★米国の顔色を伺って米国の対日侮蔑をもたらした湾岸戦争の前例ー(田中良紹氏)

3月29日安保法が施行された。

その日、安倍総理は参議院予算委員会で

「安保法を廃止すれば、日米同盟の絆は大きく毀損される」と答弁し、

自公両党は30日に野党5党が提出した廃止法案の審議を行わない事を確認した。

国民の理解が十分に進んでいない事を認めながら、

安倍政権は安全保障問題で国民的議論を封じ込め、

既成事実を積み重ねて自衛隊に米軍の肩代わりを演じさせようとしている。

国民に理解させないまま米国に追随する事が、

当の米国に対日侮蔑の感情をもたらした湾岸戦争の前例を日本政府は忘れてしまったようだ。

湾岸戦争を巡っては

「日本は人的貢献をせずただ金だけ払ったため世界から馬鹿にされた」と言われるが、

当時ワシントンを取材していたフーテンに言わせれば、それは一部の人間が作りだしたデマゴーグである。

当時の村田良平駐米大使も認めているように、

米国は日本の1兆円を超す支援金を本音では大変に感謝していた。

ただ当時は日本経済が米国を圧倒し、米国内にジャパンバッシングの感情が高まり、

感謝を素直に表明できる状況ではなかった。

一方で、米国の指導層は日本が米国と肩を並べる大国になる可能性を意識していたが、

湾岸戦争における日本政府の対応に大国としてのふるまいを感じさせるものがなかった。

イラクのクウェート侵攻が起きたのは90年8月2日である。

冷戦が終わって初の侵略戦争に国際社会はどう対応するか。

各国とも夏休みが明けると議会を開いて対応を協議し、

その結果、冷戦のために機能してこなかった国連主導の集団安全保障が行使されることになった。

ところが日本だけは国会を開かず、日本政府は米国政府に支援金の提供を打診するだけだった。

これを見て米国はどう思ったか。中東の石油は日本経済の生命線である。

その地域で戦争が起きているのに国会も開かず、

国民に問題の重要性を説明し超党派で対応策を議論する事をしない国の姿に大いなる侮蔑を感じた。

米国政府は「日本は大国になるかもしれないと思ったがとんでもない。

自国の重要な問題を国民的議論にせず、

米国の顔色を伺うだけの国は所詮は従属国だ」との結論に達した。

そこから日本に対する脅しといじめが公然と始まる。

ジャパン・ハンドラーと言われる連中に「ショウ・ザ・フラッグ」とか

「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」と上から目線で言われるようになり、

日本政府はそれが「トラウマ」となって米国の言いなりになっていく。

その最終段階に今回の安保法制はある。

第3次日米ガイドラインが先に作られ、そこに日米同盟のグローバルな展開が明記され、

自衛隊に地球規模での米軍の肩代わりをさせる法案が十分な説明もないまま可決された。

米軍の狙いは中東でのテロとの戦いに自衛隊を活用する事にある。

これまで自衛隊に戦闘で死傷者を出すことはなかったが、

これからはその可能性が現実になる。

そのため安倍政権は安保法が施行されても新たな任務の実施は当面見送るという。

参議院選挙の前に死傷者が出るようなことになれば、選挙への重大な影響が懸念されるからだ。

しかし法律が施行された以上新たな任務をいつまでも見送る訳にはいかない。

しかも安倍総理が「安保法を廃止すれば日米同盟は毀損される」と発言した事で、

日本を「米国の顔色を伺うだけの従属国」と見る米国の意識はさらに強められた。

いずれ自衛隊員に犠牲者が出る事は間違いないが、問題はその時点でも国論が分断されている事である。

安保法が施行された29日に日本記者クラブで会見した山崎拓元自民党幹事長は、

米国のアフガン戦争に協力した「テロ特措法」や

イラクのサマワに自衛隊を派遣した「イラク特措法」を成立させた経験から、

裏舞台では当時の民主党幹部と小泉総理との間で協議を行っていた話を披露し、

「安全保障問題は超党派で決めるのが原則である」と述べた。

山崎氏によれば小泉元総理も安倍政権が野党と対立したまま安保法を決めた事に

反対しているという。

そして自衛隊員に死傷者が出れば世論は一気に安倍政権を非難するようになり、

自民党は政権を失うとの見通しを示した。

であるから安倍総理は衆議院選挙も死傷者が出る前に行って、

その後4年間の任期を固め、

死傷者が出ても選挙を行わずに持ちこたえようとしているのかもしれない。

そのための衆参ダブル選挙だとすれば、それは自民党の将来がない事を見通したうえで、

先がないから今選挙をやるという極端に身勝手な政治手法という事になる。

湾岸戦争以来、日本を侮蔑の対象としてきた米国は、

米国の国益に協力する安倍政権を歓迎はするが、しかし同時に侮蔑の感情も増大させ、

ついには日本無視にもつながる。

フーテンには現在の安倍政権の姿勢が日米の両国関係を良好にする道だとは思えない。

一定の緊張感を持つ同盟こそが望ましいが、安倍政権にそれを求めても所詮は無理な話である。

対立と分断の手法で安倍政権が突き進む以上、

その流れを変えるには安倍政権を交代させる以外に方法はない。

その方向に向かって日本の政治は流れの速さが急速に増していくようにフーテンには思える。

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