★舛添辞任が大政局になってきた背景に権力の暗闘を感ずるー(田中良紹氏)

フーテンが「泡のような政治家の泡のような金の話」と書いた舛添要一東京都知事の進退問題が

参議院選挙と絡んで大政局の様相を帯びてきた。

舛添氏の動きは安倍政権内部の力関係にも影響を与える可能性がある。

安倍政権にとって選挙へのマイナス影響を避けるには、

アメとムチを使って舛添氏を辞任に追い込む必要がある。

表ではムチを使うが裏ではアメも用意する。

一方、舛添氏は解散権をちらつかせながらアメの値段をつり上げる。だから簡単に応じない。

しかしぎりぎりになってもし舛添氏が辞任を申し出れば、アメが舛添氏の思い通りになったことを意味する。

しかしこれは裏の話であるから決して表には出てこない。

だから政治を見るときに国民は目の前の動きだけで判断するのではなく、

過去からの流れを見て、また長いレンジで政治を観察する必要がある。

前にも書いたが舛添氏の公私混同疑惑は驚くような話ではない。

他の政治家も多かれ少なかれやっている「よくある話」である。

舛添氏は政界の先輩たちを見習って同じことをやったに過ぎない。

金額的にはむしろいじましいレベルである。

ただ舛添氏が他の政治家と違うのは、学者であるからやり方を研究し尽くし、

他の政治家が後ろめたさを抱きながらやることを、自信をもってやったことである。

かつて竹中平蔵という経済学者が住所を海外において節税していることが暴露された。

しかし本人は全く悪びれない。

経済学者の中には合法的に税金を払わない手法を研究する人間が少なくなく、

彼らにとってはむしろ自慢なのだ。

それと同じで政治学者舛添要一は、政治家になったとたんに政治資金規正法を研究し、

何が違法で何が合法かを知ったうえで、政治資金を私的なことに使う手法を磨いてきた。

だから悪いとは思っていない。したがって暴露されても頭を下げない。

それが今回は裏目に出た。

メディアを挑発するかのように舛添流の理屈を並べられれば、

ぼんくらのメディアも反論したくなる。

その一方で舛添知事を退陣させようとする勢力がいてそこからの情報がメディアに流れる。

その相乗効果で問題は収拾しにくくなった。

フーテンは30年ほど前の舛添氏を知っている。まだ東京大学教養学部助教授の時代である。

政治家、官僚、学者、ジャーナリストで構成された勉強会のメンバーとして、

日本の政治課題を議論するため箱根の温泉旅館に合宿した時に一緒だった。

舛添氏はフランス留学の話をしていたが、中身は専らフランス女性の話だけだったのを覚えている。

その後、テレビに登場するや一躍人気者となり、東大を辞めて自前の研究所を持ち、

勉強会にも全く顔を見せなくなった。保守の論客としてテレビで活躍していたが、

2001年の参院選に当選して参議院議員になると、

当時の政界実力者野中広務氏や参議院のドンと呼ばれた青木幹雄氏に接近した。

したがって第一次安倍内閣で初入閣しても安倍総理とはそりが合わない。

2009年の総選挙で自民党が惨敗し、

民主党政権が誕生すると自民党執行部を批判して自民党を離党し、

新党改革を結成して代表に就任する。自民党はこれを反党行為として除名処分にした。

それが2014年の都知事選挙に出馬し自公両党から推薦を得たのは、

公明党と菅官房長官の後押しが大きかったからである。

この選挙では小泉純一郎氏が推す細川護熙氏が「脱原発」を訴えて出馬し話題を集めたが、

結果は第3位と振るわず、共産党と社民党が推す弁護士の宇都宮健児氏が2位となり、

舛添氏は宇都宮氏の倍の得票というダントツの勝利だった。

それがここにきて自公も舛添都知事不信任案提出の運びとなった。

来月の参院選や来年の都議選を心配しだしたからである。

しかしここで都知事選挙が行われれば2020年の東京オリンピックの時期に

再び都知事選挙が行われることになる。

自民党はそれを避けるため秋までの舛添続投を約束していた気配がある。

それが自民党内の権力闘争のあおりか、あるいは公明党に引きずられたためか、

直ちに舛添辞任を求める姿勢に変わった。それに舛添氏は反発している。約束が違うということである。

したがって舛添問題はただの公私混同スキャンダルではなく、

安倍政権を取り巻く力関係に変化の兆候が現れた、その変化を背景としているとみるべきである。

安倍総理がダブル選挙を見送った背景には麻生副総理との盟友関係に亀裂が生じ、

菅官房長官や二階総務会長、そして公明党の影響下に安倍総理は置かれたと書いたが、

この舛添問題でも背景に秋までの続投を認めた一派と

すぐに辞めさせたい一派との暗闘がある気がしてならないのである。

それがどういう暗闘なのかはまだ判然としない。

舛添氏がどういう決断を下すかそれが終わってからでないとおそらくわからない。

しかし1年前にはなかった何かが動いている気配を感ずる。

そんな時にかつて舛添氏が師事した野中広務氏の自民党復党が報じられた。

参議院選挙での協力を得るためだという。これもその意味だけなのか。

それとも別の意味が含まれているのか、フーテンには気になる。

いずれにしても伊勢志摩サミットとオバマ広島訪問の外交成果、

それに消費税先送りに国民の関心を集めて参院選突入する安倍シナリオには狂いが出た。

国民はタックスヘイブンや日本年金機構の株式投資など巨額な金のごまかしには鈍感だが、

いじましい金額のごまかしには敏感なのである。

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