★「個人のための国家」か「国家のための個人」かー(植草一秀氏)

1947年5月3日、日本国憲法が施行された。

安倍政権は、この日本国憲法を改定しようとしている。

憲法といえども絶対の存在ではないから、憲法改定が論議されることは妨げられない。

時代環境は変化するのであり、その時代環境の変化の下で、

日本の主権者が憲法改定を必要と考えるなら、憲法を改定することは妨げられるべきものでない。

しかし、憲法には重大な使命がある。

それは、権力の暴走を防ぐことだ。

権力が暴走して統治の根幹を破壊してしまわぬように、

憲法は人民が定めた規範を守る砦としての意味を有している。

だからこそ、憲法改定のハードルは高く設定されている。

権力がみだりに憲法を書き換えてしまわぬためである。

憲法を改定することを「憲法改正」と呼ぶが、

「改正」

とは、

「不適当なところや、不備な点を改めること」

という意味で、憲法を正しい方向に改めることが「改正」であり、

正しくない方向に改めるのなら、それは

「改悪」

であって

「改正」

ではない。

だから、私は自民党の憲法改正草案を、「改正案」とは呼ばずに「改定案」としか表現しない。


自民党は2012年4月27日に憲法改定案を発表した。

安倍政権は4月28日を「主権回復の日」として、新しい記念日として位置付けようとした。

1952年4月28日、サンフランシスコ講和条約が発効し、日本は主権を回復した。

しかし、この主権回復は大きな代償を伴うものであった。

沖縄を含む南西諸島は日本から切り離され、米国施政下に移された。

また、この日に日米安全保障条約が発効し、独立回復後も米軍が日本に駐留し続けることになった。

サンフランシスコ講和条約は、第6条に以下の規定を置いた。

第6条(a)連合国のすべての占領軍は、

この条約の効力発生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、

日本国から撤退しなければならない。

日本の独立回復、主権回復とは、日本から占領軍が撤退することを意味した。

ところが、この第6条(a)には、但し書きが付されていた。

「但し、この規定は、一又は二以上の連合国を一方とし、

日本国を他方として双方の間に締結された若しくは締結される二国間若しくは多数国間の協定に基く、

又はその結果としての外国軍隊の日本国の領域における駐とん又は駐留を妨げるものではない。」

この但し書きに記述された規定にある二国間協定である日米安全保障条約に基づいて

日本の独立回復後も、占領軍が日本に駐留し続けることになり、

69年を経過するいまも、米軍は日本駐留を続けているのである。

これを

「終わらない占領」

と呼ぶ。


4月28日は、沖縄にとっての「屈辱の日」であり、日本国民にとっても「屈辱の日」である。

「独立」とは言いながら、これ以降も米軍の日本駐留が合法化されてきたからである。

安倍首相は、その「屈辱の日」を記念日にしようとし、その日に合わせて、憲法改定の提案を示したのである。

さて、自民党憲法改定案の中身であるが、これは、日本国憲法の根本精神を改変しようとするものである。

安倍首相は憲法改定の手続きも踏まずに、憲法の根本を改変するという憲法破壊行為に突き進んだが、

自民党憲法改定草案は、憲法そのものを根本的に改変しようとするものである。

その根本が端的に示されているのが、第13条の条文改定と第97条の全面削除である。

現行憲法の条文は次のものである。

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。
生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、
立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

これが自民党案では次のように書き換えられる。

第十三条 全て国民は、人として尊重される。

生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、

公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。

さらに、次の現行憲法第97条が全面的に削除される。

第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、

人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、

これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、

侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

第13条における変化は、

「個人として尊重」→「人として尊重」

「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」について、

「公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重」



「公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重」

という点にある。

「個人の尊重」という表現が消える点、「制限付きの人権擁護」に最大の特徴がある。


私は、2013年6月に

『アベノリスク』(講談社)

http://goo.gl/xu3Us

という書を上梓した。

安倍政権与党が参院過半数を確保してしまうと、

この国に想像を絶するリスクが降りかかることを警告したものである。

インフレ誘導

消費税増税

TPP

天下り増殖

原発稼働

憲法破壊

戦争推進

の7つのリスクが噴出することを説いた。

あれから3年の時間が経過しようとしている。

そして、警告通りの現実が広がっている。


この書のなかに、憲法破壊の主要な問題点を列挙した。

詳しくは同書をご高覧賜りたいが、安倍首相は日本国憲法を改変して、

基本的には大日本帝国憲法を再現しようとしているのだと考えられる。

安倍首相が目指す新しい日本の「国家と国民との関係」を一言で表現するならば、

それは、

「国家のための個人」

であると言える。

これに対して、現行憲法の根本に置かれている思想は、

「個人のための国家」

である。

そして、日本国憲法は、

国民を

「個人として尊重」し、

「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を

「公共の福祉に反しない限り」

「最大に尊重」する

と定めている。


ところが、自民党改憲案が尊重するのは、

「個人」

ではなく

「人」

である。

また、

「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は、

「公益及び公の秩序に反しない限り」

でしか尊重されない。

「公共の福祉に反しない限り」という現行憲法の規定は、

「他の個人の権利を侵害しない範囲で」

という意味に解されるが、

自民党改憲案は、

「個人の人権」

の上に

「公益及び公の秩序」

を置くという考え方である。


「国家のための国民」

であり、

「国民のための国家」

ではない。

安倍首相は、日本の「国のかたち」を、このように根本的に改変しようとしているのだと考えることができる。

こう考えると、すべてのことのつじつまが合ってくる。

原発稼働

TPP

消費税増税

辺野古基地建設

戦争推進

のすべてが、個人よりも国家を優先する発想、思想によって支えられているのである。


明日5月3日

東京では以下の憲法集会が開催される。

http://web-saiyuki.net/kenpoh/

日時:5月3日(火)13:00~16:00(予定)
場所:有明防災公園(東京臨海広域防災公園)
りんかい線「国際展示場駅」徒歩4分
ゆりかもめ「有明駅」徒歩2分

集会内容:
12:00コンサート
13:00集会
14:30パレード

入場無料

主催:5・3憲法集会実行委員会
事務局:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会

憲法改悪を許さない!

戦争させない・9条壊すな

を合言葉に日本国憲法を守らねばならない。

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