★米雇用統計・円高・株安への安倍政権対応の鈍さー(植草一秀氏)

7月10日の参議院議員通常選挙の重要な前哨戦になる沖縄県議会議員選挙が6月5日に実施され、

普天間基地の辺野古移設に反対する与党勢力が大勝した。

定数48に対して、与党勢力は現有議席の23議席に4議席を上乗せして27議席を獲得。

安定多数を維持した。

辺野古米軍基地建設に反対する議席は31となり、議席全体の6割以上を占めた。

辺野古米軍基地建設に反対する

「オール沖縄」勢力

の勝利である。

7月10日参院選では「オール沖縄」陣営が伊波洋一元宜野湾市長の擁立を決めて

自公勢力と一騎打ちの選挙戦を展開することが予想されており、

辺野古米軍基地建設を拒絶する沖縄県民の総意が参院選にどのように反映されるかが注目される。

安倍政権は5月末に開催された伊勢志摩サミットを政治利用して、

沖縄県議選、参院選での勝利を目論んでいるが、沖縄ではこの目論見がもろくも打ち砕かれた。

主権者の多数が

「安倍政治を許さない!」

の怒りの心情を膨らませている。

この思いを国政に反映させるためには、思いを共有する国民が連帯し、大同団結する必要がある。

その連帯、大同団結が実現するなら、日本政治は重大な転換点を形成することになるだろう。


6月1日に通常国会が終了し、安倍首相が記者会見を開いたが、

最大の注目点となった消費税再増税再延期について、

安倍首相が率直な謝罪の意思を表示しなかったことで、会見は失敗に終わったと言える。

「再延期はないと、はっきりとそう断言する」

とした消費税再増税の再延期。

消費税再増税に反対する主権者はほとんどいないが、

「再延期はないと断言」

した安倍首相が国民の納得できる説明もせずに、

「新たな判断」

だと開き直って消費税再増税再延期に進むことを、是としない。

6月1日の会見では、まず消費税再増税を再延期せざるを得なくなったことについて、

公約違反を真摯に謝罪したうえで、国民の理解を求めるべきだった。

ところが、安倍首相の説明は、

アベノミクスが成功しているとの自己宣伝が前面に出て、

消費税再増税再延期は世界経済のリスクが高まったことが原因であるとする、責任転嫁の主張だった。

このような政治姿勢を主権者国民がどう判断するか。

自己宣伝ばかりで、非を認めない、誠実な姿勢を欠く首相との印象を強めたと考えられる。


6月5日のNHK「日曜討論」では、アベノミクスの評価に多くの時間が割かれた。

安倍首相が6月1日の会見で、

「アベノミクスをもっと加速するのか、それとも後戻りするのか。これが来る参議院議員選挙の最大の争点である」

と述べたことを受けた時間配分だが、そもそもこの争点設定自体が間違っている。

「アベノミクス」

の内容はぶれ続けており、単に、安倍政権の経済政策の是非が問われるだけである。

また、これ以外に、

原発、戦争法、TPP、基地、格差

という重大問題があり、経済政策は主要争点の一項目に過ぎないからだ。

経済政策では

安倍政権は金融緩和政策を維持する一方、

財政政策は2013年が積極、2014年以降は超緊縮という右往左往の政策運営を進めている。

この是非を問う必要がある。

安倍政権が「成長戦略」と表現している構造政策は、

弱肉強食を推進する大資本の利益極大化を目的とする政策であり、主権者の賛否ははっきり分かれている。

その内容は1%の大資本の利益を極大化し、99%の一般労働者に不利益をもたらすものであるから、

主権者の大半にとってはマイナスになる施策である。

金融緩和の継続は将来的なインフレ招来の恐れを高めることから、

一般庶民にとってはやはり有害なものである。

安倍政権は参院選で想定外の敗北を喫する公算が高い。

そして、この参院選が日本政治大刷新の重大な転換点を形成することになると思われる。


6月3日の米国雇用統計で非農業部門の雇用者数増加が3.8万人にとどまったことで、

米国の利上げ観測が後退し、為替市場で急激なドル安=円高が進行した。

日本株価はドル円相場連動の推移を示しており、急激な円高で日本株価が急反落している。

安倍政権の実質的な起点になった2012年11月14日の党首討論。

この日のドル円レートが1ドル=77円、

日経平均株価終値は8664円だった。

これが2015年6月にかけて、大幅円安、大幅株高の変化を示した。

ドル円レートは1ドル=125円に、日経平均株価は20868円にまで上昇した

この2年半の期間、円安=株高が進行し、安倍政権の「上り坂」を形成したと言える。


しかし、

「禍福はあざなえる縄のごとし」

である。

2015年6月を転換点に潮流が転換した。

ドル安=円高が進行して、日経平均株価が下落に転じた。

安倍政権は「下り坂」に移行したのである。

円高傾向が生じる下では日本株価が下落しやすくなる。

安倍政権を支えてきた唯一の要因が株高だったが、この株高環境が崩れ始めたのである。


株高ではあったが、日本経済は沈んでいた。

これが安倍政権下の日本経済の最大の特徴である。

通常は株価変動と経済変動は連動するものである。

株価は「経済活動を移す鏡」の存在とも言われる。

ところが、安倍政権下の日本経済では、株価が上昇しながら、経済は停滞を続けたのである。

経済成長率の平均値は、

民主党政権下が+2.0%

安倍政権下が+0.7%

に急落した。

経済が悪化したのに大企業の利益だけが史上最高を更新。

株価だけが上昇した。

このことは、労働者の所得が大幅に減少したことの裏返しなのである。


したがって、株価が上昇してはいたが、

日本の主権者にとってはまったく望ましくない経済状況が持続したのである。

それでも株価上昇をアベノミクスの成果であるとマスメディアが宣伝するから、

アベノミクス成功という、事実ではないイメージだけがばらまかれていた。

しかし、為替レートの円高転換によって、唯一の頼みの綱である株高までが株安に転落した。

こうなると、安倍政権の基盤は一気に脆弱になる。


この状況を打開するには、財政政策を活用するしかない。

1996年6月から2004年4月までの期間は、

円高局面で株価上昇

円安局面で株価下落

の連動関係が観察されている。

この連動関係を形成した主たる原動力は財政政策であった。

積極財政が円高と株高をもたらし、緊縮財政が円安と株安をもたらしたのである。

現在の円高傾向の下で、株価下落と日本経済悪化を回避するには、

財政政策を超緊縮から積極に転換することが必要である。

私が提示するこの見解を安倍政権が入手して、財政政策の路線転換が検討されている。


ここから、追加的な財政政策発動の方針が提示され始めているが、その政策対応があまりにも鈍い。

安倍政権の追加政策対応が提示される時期が秋の臨時国会であると伝えられている。

いま、6月を迎えたばかりである。

9月に召集される臨時国会で補正予算を提出しても成立は10月になるだろう。

あまりにも迅速さに欠けた対応であると言わざるを得ない。

安倍政権は大型補正予算編成で衆院解散、総選挙を実施することを念頭に置いているのだと思われる。

こうした私的利益優先の姿勢が国民生活を破壊するのだ。

安倍政権の政策対応が遅れるなかで、

衆院選に移行する前に、安倍政権は参院選で敗北して、政権崩壊に追い込まれる可能性が高い。

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