★対米従属を決定づけることになるオバマの広島訪問ー(天木直人氏)

サミットがまもなくはじまり、報道はそれ一色になる。

 そしてサミットの本当の主題はオバマ大統領の広島訪問だ。

 サミットの結果などそっちのけで、

オバマ大統領と安倍首相の演じる日米の歴史的和解が喧伝されることになる。

 その大騒ぎの報道がはじまる前に、最後にもう一度オバマの広島訪問について書いて、

しばらくは静観することにする。

 メディアの報道ぶりをじっくり見届けたいからだ。

 オバマの広島訪問に関するメディアの報道ぶりに、いちいちコメントしていては、きりがないからだ。

 オバマの広島訪問の評価は、その後時間をかけて正しく評価されなければいけない。

 それほど大きな出来事なのである。

 私は、オバマの広島訪問の可能性が流され、来るか来ないか、まだわからない、

とメディアが書いた時、いちはやく予言した。

 間違いなく来ると。

 来るか来ないかの不安を煽っておいて、

来ることになった時の歓迎ぶりを盛り上げるための工作に違いないと。

 その通りだった。

 そして、オバマの広島訪問が決まれば、次は謝罪の有無が大問題になった。

 その時、私は書いた。

 たとえオバマの広島訪問が、日米両首脳のそれぞれ異なる思惑で行われようとも、

そんなオバマの広島訪問を、あからさまに批判することは難しいと。

 明確な謝罪の言葉はなくても、米国大統領が広島に来ること自体が暗黙の謝罪になるからだと。

 オバマの広島訪問を、高野猛という評論家が「めでたさも中くらい」と

日刊ゲンダイのコラムで書いていたが、私もそういう評価だった。

 しかし、この考えは甘かったようだ。

 その後の報道を見れば、今度のオバマの広島訪問における非対称性が際立つ。

 歴史的な日米和解でさえも、不平等に終わり、歴史の中に封印されてしまう危険があるのだ。

 私が、そのことを確信したのは、次のライス大統領補佐官の言葉を知った時だ。

 彼女は5月15日の米CNNテレビでこう語った。

 「興味深いことに、日本側は原爆投下の再評価や謝罪を求めてこなかった」と。

 そして、その後で次のように言い切ったのだ。

 「われわれはいかなる状況でも謝罪はしない」と。

 しかも、きょう5月23日の報道では、オバマは「バターン死の行進」の生き残り兵を同行させるという。

 これは単に広島訪問に反対する退役軍人をなだめるためだけではない。

 原爆投下と捕虜虐待を相殺する形で日米和解を行おうとするものだ。

 そしてオバマはこの歴史的和解で、もうひとつの明確なメッセージを発した。

 それは、日本を訪問する前にベトナムに向けて旅立った事だ。

 いうまでもなく、ベトナム戦争は、原爆投下と並んで、米国の戦後史の最大の負の遺産だ。

 そのベトナム戦争と原爆投下を、この際一緒に清算しようとしたのだ。

 歴史的和解には誰も文句を言えない。

 それを逆手にとって、米国の都合のいいように、過去のものとして葬り去るつもりだ。

 歴史的和解においてさえも不平等な形で終わらせられる衝撃。

 しかし、この不平等な歴史的和解は、

すでに昨年4月28日、安倍首相が米国議会での演説した時に、

安倍首相が率先して行ったものであることを、どれだけの日本国民が気づいているだろう。

 そしてこの不平等な歴史的和解は、

今年12月にハワイで行われるリメンバーパールハーバーに安倍首相が参列することによって

完結することになるだろうことを、どれだけの日本国民が気づいているだろう。

 そうなのだ。

 次は安倍首相のアリゾナ記念館訪問である。

 オバマは自らの判断で広島の原爆記念館訪問を決断した。

 それを歓迎する安倍首相が、こんどは自らの判断でアリゾナ記念館訪問を決断しないはずはない。

 そして日本には、それに反対する退役軍人も、愛国右翼もいないのだ。

 かくして日米の歴史的和解が両国指導者の手で行われる。

 しかし、それを最後に承認するのは国民だ。

 オバマが広島行を決断しようとした時、

一番懸念したのは、「デモに囲まれないか」ということだったらしい(5月23日産経)。

 それが杞憂だったことがケリーの広島訪問で証明された。

 そう安堵したとたんに、オバマ訪日の直前に沖縄で米軍属による女性殺害事件が起きた。

 しかし、反米デモは起こりそうもない。

 きょうの報道によれば、抗議の県民大会は、すべてが終わった6月に開かれるという。

 沖縄県民でさえこうだ。

 一般国民の間でオバマ訪日を前にして抗議デモの気運が高まらないのは当然だ。

 そして、きょう発表された共同通信の世論調査だ。

 被爆者へのアンケート結果では、米大統領の広島訪問を優先し、

謝罪を求めないと答えたものが78%だと言う。

 被爆者でさえこうだ。

 一般国民だと、この数字はもっと高いだろう。

 それをメディアの情報操作の結果だと言うのは簡単だ。

 あるいは日本国民の寛容さだと言ってしまえばそれまでだ。

 しかし、もし、オバマの広島訪問が歓迎の中で終わり、

日米同盟強化ばかりが喧伝されれば、日本は対米従属から自立する機会を永遠に放棄する事になる。

 野党共闘の目的が安保法を強行した安倍政権の打倒であるという。

 そんな政局が、まったくの茶番だということになる。

 私がオバマの広島訪問で、日米和解が喧伝され、日米同盟強化がますます加速する。

 それはとりもなおさず対米従属が永続することだ。

 どのような政権になろうとも、対米自立は遠ざかる。

 私がオバマの広島訪問で危惧する事はまさしく、その事である。

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