★任期延長のためのダブル選挙が任期を縮めるリスクを生むー(田中良紹氏)

安倍総理が衆参ダブル選挙をやりたい事は前から分かっていた。

ただ「やりたい」のと「できる」のとでは意味が違う。

やりたくともできなかった総理をこれまで何人も見てきた。

解散は総理の専権事項と言うが、だからと言って誰でも解散が出来る訳ではない。

また安倍総理が中曽根元総理のダブル選挙にあやかりたいと思っている事も知っていた。

中曽根氏はダブル選挙で圧勝し、それによって自民党の党則を変え、

3期目の続投を認めさせようとした。

安倍総理も自分の任期の先にある東京オリンピックまで総理を続けたい。

二人ともダブル選挙の目的は任期延長である。

中曽根氏は「死んだふり解散」でダブル選挙に圧勝したが、

しかし金丸幹事長の政治術の前に党則改正は見送られ、1年間の任期延長に終わった。

「中曽根VS金丸」の暗闘をフーテンは誰よりも近くで見てきたが、

政治のすさまじさと見事さは簡単に言い尽くせない。

政治未熟の安倍総理など逆立ちしても真似はできないと思っている。

それでも安倍総理は真似をしたい。

真似の片鱗は新党大地の鈴木宗男氏を「買収」したところに見える。

中曽根元総理は田中角栄氏の側近だった二階堂進氏に選挙当選を保証して

ダブル選挙反対の一角を崩した。

いわば「買収」である。さらに竹下登氏にはスキャンダルの傷口に塩をすり込む「脅し」の手口を使った。

おそらく安倍総理はそれも真似するに違いない。ダブル選挙は「買収」と「脅し」で実現されるのである。

しかしそれでも中曽根元総理と安倍総理とでは役者の格が違う。

そして目につくのは安倍総理が選挙に突き進むための仕掛けにボロが見え始めた事である。

消費増税を先送りするためわざわざ米国から呼んだ経済学者から批判的なトーンが漏れ、

また選挙の障害にならぬよう一時的に工事を中断した沖縄の辺野古基地建設を

オバマ大統領から批判された。米国が安倍政権に冷ややかなのである。

それでもここまでくれば消費増税の先送りと衆議院解散を安倍総理はやるしかないだろう。

やらないと安倍総理は解散がしたくともできない「無能の総理」の烙印を押される。

だがそこには自らの任期を短くするリスクが待ち受けているのもまた事実である。

フーテンは安倍政権誕生の時からアベノミクスは3年で正体が見えると言ってきた。

それは新自由主義を世界で初めて取り入れたチリのピノチェト政権が、

当初は「チリの奇跡」と言われるほど経済成長したのに、

3年後にはマイナスに転じ、経済を目茶目茶にした前例があるからだ。

安倍政権が誕生してほぼ3年後の昨年10月、

アベノミクスの理論的支柱であったノーベル経済学賞受賞のポール・クルーグマン教授が

ニューヨーク・タイムズ紙に「アベノミクスの異次元緩和は失敗だった」というブログを書いた。

日本経済は生産年齢人口の減少に対応しないと駄目で、金融政策では片付かないと言ったのである。

そのクルーグマン教授や同じくノーベル経済学賞受賞のジョセフ・スティグリッツ教授らを官邸に招き

安倍政権は3月中旬に「国際金融経済分析会合」を開いた。

会合を消費増税先送りの根拠にするためにである。

非公開の会合だったがクルーグマン教授はツイッターで議事録を公開した。

議事録を見ると安倍政権側とクルーグマン教授の会話は噛み合っていない。

そしてオフレコにしてくれと言われた部分まで公開した事で、

安倍総理が5月にG7各国を訪問し、ドイツに財政出動を働きかける事が分かった。

伊勢志摩サミット直後に解散するつもりの安倍総理は、

世界経済を巡る議論を自らの手柄にして選挙を演出したいのだ。

またスティグリッツ教授が提出した資料を見るとアベノミクスとは真逆の思想である事が分かる。

かつての民主党の主張に近い。

