係や安全保障問題、原発再稼働、震災復興の欠陥、TPPや閣僚の不祥事など、

要するに政権が嫌う微妙な問題を“リスク案件”と言い換えて新たなタブーを生み出している。

 企業ジャーナリストは地雷のようなリスキーなテーマに近づかないよう、日常的に教育されている。

 タブーはひそひそ話で伝わっていく。

 独裁的な権力が支配する社会などで、権力との争いを避けてタブーが出る。

・私(著者)は大垣長徳寺に唐代の梵鐘があるのを、

戦時中近衛部隊が中国から持ち帰ったのでないかと追及始めた時に、

「インタビュー中止せよ」の指示。背後に報道局政治部の影がチラチラ。

・NHKはおおざっぱに「報道局」と「制作局」

 「報道局」は記者を中心に原稿を出稿する「取材センター」とニュース原稿や映像を組み立てる

「ニュース制作センター」等に分かれる、

 「取材センター」の記者達は政治部、社会部等に分かれる。

 政治家・政権・官庁との距離が近く、影響力も大きい政治部は。伝統的に保守的である。

 第一義的に政権を意識して原稿を書いているといっていい。

社会秩序や治安を優先している集団とでもいうか、

政権が危険・不利なことにならないよう情報を管理し、

しばしば他の部局が書いた記事に異議を唱えたり、強引に介入することも厭わない集団である。

・「NHKの保守主義」はどこからきているか。

 第一に1915年に制定された無線電信法第1条に

「無線電信、無線電話は政府之を管掌す」とあり、

電波はスタートした時点から国家が管理するという前提だった。

 第二に戦後NHKが再出発する時、生き残っている逓信省官僚や政治家の強い中核があり、

民主化を求めるGHQと対立した。

 結局戦後体制の中で政権党が放送局支配の中核である電波管理権を掌握してきた。

 第三にNHkにとっては政権の意向に沿うことで、

受信料値上げや国会でのNHK予算・決算の承認に直結しているという放送制度の構造がある。

 第四にロッキード事件報道など権力との確執や報道局内の主導権争い等のトラウマから

政治的な無関心を装う管理職が多数を占めてきた。

 面倒な議論を避け、相互監視と思考停止状態の相乗効果が、全局的に政治的沈黙をもたらした。

 第五に(これが最も重要なことに思えるが)職員の採用が、既得権層出身者に偏っていることだろう。

有名大学卒業生(ほぼイコール高所得層)等が採用されている。

先輩、上司から「社会運動には近寄るな」「アカの集まりにいくな」とのアドバイスを繰り返し受けて育った。

 こうした重層的な電波行政とそれに育成されてきたNHKの歴史と構造によって、

基本的にNHKの保守的な土壌が作られ再生産されている。

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