(重要)★安倍総理の「改憲アドバルーン」の真意を読み解くー(田中良紹氏)

国会で安倍総理が憲法改正に踏み込む発言を繰り返し注目されている。

その真意を巡って見方は様々だが、

フーテンは次の選挙での野党共闘を分断したい思惑と、

自らの願望を表明して周囲の反応や世論の動向を探る「アドバルーン」と見ている。

これまでの安倍政権は選挙前には決して憲法問題を前面には出さず、

経済対策をテーマにしてアベノミクスで票を稼ぎ、

大量議席を得てから改憲作業に着手するという手法を繰り返してきた。

2013年の参議院選挙はアベノミクスで勝利し、

「ねじれ」が解消されると直ちに麻生副総理が「ナチス的改憲」に言及、

年末には集団的自衛権行使の前提として米国から要請されていた「特定秘密保護法」を強行可決した。

14年には消費増税延期を争点に解散・総選挙を行い、

勝利すると集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、15年通常国会で関連法を強行可決した。

経済を訴えて選挙に勝ち、勝てば改憲に手を付ける。

安倍政権のやり方は国民の幅広い階層から怒りを買い、

それを受けて日本共産党は他の野党との選挙協力に乗り出す方針を表明した。

それは自公両党に深刻な危機感を与えている。

なぜなら自民党は2005年の郵政選挙をピークに得票数を減らし続けているからだ。

民主党に政権を奪われた09年の総選挙より政権を奪還した12年の総選挙が小選挙区で166万票、

比例で218万票減らし、さらに14年の総選挙も得票数は09年を下回っている。

得票数の減少は投票率が戦後最低レベルに下がったためでもあるが、

投票率を最も下げているのはかつて自民党が圧倒的に強かった北陸や山陰などの選挙区で、

安倍政権誕生以降の選挙にはかつての自民党支持者が自民党に投票しない傾向がみられるのである。

そこに「オール沖縄」のように野党候補の一本化が図られれば、

与党が苦戦を強いられるのは必至である。それは自公のこれまでの選挙協力効果を減殺する。

これまで自民党が小選挙区で議席を得るために公明党は小選挙区に候補者を立てず、

公明党支持者が自民党に投票することを絶対条件としてきた。

それがなければとうの昔に自民党は政権の座から滑り落ちている。

そして公明党と自民党との間には政策的に隔たりがあるにもかかわらず、

隔たりを取り繕う高度な政治的妥協を重ねながら自公はこれまで権力を維持してきた。

ところが民主党を中心とする野党にはそうした芸当が出来ない。

政治的未熟さのため主義主張を言い募ってバラバラに候補者を立て、

自公の選挙協力を有利にさせてきた。それを共産党は勇断を持って変えようというのである。

自公は共産党が決断した意味を野党以上に知っている。だから何としても阻止したい。

そのために「アドバルーン」を上げ、憲法を選挙のテーマにするかのようにみせ、

「政策で共産党と組めるのか」と他の野党に迫っているのである。

さらに安倍総理は否定するが周囲に衆参ダブル選挙の可能性を言わせている。

衆議院選挙が同時に行われれば野党は共闘しづらくなると思わせるためである。

この「アドバルーン」を、「一強」が野党を翻弄する「余裕」の表れと見る人もいる。

本音か本音でないか分からない言動を繰り出すのは「余裕」があるからできるというのである。

しかしフーテンは今の安倍政権にそんな「余裕」などないと思う。

政治の世界で余裕を見せている時には余裕がないというのがフーテンの見てきた政治の実態である。

政治家というのはリング上のボクサーと同じで、

どんなにパンチを食らっていても全く効いていない顔をしなければ支持者は逃げてしまう。

だからなんでもない顔をしていて倒れる時は突然倒れる。

安倍政権が政権を獲得できたのも高支持率を維持できているのもすべて民主党のおかげである。

従って民主党が何をやっても安倍政権は倒れない。

しかし自公連立で公明党が果たしてきた役割を野党の側で共産党が果たすようになれば、

相手が未熟な民主党でも安閑としてはいられない。

政策的には水と油の自民党と公明党が連立を組んでからの17年を考えれば、

困難な「妥協」を乗り越える経験によって政治の知恵が生まれ、

それによって自公は良くも悪くも政治的に成長してきた。それを自公は十二分に知っている。

その政治技術を野党勢力が持つようになれば、

これまでの常識を超える政党同士の結びつきが始まって日本政治は成熟度を高め、

未熟だった野党勢力も力を持つようになる。

それは1日でも長く政権を維持したい安倍政権をはじめ自公には考えたくない悪夢である。

また選挙の前に憲法問題を前面に出す事のなかった安倍政権が憲法を押し出してきた理由には、

アベノミクスを前面に立てにくくなってきた事情もある。

すでに海外ではアベノミクスの失敗が常識になりつつあり、アベノミクスは仕切り直しを迫られている。

安倍総理は伊勢・志摩サミットの前にエコノミストを集めて世界経済の行方を検討させる予定のようだが、

それはおそらくアベノミクスの仕切り直しの場となる。

そこで消費増税の先送りや財政出動などの計画を俎上に載せたいのではと思わせるが、

一方で下手をするとそれが国際公約違反と受け止められて

日本経済にマイナスに作用する可能性もある。

アベノミクスはいよいよごまかしのきかない正念場を迎えている。

だからフーテンにはとても「余裕」のある「アドバルーン」には見えないのである。

そして安倍総理の願望としては衆参ダブル選挙を実現し、

それに勝利して任期延長を目論むつもりだろうが、

かつて中曽根総理が仕掛けたダブル選挙の裏舞台を見てきたフーテンには

それだけの政治力が安倍総理に備わっているかが疑問である。

6月1日の通常国会会期末に解散が打てるかどうか、そして選挙に勝つことが出来るかどうか、

1986年の衆参ダブル選挙への過程を思い出しながら今後の政局の行方を見つめる事にする。

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