★サウジが危ういと書いた産経新聞村上論説副委員長の慧眼ー(天木直人氏)

私は1982年から84年の二年間余り、

石油成金を駆け上っていたサウジアラビアに勤務して、

そのとき直感的にサウジアラビアという国の将来に危うさを感じたものだ。

 原油価格が下落したらこの国はひとたまりもないだろう。

 それまでに原油に頼らない民主国家にならないと危ういと。

 それから30年余り、サウジは原油価格の高騰を謳歌し、

親米路線をひた走り、中東政治や国際金融に影響力を持つ中東の雄であり続けてきた。

 ところが、ここにきてサウジに異変が起きた。

 一つは原油価格の暴落であり、

もうひとつはサウジの天敵であるイランと米国の関係改善による米・サウジ同盟の揺らぎである。

 そんな時に、アブドラ国王が死去し、サルマン国王に交代した。

 そこまでは、まだ予想の範囲だ。

 しかし、私が驚いたのは、サルマン国王が息子のムハンマド副皇太子を重用し、

強大な権限を集中させたことだ。

 そして、そのムハマンド副皇太子が、あたかも国王のごとく振る舞い、次々と強硬策を打ち出したことだ。

 それを見た私は「サウジは危うい」という思いをますます強くした。

 ところが、その事を指摘する専門家の解説を探してきたが、まったく見当たらなかった。

 そしてついに見つけた。

 きょう5月21日の産経新聞「一筆多論」で、村上大介という論説副委員長が書いた。

 「王族の主要メンバーの合意をとりつけながら慎重に物事を進める旧来のサウジのやり方をかなぐり捨て、

一人が全面に立って、大胆な政策を打ち出している」と。

 「国王の後押しがあるとはいえ、これだけの権力(国防相、第二副首相、新設された経済開発評議会のトップ
として国営石油会社サウジアラムコを掌握)を握った王子はいない」と。

 「イエメン内戦へのサウジの軍事介入を主導し・・・米国の対イラン接近に対しては、

ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席と会談するなど」米国離れの外交を主導していると。

 そして、ついに財政を石油依存から脱却させ、「投資国家」に変貌させるべく、

サウジアラムコの上場に踏み切って、世界最大規模の政府系ファンド創設を打ち出した、と。

 それらがうまくいけばもちろんいい。

 しかし村上論説副委員長は次のように締めくくっている。

 「・・・政府から提供される『福祉』と引き換えに、サウド王家の支配を受け入れてきた、

その暗黙の『契約』が国民の負担増で書き変えられれば、王家への忠誠心は消え失せよう・・・

(女性の社会進出を急いで進めれば)超保守的なサウジのイスラム宗教界の反発が必至だ・・・

また7千人に上るとされる王子、王族たちの間に、国王は息子に王位を継がせようとしている、

といった疑心暗鬼が広がれば・・・内紛を誘発しかねない・・・

副皇太子が大胆に改革を切り込むほど、国内の抵抗は増し、失敗すれば経済の復活は難しくなる。

だが、改革は待ったなしだ。『独断専行』の危うさを抱えつつも、

サウジはすでに、後戻りできない拠点を越えたように見える」

 サウジ王制が倒れると、その先に待っているのはサウジのイスラム国化だ。

 中東混乱の行き着く先である。

Reply · Report Post