★「辺野古に基地を造らせない」実現可否だけが焦点ー(植草一秀氏)

沖縄県名護市辺野古海岸における米軍基地建設問題で

国と沖縄県が対立している代執行訴訟で国と県の和解が成立した。

国は訴訟を取り下げて工事を一時中断する。

和解条項の最大のポイントは、

県が今後、辺野古沿岸部での埋め立て承認取り消しに関して新たな訴訟を提起して判決が確定した場合に、

「政府と県がその判決に従う」

とともに、

「その後も互いに協力して誠実に対応する」

ことが盛り込まれた点にある。

この点を踏まえると、今回の和解は、

国の主張が押し通される結果を早期にもたらすものになる意味を有すると考えられる。

国と県が訴訟を応酬してゆく場合、問題の最終決着には多大の時間を要する。

さらに、辺野古米軍基地建設の設計変更を行う場合、知事が承認を下さなければ、工事はできない。

和解条項には、

辺野古沿岸部での埋め立て承認取り消しに関して新たな訴訟を提起して判決が確定した場合に、

「政府と県がその判決に従う」

ことを確認してしまっているため、仮に県が訴訟で敗れた場合に、辺野古基地建設を阻止する行動が

「和解に反する」

との批判を招きやすくなることが予想される。

沖縄県の翁長雄志氏の公約は、

「辺野古に基地を造らせない」である。

この公約に対する行動の評価は、「辺野古に基地を造らせない」公約を守るために、

最大の力を注いだのかどうかによることになる。

今回の和解で、工事は一時中断されることになるが、

最終的に辺野古に基地が造られてしまうのなら、意味はない。

昨年8月から9月にかけて工事が一時中断されたことがあったが、一時中断以上の意味はなかった。

この時期、日本国内で最大の問題になったのは、安保法制=戦争法制だった。

安倍政権は戦争法制強行制定と沖縄問題の同時進行を嫌い、

沖縄問題をこの期間だけ鎮静化する方策を講じたものと見られる。

今回は、今年夏に参院選と沖縄県議選があり、

この選挙に向けて、基地阻止勢力がさらに勢力を拡大することを阻止するために、やはり、

この期間だけ工事を中断する方策を講じたものと見える。

辺野古基地建設阻止を主張してきたメディアは、

今回の和解成立をプラスに評価する論説を提示しているが、問題の本質を見落としている。

問題の本質とは、

「辺野古に基地を造らせない」

公約が守られるかどうか。

その一点にある。

国と県が対立し、県知事が

「辺野古に基地を造らせない」

ためにあらゆる手段を、もっとも効果的に活用することが、

「辺野古に基地を造らせない」

結果を実現するためには、最も有効である。

「訴訟を仕切り直しして、その訴訟の判決が示されたら、その判決に従う」ことを内容とする和解に応じることは、

「辺野古に基地を造らせる」

結果につながる可能性を著しく高める行動であると考えられる。

評価が定まるのは結果が判明してからということになるが、

仮に「辺野古に基地が造られる」結果が生じる場合には、

今回の和解案受け入れも、その重要な原因のひとつになったとの評価を受けることを避けることはできない。

辺野古の米軍基地建設を現実に進行させるためには、

本体工事に入る前に、知事との事前協議が必要だった。

翁長知事が知事就任後、直ちに、前知事である仲井真弘多知事による埋立承認を

撤回ないし取り消ししていれば、国は県との事前協議を行えなかった。

事前協議を行えなければ、国は辺野古基地建設の本体工事には入れなかった。

しかし、翁長知事は、国が事前協議書を沖縄県に提出するまで承認取消には動かなかった。

逆に言えば、国が県との事前協議書を提出するまで承認取消を先送りしたように見える。

そして、事前協議に基づく本体工事着工が、

ちょうど昨年9月の戦争法制強行制定の時期に重なったことから、

この期間だけ工事を一時中断した。

しかし、

この期間だけ工事を中断しただけで、戦争法制を強行制定したあとは、

何事もなかったかのように本体工事に着手したのである。

本当に「辺野古に基地を造らせない」公約を実現することを考えるなら、

今回の和解に応じることはプラスには見えない。

安倍政権が和解によって、辺野古米軍基地建設問題について、

工事中止を含めて再検討する姿勢を示しているなら、和解に応じることは合理的である。

しかし、和解受け入れを表明した会見で

「辺野古移設が唯一の選択肢である考えに変わりはない」との発言を明確に行なうなかで、

今回の和解に応じることは、「辺野古に基地を造らせない」ことから遠ざかる選択である。

国が辺野古基地建設計画を断念することを含めて再検討する考えを示す

今後の訴訟の判決が出ても、

「辺野古に基地を造らせない」ためのあらゆる方策を取ることを確保したうえで和解に応じるのなら、

沖縄県が和解に応じる意味はある。

しかし、今回の和解は、この2点を確保するものでない。

この2点が正反対の内容を含む和解なのだ。

国は「辺野古移設が唯一の選択肢だ」との考えを維持し、

しかも、沖縄県は、「今後の訴訟の判決に従う」ことを確約している。

沖縄県が今後の訴訟で負けた場合、基地建設阻止の行動を取りにくくなると考えるのが自然である。

翁長雄志氏は、和解成立後の記者団への発言で、

「行政として判決に従うのは当然だ」

と述べながら、

「名護市辺野古に基地をつくらせないことが公約なので、

いろいろなやり方でこれからも信念を持ってやっていきたい」

と述べたが、この発言自体に矛盾が含まれている。

「辺野古に基地を造らせない」

公約を守り抜くには、

「たとえどのような判決が出ようとも、

辺野古に基地を造らせない公約を守り抜くためにありとあらゆる方策を駆使して

辺野古に基地を造らせないという公約を守り抜く」と応えるべきであると思う。

和解条項によると、国は知事の埋め立て承認取り消しに対し、

地方自治法に基づき、是正の指示を出すことになる。

この指示に対し、県は不服があれば総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」に

審査を申し出ることになる。

地方自治法は指示から審査申し出までの期間を30日以内と定めているが、

和解条項はこれを1週間以内に短縮した。

審査結果について不服がある場合には、県は国を相手取り、

是正指示の取り消しを求める訴訟を福岡高裁那覇支部に起こすことになる。

和解条項はこの訴訟の判決が確定するまで、

国と県に普天間飛行場の移設問題の解決に向けて協議することを求めた。

そして、判決が確定した場合に、

国と県が判決に従って協力することを命じたのである。

この和解案を沖縄県が受け入れた。

是正指示の取り消し訴訟は国有利だと見られている。

つまり、今後に予想される訴訟においては、沖縄県が敗訴する可能性が高いのだ。

そして、その訴訟判決について、

「判決が確定した場合に、国と県が判決に従って協力することを命じた」

和解を受け入れるということは、

「辺野古に基地を造らせない」ための行動の手足を縛る結果をもたらす可能性が高いと言わざるを得ない。

翁長雄志氏の公約は、あくまでも「辺野古に基地を造らせない」ことである。

どのような判決が出ようとも、

基地建設の設計変更に際して、設計変更を承認しないなどのかたちで、徹底抗戦を行うことが求められる。

今回の和解案受け入れは、国にとって都合の良い内容であり、

「辺野古に基地を造らせない」

公約実現を遠ざけるものだとの批評は免れないように思われる。

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