★日銀追加金融緩和見送りの背景と今後の展望ー(植草一秀氏)

ゴールデンウィークの連休入りと同時に金融市場の波乱が拡大している。

4月27-28日の金融政策決定会合で、

追加金融緩和が決定されるとの観測が広がっていたが、もともと追加緩和策が決定される可能性は低かった。

日銀が追加金融緩和決定を見送ったことで、28日の日経平均株価は

前日比282円高の17572円の高値を記録した後、

前日比638円安の16652円まで下落し、

前日比624円安の16666円で引けた。

下4桁が6並びの数値となったが、

1996年6月26日の終値が22666円となって、

これを起点に1998年10月9日の12879円まで2年3ヵ月にわたる株価暴落が始動したことが思い起こされる。

今回の日銀政策決定会合で追加金融緩和が決定される可能性がなぜ低かったのか。

それは、現在の日銀が中央銀行ではなく、

安倍政権の権力機関のひとつに変質してしまっていることに理由がある。


昨年12月以降の日経平均株価の推移を見てみよう。

昨年12月1日に日経平均株価は20012円を記録した。

これが、1月21日に16017円に下落した。

わずか1ヵ月半で4000円幅の急落が生じた。

ここで動いたのが日銀である。マイナス金利導入を決めた。

しかし、政策効果は3日で消滅し、日経平均株価は急反落して15000円を割り込んだ。

流れを変えたのがG20だった。2月末G20を契機に世界的に株価が反発した。

ところが、4月入り後、日経平均株価は急落した。不自然な急落とも言えた。

その株価が4月24日にかけて急反発し、17500円を突破した。

ところが、4月28日の日銀政策決定会合のバズーカ砲が空砲となり株価が急反落している。

4月22日終値が17572円。

4月28日終値が16666円。906円の下落。

シカゴ先物市場の日経平均先物は4月29日、15880円で引けた。

東京終値比786円安、4月22日終値比1692円安である。

週明け、5月2日の東京市場の株価下落が警戒される。


三つのことを指摘できる。

第一は、日銀の政策運営が破綻していることだ。

これはアベノミクスそのものの破綻を意味する。

第二は、株価変動が政治日程とリンクしていることである。

4月初旬の株価急落は、その後の株価急反発を演出するための「準備作業」であった可能性が高い。

「ジャンプ」するための「沈み込み」であった可能性が高いのだ。

そして、4月28日会合で追加金融緩和策を決定しなかったのは、

当面の「株価吊り上げ」の目標が達成されたからだ。

4月24日の選挙に向けて株価を吊り上げたのであって、これが終了すれば、

株価吊り上げの支えを張りつつける必要はない。

第三は、日本経済が明確なダウンサイドリスクを抱えることになったということだ。

アベノミクスは破綻しており、これを修復するには、

「財政政策の活用」

が必要不可欠である。

その切り札となるのが「大型補正予算の編成」であったが、

安倍政権は「大型補正予算」を排除して、1兆円未満の超小型補正予算編成を決定した。


日本の金融市場の基本構図は、

「円高=株安」

に転換しており、この基本構図を排除するには、

「財政政策を活用する以外に道はない」

ことを、私は『金利・為替・株価特報』

http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html

に記述してきた。

内外の経済金融変動は、ほぼ見通し通りに推移している。

このなかで、日本経済の崩落を回避するには、

安倍政権が経済政策の基本を抜本転換することが必要不可欠であることを説いているが、

その政策転換が明確に示されていない。

ここに重大な問題が残されている。


日銀は1月28、29日に金融政策決定会合で、マイナス金利採用を決定した。

採決は賛成5、反対4だった。

賛成票を投じたのは

黒田総裁、岩田副総裁、曽根副総裁

原田泰審議委員、布野幸利審議委員

だった。

総裁副総裁の3名は2013年春に、安倍政権が起用した3名。

原田泰氏は2015年3月、布野幸利氏は2015年7月に審議委員に就任した。

これらの5名のメンバーが、いわゆるリフレ派、

すなわち、インフレ誘導は可能であり、インフレ誘導は正しい政策であると主張する人々である。


これに対して、反対票を投じたのが、

白井さゆり、石田浩二、佐藤健裕、木内登英、の各審議委員である。

この4名の委員は民主党政権時代に起用された人々である。

この4名は、マイナス金利導入に反対した。

