★解散を打てなかった安倍総理には「負け犬」の烙印が押されるー(田中良紹氏)

昨年末からしきりに衆参ダブルの風を吹かせていた安倍総理が迷走を重ねたあげく

ついに解散を断念した。

フーテンはブログに解散をやりたくとも出来なかった非力の総理を何人も見てきたと書いたが、

これで安倍総理もその一人として名が残ることになる。

この迷走劇で深刻なのは第一次安倍政権以来強固な盟友関係にあった麻生副総理との間に

亀裂が生じたことである。かつてフーテンは安倍・麻生関係を「AA連合」と呼んだが、

菅官房長官や二階総務会長の影響力が上向き彼らが睨みを効かせる中、

「AA連合」は終焉を迎えたかもしれない。解散見送りは権力中枢の力関係の変化を物語っている。

安倍総理は昨年、安保法案を強引に押し切り、国内に分断と対立を生じさせたが、

その後に狙ったのは在任期間の延長である。

日本の総理の通算在職日数歴代一位は安倍総理の郷里の先輩である桂太郎の2886日。

桂は日英同盟を締結して日露戦争に勝利し、

また韓国併合や大逆事件による社会主義者の弾圧を行った総理として知られる。

第二位は安倍総理の大叔父に当たる佐藤栄作の2798日、

第三位はやはり長州出身伊藤博文の2620日、

第四位が戦後日本の針路を決めた吉田茂2616日、

第五位が小泉純一郎1980日、

第六位が中曽根康弘1806日である。

安倍総理は自民党総裁任期が切れる2018年9月まで総理を務めれば

2400日を超えて吉田茂に肉薄する。

そしてそれまでに自民党の党則を3期9年の総裁任期に変えれば、

桂太郎の歴代一位の記録を抜くことが可能となり、

また2020年の東京オリンピックを総理として迎えることができる。

自民党総裁任期はかつて1期2年だったが何期でも務められた。

そのため佐藤栄作は4期7年8か月の長期政権を実現したが、

長期政権は人心の離反を招き、3選禁止の党則ができた。

そのため総理は最長でも4年という時代が続く。これを変えようとしたのが中曽根康弘である。

大統領型の総理を目指した中曽根は、アメリカ大統領の任期が2期8年務められるのに

日本の総理がその半分である状況を変えるため、

衆参ダブル選挙に勝利することで3期目を認めさせようとした。

1986年に党内すべてが反対のダブル選挙を権謀術数を尽くして実現させ、

300議席を獲得して1年間だけではあるが3期目を認められた。

その後党則は1期3年で2期までに変更され、

2012年に就任した安倍総理の任期は2018年9月までとなる。

ところが2020年の東京オリンピック招致を自分の手柄と思いたい安倍総理は

そこまでの任期延長を射程に入れ、中曽根のダブル選挙をお手本にしようとした。

そこで通常国会を衆参ダブルが可能な日程に設定し、

党内の反対を押し切って公職選挙法改正案を成立させ、

ダブル選挙に反対の公明党を軽減税率導入で取り込み、

新党大地の鈴木宗男氏を選挙をえさに取り込み、

また沖縄の辺野古移設工事を中断して波風が立たないようにし、

伊勢志摩サミットとオバマ広島訪問の外交パフォーマンスで世論の支持率を上げるなど

衆院解散の環境整備を行ってきた。

ところがそれに立ちふさがったのが菅官房長官と二階総務会長である。

特に菅官房長官は当初からダブル選挙に反対した。

理由は衆参ダブルの相乗効果が参院選を有利にしても衆院の議席を減らすことになるからである。

それに自公協力関係に水を差してまで安倍総理個人の野望に従わなければならない理由はない。

安倍総理は高い支持率を過信して選挙の実像を見失っている。

メディアは「一強他弱」と安倍政権を持ち上げるが、

実は選挙で自民党は決して「一強」ではない。

安部政権を誕生させた2012年の総選挙で自民党は小選挙区で議席の8割を獲得したが、

