★安倍政権は早急に補正予算を編成するべきだー(植草一秀氏)

熊本県を中心に発生した大規模な地震災害。

被災された方は避難生活を余儀なく迫られている。

多くの方が犠牲になり、また負傷されている。

亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、負傷された方のご回復を心から祈念する。

また、早急な復旧により、被災された方々が一刻も早く生活の安定を回復されることを願う。

そのために必要不可欠な要素が行政の活動である。

その際に、十分に留意するべきことは、

「市民のための行政」

であって

「行政のための市民」

ではないことを明確に認識することだ。

日本は中央集権の国で、行政機構における

タテの関係が強い。

タテの関係とは、

上下の関係である。

この上下の関係のトップに中央がある。

このトップの中央は霞が関であり、そのトップに内閣総理大臣が位置する。


この関係が災害対応、被災地復旧にそのまま適用されてしまう危険が大きい。

しかし、本来のあり方は違う。

国民主権というのは、主権者である国民を主役とする考え方である。

公務員は君臨する存在ではなく、国民に対して奉仕する立場にある存在である。

主権者である国民を下から支えるのが公務員である。

上に君臨して、上から国民を支配するのが公務員ではない。

日本国憲法第15条

公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

○2  すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。

憲法には国民と公務員の関係が明記されている。

公務員は奉仕者であって支配者ではないのである。

そして、内閣総理大臣も公務員なのである。

この公務員を選定し、罷免する権利を主権者である国民が有している。


災害があり、被災地への行政からの支援があるときに、

「上から目線でものを見る」

ことを改めるべきである。

天災が発生し、被災者を助けることは、行政の役割であり、

その基本的な姿は、主権者である国民、住民、市民を、上から支配するのではなく、

下から支えるべき存在なのである。

被災地で被災者に対して物資の配給を行うために、大行列ができている。

被災された市民は、秩序正しく、冷静に、温厚に、行動されている。

しかし、物資の輸送は滞り、必要十分な対応ができていない。

水道、ガス、電気のライフラインが復旧していないために、

被災者は自宅に戻ることができず、極めて劣悪な居住環境に置かれている。

被災者の置かれている環境は厳しく、高齢者や乳幼児、そして女性の困窮は強まるばかりである。

この状況下で、行政機構にある者は、霞が関、永田町を頂点とする、

国民主権に逆行する「上からの支配」の発想を徹底して排除することが必要である。

民主主義、国民主権と、官僚支配、中央集権とは、根本的に相反する部分がある。

民主主義の特性のひとつは

多様性

であり

地域主権なのである。

内閣総理大臣の言動を上からの指令であるかのように、祭り上げる報道の姿勢は、

被災地支援、災害対策の基本を見誤らせるものである。

主権者は税金を納めて行政サービスを支えている。

行政サービスは主権者の資金負担で支えられ、主権者に奉仕をすることが根本的な位置付けなのである。

主権者、市民、住民が行政サービスを提供する公務員に横柄に、横暴に振る舞うべきではないが、

主権者は行政サービスを適切に受ける権利を有していることを明確に認識し、

公務員は市民への奉仕者であるという基本を明確に認識して対応することが求められる。


安倍政権は震災対策としての財政政策対応について、

補正予算の編成は今すぐに必要ないとの見解を示している。

「補正予算検討の段階にない、まず予備費で対応=熊本地震で財務相」

http://jp.reuters.com/article/aso-idJPKCN0XG013

麻生太郎財務相は19日の閣議後会見で、熊本・大分での地震への財政上の対応について、

まずは2016年度当初予算に計上した予備費3500億円の中で対応する考えを示した。

現段階では被害額の全体像が明らかになっていないため、補正予算の編成を検討する段階ではないと語った。

(ロイター)

この発言の真意はどこにあるか。

安倍政権は5月26-27日のサミットに合わせて経済対策を提示する予定である。

5月18日には1-3月期GDP統計が発表される。

1-3月期のGDP成長率もマイナスになる可能性がある。

この経済統計を受けて、5月下旬のサミットに向けて経済対策を発表する予定である。

また、5月上旬には日ロ首脳会談も予定している。

すべては、7月の参院選に向けての対応である。

財政政策については、5月に総合経済対策を打ち出し、

秋の臨時国会に補正予算案を提出して対応するものと見られるが、

日本の経済実勢を踏まえるならば、補正予算編成は前倒しする必要がある。

そのような情勢の下で今回の大規模な震災が発生したのであり、

本来は、早急に補正予算の編成に入るべき局面だ。


日本の財政政策対応は、2016年度に強度の緊縮に転じている。

さらに、2017年4月の消費税率10%への引き上げも予定されている。

このまま進めば、日本経済が極めて深刻な不況に転落してしまう。

安倍政権は2012年12月の政権発足当初は、

財政金融政策の総動員の方針を掲げたが、実際に実行したのは2013年だけであった。

2014年は大増税を実行し、2015年以降は緊縮財政路線を敷いている。

この緊縮財政の強度が2016年には一段と強化される。

為替市場においても、2015年6月以降は円安トレンドから円高トレンドに転換しており、

従来の円安・株高図式も消滅してしまっている。


サミットに向けて、効果的に政策発表を演出したいとの思惑が強いのだと思われるが、

大規模震災が発生したことを踏まえて、被災者の生存、生活を支えるための施策を

全力を挙げて取り組むべき局面である。

補正予算編成を行うためには関係省庁の対応も不可欠であり、

この意味でも、TPP関連審議を、この段階で無理に強行する必要はない。


政府、政権が国会対応に追われている間、

被災地の被災者支援行動に、深刻な遅れが出ていることを重視するべきである。

このような事態に際して、国民の生命、自由及び幸福を追求する権利に最大の配慮を行うことは、

政府の本来的な責務であり、迅速な対応、果断な対応が強く求められる。

そのためには、十分な財源措置も必要になるわけで、予備費の充当と言わずに、

早急に補正予算編成での対応を示すべきである。

政府の対応に真摯さが不足している。

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