そして、このなかの白井氏が3月末で退任し、桜井真氏が起用された。

石田浩二氏も6月末で退任し、後任には政井貴子氏が起用される。

安倍政権は日本銀行人事に介入し、

安倍政権の意向に沿う人物で日銀の政策決定を行う体制を構築している。

ここには、中央銀行の独立性を尊重するという姿勢は存在しない。

日銀は権力機関の一部を構成することになる。


実は日銀は1999年10月に、量的金融緩和政策は有効でないとの公式見解を発表している。

しかし、その後、日銀は政治の圧力に屈服して、量的金融緩和政策を実行してきた。

そして、2013年春以降は、

「量的金融緩和政策の拡大でインフレを誘導することは可能である」

ことを宣言したうえで、量的金融緩和政策の拡大を実行してきた。

しかし、結果は無残なかたちで終焉した。

安倍首相は

「もはやデフレではないといえるところにまでたどりついた」

と国会で発言しているが、世界に恥を晒す発言である。

消費者物価上昇率は前年同月比ゼロにまで回帰しており、

「もはやデフレではないではない」

というのが現実である。


量的金融緩和政策が失敗に終わったことを受けて、

日銀の黒田東彦総裁は、1月末の政策決定会合で、

突然、十分な準備も論議もしないまま、マイナス金利導入を強行決定した。

賛成したのは安倍政権が起用した5人のメンバーだけだった。

しかも、その政策効果は3日しかもたなかった。

黒田東彦氏が泥縄でマイナス金利導入を強行決定したのは、

安倍政権が甘利明氏の金銭疑惑辞任で窮地に陥っていたからである。

黒田日銀はインフレ率2%を公約に掲げ、岩田規久男副総裁は実現しなければ辞任すると公言していた。

そのインフレ誘導に失敗したのに責任も取らない

「ズルい日銀幹部」

である。

その「ズルい」日銀幹部が、安倍首相が窮地に陥っているからと、

準備も論議もせずに決定したのがマイナス金利導入だ。

「ズルの恩返し」

ではあったが、これも失敗したのである。


本年4月に入って、日本株価が不自然に下落した。

これは、4月24日の衆院補選に向けて、株価上昇を演出するための、「沈み込み」だった。

「沈み込ん」でおけば、立ち上がるだけで、株価上昇を演出できる。

その「株価上昇」を誘導する「材料」が「追加金融緩和」だった。

そして、目論見通り、選挙直前の株価上昇を誘導できた。


目的は「選挙直前の株価上昇」であり、これを実現してしまえば、さらに株価上昇を誘導する必要はない。

だから、今回は追加金融緩和を見送ったのだ。

次のターゲットは7月10日だ。

7月10日に向けて株価を引き上げるには何が必要か。

一番大事なことは、その前に株価を押し下げることだ。

株価を押し下げれば下げるほど、株価上昇を誘導することは容易になる。

だから、4月24日の選挙が終わり、株価が下がることは、安倍政権に基本的に歓迎されていると見るべきだ。

次の日銀会合は6月15、16日に開かれる。

ここでは、追加金融緩和政策が決定されるだろう。


しかし、より重要なことは、もはや金融政策で流れを変えることはできないということだ。

ドル円は、112円/ドル台寸前から、一気に106円/台に急変した。

円安=株高構図は、円高=株安構図に転換しているのだ。

この基本構図のなかで、事態悪化を回避するには、

財政超緊縮を修正するしかない。

2017年4月の消費税率10%などは言語道断。

超緊縮の財政を中立ないし、若干の積極に転換する必要がある。


ただし、無駄な利権支出を拡大するべきでない。

無駄な利権支出を拡大せず、

国民の生命、健康、生活、生存権を守るための財政支出の制度的な強化を図るべきである。

とりわけひとり親世帯の子ども貧困が深刻さを増している。

子どもの教育を受ける権利が保障されるように、制度的な対応に取り組むべきだ。

保育所の整備も急務である。

消費税増税で低所得者の生活環境の悪化も深刻である。

無駄な利権支出、天下り機関への無駄な支出を切り、

社会保障プログラムの拡充に財政支出を重点的に投入するべきなのである。


安倍政権は日銀を支配し、選挙のための株価操縦を行うなど、政策運営を私物化している。

こうした歪んだ政策運営は、必ず最後に手痛い報いに直面するはずである。

参院選に向けての株価操縦も、今度は失敗する可能性がある。

日本の主権者にとって大事で望ましいことは、安倍政権が参院選に敗北して、

日本政治の潮流転換の方向が明確に広がることである。

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