比例区では3割しか獲得していない。ここに公明党との選挙協力の実態が表れている。

つまり小選挙区では1選挙区平均2万7千票といわれる公明票が自民党候補に投票し、

比例区で公明票は公明党候補に投票される。

小選挙区の自民党候補の得票数から2万7千票を引けば自民党議員は70人が落選し、

自民党の議席は過半数に届かないのである。

しかも政権交代を許した2009年の総選挙の時より自民党は獲得票を毎回減らし続けている。

公明党の選挙協力なくして自民党政権は存続できないのである。

そしてフーテンが最も不思議に思うのは安倍総理が

14年12月に消費税導入延期を表明して解散に踏み切ったことである。

消費税法案には景気条項があり解散で信を問わなくとも延期することはできた。

それを解散に踏み切ったのは安保法案の審議の前に、

そしてアベノミクスの効果が薄れていないうちに

少しでも議席を増やしておきたいという小心な心からではないかと思っている。

選挙結果は自民党が4議席減らし、

しかし公明党が4議席増やしたため与党全体の増減はなかった。

そして国民は選挙に背を向け戦後最低の投票率を記録した。

それをメディアは「与党大勝」と報じたのである。

フーテンは日本のメディアが狂っているとしか思えなかった。

しかもこのとき安倍総理は「二度と延期はしない、

景気条項も廃止する」と大見得を切ったのである。

フーテンは安倍政権発足時から「アベノミクスは3年でごまかしがきかなくなる」と言い続けてきたが、

今年がその3年目である。1月に日銀がマイナス金利を導入すると円高傾向は止まらなくなり

海外ではアベノミクス失敗の見方が定着した。

ダブル選挙を決断するための判断材料とされた北海道5区の補欠選挙は

創価学会の締め付けがなければ野党に敗北する薄氷の勝利であった。

おそらく安倍総理は公明党の選挙協力がいかに重要であるかを肝に銘じたに違いない。

そこから迷走が始まる。しかしダブル選挙に向かうシナリオを変更することもできない。

熊本地震が起こればダブルは消えたと言われ、

オバマ広島訪問が決まればダブルがあると言われる。

アベノミクスの失敗を世界経済のせいにすれば消費増税を見送らざるを得なくなるが、

そうなれば2年前に大見得を切った国民との約束を破ることになる。どちらに転んでも良いことはない。

本当は2年前に解散などすべきではなかった。

衆議院で3分の2以上の議席を持っているのだからそのまま安保法案の審議を行い、

今年の参議院選挙に合わせてダブル選挙を実施すれば議席を減らしたとしても政権を失うことにはならない。

そして衆議院議員の任期が2020年7月までとなるから、

じっくりと財政再建や経済対策に手を打つことができる。

ところが安倍総理は2年前にアベノミクスと消費増税延期をテーマに解散をしてしまった。

そして今年7月の参議院選挙もアベノミクスと消費増税延期を争点にするという。

それで今年中に衆議院を解散できるか。解散の理由が全く見えない。

来年7月には東京都議会選挙がある。公明党にとって極めて重要な選挙である。

その時期に衆議院選挙をやられてはたまらない。

2018年になれば「追い込まれ」ての解散となり与党に不利に働く。

しかも民進党の代表が岡田克也氏から交代すれば国民の意識も大きく変わる。

ここでダブル選挙に踏み切れなかった不利益は大きいのである。

それによって自民党内の力関係にも変化が生じ、

菅官房長官や二階総務会長の影響力が大きくなった。

この人たちが安倍総理にいつまでも従順だとは思わない。

オバマ広島訪問に道筋をつけた岸田外務大臣に期待を寄せる人々が増えることにもなる。

そして解散風を吹かせながら解散を打てなかった安倍総理は「負け犬」の烙印を押されることになる。

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