★ TPPで国民の生存権・幸福追求権が侵害されるー(植草一秀氏)

昨日、2月22日、TPP違憲訴訟の第3回口頭弁論が開かれた。

東京地方裁判所前で開かれた門前集会には、200名もの主権者が参集し、

TPP批准阻止に向けての決意が確認された。

傍聴券を取得できなかった主権者を対象に衆議院議員会館大会議室で開かれた勉強会には

350人を超える主権者が参集し、その後の公判報告会も実施された。

法廷では、原告が要求した原告自身による意見陳述が認められ、

TPPによって主権者の基本的人権が侵害されること、

TPPが日本の国家主権を侵害するものであることなどが、具体的に指摘された。

口頭弁論の詳細は、ジャーナリストの高橋清隆氏が早速ブログに記事を掲載された。

「批准阻止へ向け3人が陳述=TPP訴訟第3回口頭弁論」
http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/archives/1894508.html

ご高覧賜りたい。

高橋氏の記事から、原告の意見陳述の概要部分を紹介させていただく。

孫崎享氏は、ISDS(投資家対国家紛争解決)条項について、憲法第41条と同76条を根拠に批判。

「国会は国権の最高機関であり、全ての司法権は最高裁判所および法律の定めるところにより設置する
下級裁判所に属する。しかし、ISDSは憲法の定めるこれら統治機構を根本から破壊する」

