★菅官房長官、熊本地震に関連し憲法に緊急事態条項新設を極めて大切な課題と指摘。
災害には「災害対策基本法」があり体制整備済み。憲法に入れる必要さらさらない。ー(孫崎享氏)

1:4月16日、日経新聞は「緊急事態条項「極めて重い課題」 熊本地震で官房長官」の標題の下、 

「菅義偉官房長官は15日の記者会見で、熊本地震に関連し、

大災害時などの対応を定める緊急事態条項を憲法改正で新設することについて

「極めて重く大切な課題だ」と述べた。

「憲法改正は国民の理解と議論の深まりが極めて重要だ」とも語り、

慎重に検討すべきだとの立場を示した。」と報じた。

2:自民党の掲げる憲法改正の緊急事態条項で問題とみられる所を見てみたい。

内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、

地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、

特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、

閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

第98条(緊急事態の宣言)

内閣総理大臣は、外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、

地震等による大規模な自然災害等の緊急事態において、緊急事態の宣言を発することができる。

第99条(緊急事態の宣言の効果)

(1) 緊急事態の宣言が発せられたときは、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる

(3) 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、国その他公の機関の指示に従わなければならない。

(4) 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、宣言が効力を有する期間、
    衆議院は解散されないものとする。

 つまり。首相の意向が国会審議を経ずに法律と同等の効力を持ち、

国民はそれに従わなければならないとしている。

3;緊急事態は「外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、

地震等による大規模な自然災害等」である。安倍政権は極力災害に絞って緊急事態を通そうとしている。

 緊急事態の問題は災害対策ではない。

石川健治東京大学教授(憲法学)は、

「緊急事態条項の新設は、戒厳(令)の問題にもつながり、戒厳は独裁への大きな一歩になりうる」とし、

「この問題は『戦後レジーム』を破壊する流れの中にある」と警鐘を鳴らした
(2016年2月25日付週刊金曜日「憲法に緊急事態条項は必要か?」めぐりシンポ)

4:長谷部恭男早稲田大学教授(憲法学)は基調講演で、「災害対策基本法や有事法制などが既にある。

もし新たな制度も必要だと言うのなら、国会で法律を作ればよいだけの話」とし、

「改憲の必要はない」と断じた(同上)。

5:災害対策基本法は目的を「国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、

防災に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、

責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、

災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、

総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もつて社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に

資することを目的とする」として制定されている。

そして(基本理念)(国の責務)(都道府県の責務)(住民等の責務)

(施策における防災上の配慮等)防災に関する組織、災害時における職員の派遣、防災計画、

災害予防、指定避難所の指定、等を定めている。

 以上から、「憲法に緊急事態の条項がないから書き込まなければならない」という論は全く該当しない。

6:緊急事態の目論見は別にある。

 国内の治安や、あるいは対外関係で「緊急事態」を宣言し、

法律、更には「憲法」の他の条項の縛りを避けることにある。

緊急事態を発し、例えば憲法九条と異なる行動をとっても、最早憲法違反にならない。

「緊急事態条項」での対応となる。

7:安倍政権は本来憲法九条の改正を目指したが、

国民の反対で出来ないと判断して「緊急事態」を出してきている。

そして国民の支持を得るために「災害」を持ち出している、

それが今回の緊急事態条項を憲法改正で新設することについて「極めて重く大切な課題だ」

との菅義偉官房長官の記者会見発言となっている。

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