そのスティグリッツ教授が消費税先送りを演出するためだけに安倍政権に利用されたと思えば、

アベノミクスに批判のトーンを強める可能性がある。

米国の経済学者の肩書を利用しようとした目論見は裏目に出るかもしれない。

一方、オバマ大統領は31日から開かれた核セキュリティサミットで、

安倍総理に対し辺野古基地建設工事の一時中断を批判した。

安倍総理は「急がば回れだ」と言い訳したが、

この工事中断はダブル選挙を有利にするために安倍官邸が画策した「政治休戦」の結果である。

沖縄では6月5日に県議選、23日に「慰霊の日」を迎える。

7月10日のダブル選挙までの期間、安倍政権は辺野古基地建設を一時棚上げする必要があった。

そこをオバマから突かれて安倍総理は慌てたと思う。それが「急がば回れ」の発言になった。

そして4月1日に、辺野古沖で抗議活動をしていた沖縄在住の芥川賞作家を米軍が逮捕した。

この逮捕劇が沖縄を刺激し「急がば回れ」の発言に加え安倍官邸が画策した「政治休戦」を

無意味にする可能性がある。選挙のための仕掛けは予定通りに進んではいない。

そうなると安倍政権は国内メディアを操縦する事に力を入れ、

伊勢志摩サミットで世界経済をリードする安倍総理の姿を国民の目に焼き付けようとするだろう。

すると外国メディアと日本メディアの差が歴然とする。

外国メディアは以前からG7サミットなどほとんど報道しない。

中国もロシアも参加しないサミットに中身はないからだ。

しかし日本のメディアだけはサミットで大騒ぎし、外国メディアから馬鹿にされてきた。

それがまた増幅される事になる。

折しもワシントン・ポスト紙は先月、安倍政権のメディアに対する圧力を社説で批判した。

ワシントン・ポストが批判した事は、米国政府が批判的に見ている事の証左である。

米国はTPPと集団的自衛権の行使容認では安倍政権を利用するが、

それが終われば用済みになるだろうとフーテンはブログに書いたが、

最近の流れはそれを裏付けているように見える。

そして国会ではいよいよTPPの議論が始まる。

始まればいやでも甘利前経済再生担当大臣の顔が目に浮かぶ。

そして「政治とカネ」が記憶によみがえる。

一方で「能力に問題アリ」と見られている石原伸晃新大臣が答弁に立つ。

甘利氏しか知らない話が多いとされるTPP審議はおそらく意味不明になるだろう。

安倍政権が教えを乞うた米国の経済学者たちもTPPには反対していたから安倍政権には分が悪い。

それでも安倍政権が解散に打って出れると考えるとすれば、野党の非力さのせいである。

その非力さの根源には国民の期待を裏切った民主党政権で責任を取るべき人物が

いまだに責任を取らずに居直っている事実がある。

政治技術の未熟さを露呈した鳩山由紀夫氏は議員辞職をした。

しかし菅直人、野田佳彦の両元代表はいまだに現職のままである。

スティグリッツ教授が主張する経済政策を選挙公約に掲げて政権交代を果たした民主党を

変質させたのは、その菅、野田両政権である。

その変質が安倍政権を誕生させる最も強い動機づけになった。

民進党に期待が集まらないのもそこに原因がある。

もしも責任を取るべき人物が次の選挙に出馬せず、けじめがつけられたと国民が判断すれば、

政権交代が起こる可能性は十分にあるとフーテンは思う。

それがなければ政権交代は難しいかもしれない。

しかし自公政権が続いても安倍政権を終わらせることはできる。

選挙で与党の議席が減れば安倍総理の責任問題が浮上するからだ。

とにかく破たんしたアベノミクスを早く終わらせないと子供や孫の時代の日本は危うい。

安倍政権が仕掛ける延命のためのダブル選挙を、

安倍政権を終わらせる選挙にする時が来たとフーテンは思っている。

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