と指摘した。

また、孫崎氏は自由貿易協定で企業に訴えられた国が数百万ドルの損害賠償を請求された例を挙げ、

世銀傘下に設けられる仲裁裁判所を問題視した。

「国益を害されることは、日本にも明らか。国の裁判所の頭越しに賠償を命じることは、

司法をないがしろにし、許されるものではない」

と主張した。

NPO法人アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長である赤城智子氏は、

アレルギー疾患についての電話相談を3年間担当した経験を明かし、

食物中のアレルゲンが呼吸困難や意識障害を引き起こすと訴えた。

「日本は2000年に原因物質を表示することが義務付けられた。

これは世界初で、10ppm(100万分の1)の単位の優れたもの。

それがTPPに加盟したら、貿易の障壁にされかねない。

基準の科学的根拠が証明できなければならないから。

表示がなければ、私たち患者は食べ物を選ぶこと、健康を守る行為ができなくなり、生存権が脅かされる」

と憲法25条違反であると指摘した。

また、生活協同組合パルシステム東京の野々山理恵子氏は、

生協運動や地域活動に関わってきた立場から、子供たちの生来を危惧した。

わが国で認められている食品添加物が800品目強なのに対し、米国では3000品目に及ぶことを指摘。

「企業に不利益」との理由で、

BSE(狂牛病)の輸入や成長促進のためのホルモン剤投与に対する規制がなくなり、

遺伝子組み換え表示などが撤廃される危険性を訴えた。

その上で、

「TPPの交渉過程は秘密が貫かれ、私たちはリスクを知ることができない。

協定文書も仮訳のまま国会審議されるのは不安。

私たちの知る権利を侵害している」

と憲法21条違反を提起した。

いずれの意見陳述も、TPPの本質、核心を衝いた的確な指摘である。

孫崎氏が指摘した日本国憲法第41条および第76条の条文は次のものだ。

第四十一条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

第七十六条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

TPPのISDS条項は、日本の外にある仲裁裁判所を国家権力の上位に位置づけるもので、

国家主権を侵害するものであることは明らかである。

孫崎氏が訴えたことが直接的に影響を与えるのは裁判所自身である。

ISDS条項は日本の裁判所の否定であり、

このことをもっとも深刻に受け止めなければならないのは日本の裁判所の裁判官である。

孫崎氏が重要な事実を指摘しているときに裁判長は手元の資料を確認して、

孫崎氏の言葉に注意を払っているようには見えなかったが、

ISDS条項が日本の司法権侵害であることを裁判所裁判官自身が真剣に受け止めるべきである。

ISDS条項を否定したのは、安倍晋三自民党自身である。

「国の主権を損なうようなISD条項に合意しない」

ことを明確に公約として掲げたのである。

そのISDS条項が盛り込まれているTPPに日本は参加する意向を示している。

このような暴挙を許すわけにはいかない。

2012年12月の総選挙に際して、安倍晋三自民党は6項目の公約を明示した。

http://goo.gl/Hk4Alg

「わが党は、TPP交渉参加の判断基準を明確に示します。

TPP交渉参加の判断基準

1 政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。

2 自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。

3 国民皆保険制度を守る。

4 食の安全安心の基準を守る。

5 国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。

6 政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。」

自民党が提示した公約であるが、内容としては適正だ。

自民党だからといって、常に間違った政策を提示するわけではない。

TPPに関する自民党の6項目の公約は適正なものであると評価できる。

重要なことは、選挙の際に公約を明示して、

主権者の判断で政権を担うことを委ねられたのなら、その公約を必ず守ることだ。

これが、議会制民主主義が健全に機能する政治のプロセスである。

しかし、2012年12月総選挙後の安倍晋三自民党の行動は、文字通り背信、背徳の連続であった。

農産品5品目の関税を守るという公約も反故にされた。

5品目に関係する農産品586品目のうち、174品目の関税が撤廃されることになった。

2月22日の口頭弁論でも指摘のあった

食の安全・安心に関わる事項について、主権者の不安が増すのは当然の展開である。

アレルギー反応をもたらす食品等について、当事者である主権者は常に細心の注意を払っている。

アレルゲンの表示義務は、関係者の長年の努力によって勝ち得られたものである。

日本がTPPに入り、外国資本が日本のこれらの制度が損害をもたらすと主張するかも知れぬ。

外国資本が国際仲裁機関に提訴して、この仲裁機関が決定を示すと、

日本国はその決定に従う義務を背負わされる。

日本国民の生命や健康が守られなくなる。

憲法25条が保証する生存権、憲法13条が保証する幸福追求権が侵害されることになる。

遺伝子組み換え食品の表示が義務付けられているのは、

これが国民の生命や健康に悪影響を及ぼすことが懸念されているからである。

かつてイギリスの研究者がイギリス政府から委託されて、

遺伝子組み換え食品の健康に与える影響についての動物実験の結果を報告した。

報告内容は遺伝子組み換え食品が健康に有害な影響を与える可能性を示すものだった。

この研究者の報告がテレビで放送されると、その2日後に研究者は解雇された。

遺伝子組み換え食品を市場に供給する大資本から圧力が加えられたためだと推察されている。

こうした、健康に害を与えることが懸念されている食品等を市場に供給する大資本は

次のような論理で販売を維持しようとする。

それは、

「有害性が科学的に立証されない限り供給を続ける」

というものだ。

本来は、

「安全性が科学的に立証されない限り供給は許されない」

と考えるべきだが、現実は逆の論理が用いられているのだ。

「科学的に立証」

という言葉がカギを握る。

原発事故がまき散らした大量の放射性物質。

福島では若年層の甲状腺がんが異常な勢いで増加している。

誰もが原発事故の影響であると推察する。

しかし、

「科学的立証」

ということになると、容易なことではないのだ。

原発事故の責任を免れようとする勢力、原発をなお稼働し続けようとする勢力は、

たとえば原発事故と甲状腺がんとの因果関係が

「科学的には立証されていない」

と主張する。

そして、損害賠償にも応じず、原発再稼働を推進している。

日本がTPPに参加すると、この論理が日本の外側から強制されることになる。

アレルギー症の発症を防ぐために必要不可欠なアレルゲン表示義務が

日本で活動する資本の利益を損ねるものだとして禁止されるかもしれない。

遺伝子組み換え(GM)食品を供給する大資本は、

GMの健康への悪影響が科学的に立証されない限り、その表示義務付けは認められないと主張するだろう。

日本政府が応じなければ、ISDS条項を用いて国際仲裁機関に提訴して巨額の賠償金を請求するかも知れない。

このリスクに反応して、日本政府が自主的に各種規制を撤廃するというような事態も考えられるのである。

いずれにせよ、日本のことは日本が決める。

これが基本であり、同時に、当然のことだ。

ISDS条項は国の主権を損なうものであり、ISDS条項が盛り込まれているTPPに日本は参加しない。

これが安倍晋三自民党が国民に約束した事項であり、日本の主権者がその遵守を求めるのは当然のことだ。

拙速にTPP批准に突き進む安倍政権を徹底糾弾しなければならない。

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