★TPPの最大の問題は国会、裁判所より仲裁裁判所判決が実際上上位にいき、
国家主権が深刻に侵害されることー(孫崎享氏)

A:TPP交渉差止・違憲確認等請求事件東京地裁提出準備書面の主要論点・一部追加

 今、国会でTPP論議が始まった。

 TPPの最大の問題は、この条約は貿易関税を巡る者ではない、

日本社会の運営の仕方を企業の利益で判断し、生命・健康、格差社会の是正、

地元産業の保護などの視点があれば、

その国会決議、裁判判例をISD条項で訴え巨額の賠償金をとることにある。

 下記はすでに本ブログで紹介してきたことであるが、改めて発信する。

第1 TPPが及ぼす日本の国と社会に対する破壊作用

1 日本は1858年日米修好通商条約を結び、

次いでイギリス・オランダ・ロシア・フランスと相次ぎ締結した各条約で治外法権を認め、

関税の自主権を放棄しました。

この結果明治時代前半の外交はこの撤廃を最大の眼目にすることに終始し、

その完全な撤廃は日清戦争後の1899年日米通商航海条約の発効まで待たざるを得ませんでした。

2 今、日本が締結しようとしている環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は、

関税の自主権の放棄だけにとどまるものではなく、

明治以前の治外法権の各条約の締結以上に日本外交に汚点を残すものです。

即ち、TPP協定は、

①分野が関税のみにとどまらず、経済のほぼ全分野に及ぶこと、

②裁定が国際仲裁裁判所に委ねられること、

③裁判の主たる基準は企業の利益が侵害されたか否かであり、
生命・健康、労働者保護、地域発展という国家の政策を形成するに当って
尊重されるべき主要な価値観はほとんど考慮されないこと、

等を内容としており、

1945年9月2日の第二次世界大戦敗北時の降伏文書への署名以来、

最大の規模で国家の主権を譲り渡す取り決めなのです。到底是認できるものではありません。

3 TPP協定が有する前項の問題点に加えて、

私が決定的に許容することが出来ないと考えるのはTPP協定中のISD条項です。

日本国憲法第41条は「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と定め、

憲法第76条は

「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」と定めています。

しかし、ISD条項は、憲法が定めるこれらの統治機構の基本原理と仕組みを根本から破壊するものであり、

その破壊作用と危険性は突出したものがあると私は考えています。

第2 ISD条項の内容

1 投資家体国家間の紛争解決条項(ISD条項)とは、日本に投資している外国の企業が、

日本の法律・裁判・行政によって被害をうけたと判断した時には、

日本の司法に救済を求めるのでなく、国際仲裁裁判所に訴えることが出来るという制度のことです。

国際仲裁裁判所の判断においては、日本の法律や裁判や行政判断が、

健康・生命への配慮、地域の発展、労働者の保護という広い社会的正義と

必要性判断に基づくものであることへの配慮が全くなされず、

専ら投資家企業に害を与えたか否かの論点のみで判断されることになります。

2 ISD条項が如何に不当で危険なものであるかを、

アメリカのエリザベス・ウォーレン上院議員が、

本年2月25日付ワシントン・ポスト紙の「全ての者が反対すべき条項
( The Trans-Pacific Partnership clause everyone should oppose)」という掲載記事で詳しく主張しています。

私が、エリザベス・ウォーレン上院議員の主張を紹介するのは以下の理由からです。

即ち

①エリザベス・ウォーレンはマサチューセッツ州選出上院議員で、
民主党内では彼女を大統領候補に強く推す人々が多数いるように、高い評価を得ている人物であること

②タイム誌が、2015年「最も影響力のある百人の人物(The 100 Most Influential People)」の中に
彼女を選んでいること

③彼女はハーバード大学ロースクールの教授として見識を認められた人物であること

④米国政府はTPPについて、米国国会議員に対して詳細な説明をしてきており、
彼女は日本では知らされていないTPPの実態を、深く知りうる立場にあったこと

これらの理由により、私はエリザベス・ウォーレン上院議員の主張は正鵠を射たものだと考えるのです。

3 エリザベス・ウォーレン上院議員の論文の主要論点は次のとおりです。

①TPP交渉の最終ステージにある(当時)が、誰がTPPで利益を得るか。

②ISD条項が問題であり、「投資家―国家紛争処理条項」という名前にごまかされるべきではない。

③ISD条項への合意は一段と多国籍企業に有利である。有利と言うよりもっと悪く、
米国の主権を損ねるものである。

④ISD条項は米国の法律に挑戦し、米国裁判所の関与なしに巨額を納税者から支払わせることになる。

⑤米国がしばしばガソリンに添加される有毒化学物質を健康・環境への影響で禁じたとしよう。
もし、外国企業がこの決定に挑戦しようとすれば、通常は米国裁判所で行われる。
しかし、ISD条項では、外国企業は米国の法廷を通り越して、国際仲裁裁判所に訴え、
もし企業が勝ったとしたら、改めて米国の裁判所では審議することはできず、
国際仲裁裁判所によって納税者に数百万ドル、さらには何十億ドルも支払わせることになる。

⑥,さらにショッキングなことは、国際仲裁裁判所は独立した裁判官を持たず、
高級の企業弁護士がある時は企業の弁護士になり、ある時は裁判官になる。
もしあなたが企業の高級弁護士だったら、どうして裁判官になった時に、企業に不利な判決を出すか。

