★TPP法案を先送りして選挙を有利にしようとする愚かさー(田中良紹氏)

安倍政権は後半国会の目玉であるTPP法案を秋の臨時国会に先送りするらしい。

選挙への影響を懸念したためだという。しかし先送りすれば選挙を有利にできるのか。

その感覚がフーテンには理解できない。

安保法制とTPP法案は安倍政権が米国に気に入られるための必須の課題である。

安保法制は国民に十分な説明もなく国内に分断と対立をもたらす形で強行可決されたが、

TPP法案も何としても米国に先駆けて日本が国会で批准をしなければならないと

安倍総理は考えていたはずだ。

ところがTPPの交渉を担ってきた甘利前経済再生担当大臣がスキャンダルの直撃を受けた。

当初、安倍総理は甘利氏をかばおうとしたらしいが、

菅官房長官から「特捜部が動く」と言われて断念したという。

ここに特捜部に捜査をさせずに乗り切れると判断した安倍総理と、

事件化しなければ逆に問題が大きくなると判断した菅官房長官の違いがある。

そこから官邸は甘利辞任を前提にTPP法案の国会審議とあっせん利得処罰法違反事件とを

どのように調整するかのシナリオを練ったはずである。

甘利氏の辞任まで1週間ほど時間を稼ぎ、スキャンダル告発者が何を握っているかを見極め、

甘利氏は辞任するが説明責任を先延ばしにし、

特捜部が捜査に着手すればそれを理由に説明責任を果たさない方法が考えられたとフーテンは思う。

一方、甘利氏の後任に石原伸晃氏を充てたのは、

国会答弁で「秘密条項」を盾に「言えません」の一点張りを貫く、

いわば「汚れ役」をやらせようとしたのである。

だから本人が経済に強くなくとも、能力に疑問符の付く人間でも構わなかった。

そして民進党と共産党を黒塗り資料などで挑発、審議拒否をせざるを得ない状況を作り出し、

そこをおおさか維新の会などに批判させ、選挙で「民・共連合」を批判する材料にする。

そのうえで国民の目をできる限り消費増税先送りと伊勢志摩サミットに向けさせるためのメディア操作に

力を入れる。そのために高市総務大臣の「電波停止発言」が飛び出したのではないかと

フーテンは勘ぐっている。電波停止はテレビ局だけの話だが、日本は他国と違い、

全国紙と全国ネットのテレビ局が系列になっているため新聞の論調にも影響を与えることができるのだ。

こうしてTPP審議が始まると、TPP特別委員会の西川委員長が『TPPの真実』という内幕本を

出版しようとしていたことが民進党の玉木雄一郎議員によって明らかにされた。

政府が外交交渉を盾に野党に黒塗り資料しか出さないのに、

与党議員には秘密を漏らしているのではないかというわけだ。

そしてついに8日の委員会で与野党衝突が起きた。

民進党議員は退席し、おおさか維新の会がそれを批判、

するとその夜に東京地検特捜部が強制捜査に着手したのである。

そこでフーテンは政府与党のスキャンダルとそれを補強する特捜部の捜査着手に野党が勢いづき、

やみくもに追及して自滅した2004年の年金未納追及の顛末を、

権力の挑発を読み解く事例としてブログに書いた。

ところが1週間もしないで党首討論の開催を条件に審議は再開され、

しかもTPP批准は秋に先送りの情報が流れたのである。

こうなるとフーテンには安倍政権に一貫したシナリオがあるようには見えなくなった。

その場しのぎが始まったように見える。

安倍政権は米国議会でTPPの審議が来年に先送りされたことから、

日本も秋の臨時国会に先送りができると考えたのだろうが、

しかしだからと言って衆議院での審議をやめるわけにはいかない。

秋の臨時国会で成立を図るには、衆議院で法案を継続審議にするしかないが、

それまでは野党が欠席しなければ審議は週3日の日程で開催されることになる。

西川委員長の『TPPの真実』は出版が取りやめになるらしいが、

それでもその内容は国会で明らかにされていくことになるだろう。

そこに石原担当大臣の不都合な答弁でも加われば、

選挙を有利にするどころの話ではなくなる。

先送りを主張したのが安倍総理だとすれば、

安保法制の強行採決が支持率を低下させたことをトラウマとして抱えていることの証左になる。

つまり弱気が起きた。

国民にとって国の進路をめぐる議論に時間をかけてくれることはありがたいが、

しかし「言えません」を連発される審議が延々続けば、逆に怒りに火が付く可能性もある。

そして政治家は弱気を見せればお終いだ。

自分のやったことは正しいと常に攻める姿勢でいなければ誰からも相手にされなくなる。

甘利スキャンダルが発覚してから2か月半、シナリオを練る時間は十分にあった。

そして検察も霞が関も意のままにできる。

だからフーテンはTPP法案と2004年の年金法改正案を比較する気になった。

だが先送りの情報を聞いて2004年とは比較にならないという気がしてきた。

選挙のための先送りは、TPPを自信をもって国民に説明できない姿勢と受け取られ、

選挙のことしか考えない総理という烙印を押される可能性がある。

だから選挙を有利にすることにはならない。石原氏のTPP担当大臣起用、西川氏の委員長起用、

特捜部の強制捜査のタイミング、秋への先送り情報、それらがフーテンの中では

一つの方針と理解することができないのである。

とりあえずは15日の委員会審議と20日の党首討論で安倍総理が何を言うか、

それを注目せざるを得ないが、

それにしても昔の自民党ならTPP法案に反対の勢力と地下水脈で手を結び、

反対運動を大いに盛り上げながら対米交渉を行っただろう。

反対運動が強ければ強いほど簡単には譲歩できないことを相手国に知らしめる。

そのうえで最終的に相手側とぎりぎりの合意をする。反対運動の強さが相手側を押す力になる。 

今回の交渉を外から眺めていると、米国の方が日本より反対運動が強かった印象がある。

ということはフーテン流の考えでは米国のほうが有利に交渉を進めたことになる。

そういう政治のイロハをわが国では見ることができなくなって久しいという気が痛切にする。

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