⑦誰がこの裁判所を利用するかといえば、それは国際投資家である。

⑧確かに発展途上国で司法システムが不十分で心配というケースがあり、
投資促進のためISD条項がある。しかし対象は今や法整備が整っている国へ移っており、
豪州や日本というちゃんとした法制度を持つ先進国でも、ISD条項はこれらの国の裁判所も飛び越える。

⑨ISD条項の利用は国際的に拡大しており、
1959年から2002年までにISD条項のクレームは100件であったが、2012年だけで58件にものぼっている。

⑩最近では仏企業がエジプト政府を最低賃金を上げたといって訴え、
スエーデンの企業がドイツ政府を原発を止めたといって訴え、
オランダの企業がこの企業が一部所有していた銀行を**政府が救済しなかったとして訴え、
フイリップ・モリスがたばこの規制をするウルグアイ政府を訴えることを考えているとのことである。

⑪ISD条項は米国を攻撃しないと言っているが、いつの日か米国に向かう。

第3 結語

上記のとおり、エリザベス・ウォーレン上院議員は、ISD条項によって

アメリカの国益が害されると主張していますが、

この危険性はより甚大な形で日本にも当てはまることは明らかです。

国際仲裁裁判所は平気で日本の法律を否定し、

日本の裁判所の頭越しに日本政府等に対して損害賠償義務を命じることが出来るのです。

ISD条項によって、まさに憲法41条や憲法76条といった憲法の根本原理が

否定される事態が現出するのであり、絶対に許されてはなりません。

裁判所がこのようなISD,条項の危険性を見逃すことがあるとすれば、それは司法の自己否定です。

貴裁判所が毅然とて見識ある判断をなされるよう強く期待するものであります。

4:裁判所提出準備書面に一部追加

裁判は不透明

  誰が判事になるか

(ISD訴訟の判決を出す3人は訴えた投資家側から1人、訴えられた政府側から1人、

75日以内に3人目が決まらなければ世銀総裁(歴代米国籍)が決める。

 つまり、裁判では、一人はた投資家側の判断をし、一人は訴えられた国側の判断をし、

一人が世銀側が決めた判断をする。

 この世銀側が決めた裁判官が決定権を持つと言っていい。

 この判断は、各々の国側の法律、裁判に生命、健康(たとえば薬品基準)、

地域振興(たとえば地元産業への配慮)、

格差社会の是正(たとえば最低賃金)にどの様な合理性があるかを見るのではなくて、

投資、貿易の企業の利益が侵されたか否かをしゅらる要因として判断する。

ウォール街の投資家達が「TPPは投資家とグローバル株主の夢」と呼ぶのにはちゃんと理由がある。

ボクシングのジャッジを考えればいい。三人目が誰になるかで全て決まる。多国籍企業側全体の代表。

B:ノーベル賞受賞のコロンビア大学のジェセフ・ スティグリッツ教授が訪日し、

私も出席した会合で行ったTPPに関する発言内容

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TPPが「自由貿易協定」なら3ページで済むはずです。

TPPは6,000ページにも及ぶ文書です。それを全部読んだという人に会ったことがありません。

TPPは、managed trade agreement(管理貿易協定)であって、自由な貿易協定ではありません。

ほとんどが米国企業のために書かれています。

オバマ大統領は「貿易のルールを21世紀に誰が書くのか、我々が書くか、中国か。

これをやらなければ、中国が書く」と、言いました。

我々とは誰ですか。多くの国民を意味する「我々」ではありません。

米国企業を中心とする多国籍企業です。多国籍企業を代表するロビーイストが書いたと言われるわけです。

必要なら、我々ならより民主的なプロセスでやるとすべきです。

キーイシューは、すべてのTPP諸国の間で話し合わなければならない。

この貿易協定は、3部で構成されている。貿易に関しては短く、関税の法律です。

利益を得る産業と、損害を被る産業との関係です。

2番目は、医療へのアクセスです。知的財産と言いますが主として医療が対象になります。

87%の薬がジェネリックで売られるのです。

ジェネリックが手に入らないという形にしようということです。

ジェネリック薬へのアクセスを減らし、薬の値段を上げるのです。

 TPPで最悪なのは、ISD条項(投資条項)です。

規制をやめるということが主な目的であり、

それは米国のビジネス・ラウンドテーブル(注:日本の経団連に匹敵する組織)が要求したのです。

一部のコミュニティーが押して、その協定のその部分は新しい規制を作りにくくしていくことということです。

 球温暖化ついては、1980年代に初めて聞きました。炭素ガスの排出で企業の利益が落ちたら、

カナダ政府がその環境の分野で9回も訴えられました。

環境に対するアセスメントが悪かったと、民間の仲裁パネルに訴えられたのです。

弁護士に託して、ビジネスに都合の良いように作られたものです。

同じように、フィリップモリス(PM)でしょうか、規制に対して反発しています。

タバコが健康に悪いと書くだけでアメリカのタバコが売れなくなると、

PMも利益が減ったと訴訟を起こしているのです。人を殺すのは自分たちの権利だと言わんばかりです。

 TPPは格差を助長し、環境を守らず、正義の足を引っ張ります。 

ヨーロッパは、民間の仲裁に訴えられないようなTPPには署名しないと言っています。

日本がその協定に署名したら、20世紀の協定の署名したことになります。

21世紀の協定において、近代社会のニーズに不十分な協定にサインする国がどこにあるのですか?

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