★貸した金を返してと言えない恐怖の日米関係-(植草一秀氏)

アベノミクスは当初、

金融緩和

財政出動

成長戦略

の3頭立てであった。

米国金利が上昇してドル高の基調が生まれていたから、

日本の追加金融緩和政策が効いたように見えた。

ドル高=円安が進行して日本株価が上昇した。

同時に見落とせないことは、安倍政権が政権発足直後に13兆円規模の補正予算を編成したことだ。

内容には問題がある。

利権支出満載で、国民の生活を底上げする政府支出がほとんど盛り込まれなかったからだ。

それでも、財政政策の基本スタンスを超緊縮から積極に転換した効果は大きかった。

結局のところ、財政金融政策を総動員して日本経済の改善を生みだしたのだ。

これと円安が重なり、日本株価を上昇させた。

このまま日本経済を安定飛行体制に移行させるべきであった。

ところが、安倍政権は2014年に政策スタンスを一変させた。

消費税大増税に踏み切り、せっかく浮上した日本経済を撃墜した。

アベノミクス第二の矢と自称していた財政出動を、一転して、財政政策逆噴射に切り替えた。

私は、消費税増税が日本経済を撃墜することを警告した。

消費税増税の影響は深刻になることを警告したのである。

日本経済新聞は、

「消費税増税の影響軽微」

の大キャンペンを張った。

しかし、結果は悲惨だった。

2014年4-6月期の実質GDP成長率は、在庫と外需の影響を除くと、年率16%のマイナスに転落した。

2014年度の実質経済成長率は-1.0%に転落した。

日本経済は消費税大増税によって撃墜されてしまったのだ。

アベノミクスではなく、アベコベノミクスが実行された。

このアベコベノミクスが続いている。

2016年度の財政緊縮は過去最大級のものである。

この状態を土台に、2017年4月の消費税率10%に突入すれば、日本経済が崩落することは間違いない。

安倍政権は、まず、この過ちを正す必要があるのだ。

もうひとつ重大な問題がある。

私は、昨年4月21日付ブログに、

「安倍政権は政府保有米国債売却を決断せよ」

http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2015/04/post-c62c.html

と題する記事を掲載した。

現在、日本政府は約1兆2500億ドルの外貨準備を保有している。

外貨準備というのは、日本政府が日銀から借金して、そのお金で外貨建て資産を購入した残高のことである。

そのほとんどが米国国債である。

2016年1月末時点の外貨準備残高は

1兆2481億ドルである。

実は、この外貨準備によって、日本は巨大損失を計上してきた歴史を有する。

2007年6月末を起点に事実経過を紹介しよう。

2007年6月末の外貨準備残高は9136億ドルだった。

当時のドル円レートは1ドル=124円だった。

円換算で113兆円の外貨準備を保有していた。

それから4年半の間に日本政府は外貨準備を3931億ドル増やした。

投入した資金は約39兆円だ。

2012年1月末時点での投資元本は、

113兆円+39兆円=152兆円だった。

ところが、この間に急激な円高が進行し、ドル円レートは1ドル=75円になった。

その結果、外貨準備の円評価額が98兆円になってしまった。

たった4年半で、なんと54兆円の巨大損失を計上してしまったのだ。

空前絶後の悪夢である。

その巨大損失が2012年から2015年の円安で完全に消えた。

だから、ドルが高いうちに、外貨準備のドル資産をすべて売却せよと指摘したのだ。

ところが、日本政府は1ドルもドル資産を売っていない。

そして、最近の円高で、再び15兆円もの損失を計上しているのだ。

この犯罪的な行動を国会で糾弾しなければならない。

2012年1月末時点で、日本の外貨準備高の円評価額は98兆円になった。

2007年6月末を起点として、4年半で54兆円の損失を計上したのだ。

日本の国家予算の2分の1を超える損失である。

この巨大損失を生みだしたにもかかわらず、誰一人責任を取っていない。

責任を取っていないどころか、誰一人、責任を明らかにもしていない。

国民の年金を預かるGPIFは、140兆円規模の資金を運用しているが、

昨年7-9月期に、わずか3ヵ月で8兆円もの損失を出した。

その後、10月からこの2月までの間に、さらに巨大な損失を生みだしていると見られる。

民間の資金運用会社がこれだけの損失を計上したら、どのような対応が取られるのか。

重い刑事罰まで適用される事例が観測されてきた。

しかし、日本政府が巨大損失を計上しても、誰も責任を取らないどころか、事実さえしっかり公表しない。

日本の劣化は本当に深刻である。

54兆円という、空前絶後の巨大損失を生みだした政府の外貨準備であったが、

その後の円安で奇跡が起きた。

ドル円レートが1ドル=125円にまで円安に振れて、

外貨準備の円評価額が155兆円に回復したのである。

外貨準備残高が1兆3000億ドルから1兆2500億ドルに減少したのに、

円評価額は投資元本の152兆円よりも多い153兆円になった。

このような奇跡が起きたのだから、この奇跡をありがたく活用することが、日本国民に対する責務である。

日本政府は1兆2500億ドルのドル建て資産を全額売却して、累損の一掃を図るべきである。

こう指摘したのである。

安倍政権に近い人物は、外為特会の埋蔵金を使って経済政策を打つことができるなどとも主張した。

外貨準備残高の円評価額が増加したから、

この評価益を政府支出の原資として活用するべきだと主張したのである。

しかし、残念ながら、この主張には決定的な部分で大きな過ちがある。

ドルが高くなった時点の円換算金額を、財政支出に充てることはできないからだ。

「取らぬ狸の皮算用」

なのだ。

ドルが上昇して、日本の外貨準備残高の円評価額が増大しても、ドルが高い間に、

そのドル資産を売却しなければ、円評価額を確定することはできない。

未実現の評価益など、何の意味もないのだ。

私は、昨年6月以降、ドル円のこれ以上のドル高=円安の可能性は低下しているとの見解を示してきた。

日銀の黒田東彦総裁自身が、昨年6月10日の国会審議で、

「これ以上の実質実効レートでの円安はありそうにない」

と述べた。

実際に、ドル円レートは昨年6月の1ドル=125円を上限にして、

それ以上のドル高=円安は進行していない。

そして、この1月から2月にかけて、ドル安=円高が急進展した。

1.25兆ドルの外貨準備残高を1ドル=110円で円換算すると137兆円だ。

昨年6月の155兆円から見て、18兆円も減少してしまった。

消費税の軽減税率の財源が1兆円必要だ、などという話が国会で論じられている。

そんなことを話している間に、日本政府の資産残高が18兆円も減少しているのだ。

消費税率を2%引き上げて、4兆円の税収を得ることが計画されているが、

18兆円もの損失を回避していれば、それだけで、4年間も消費税増税を先送りできるではないか。

日本政府が1兆2500億ドルの外貨準備を保有する必要性は皆無である。

ドルの下落=円の上昇を防ぐためにドルを買ったのなら、

ドルが上昇して、円が下落した局面で、買ったドル資産は売ればいいのだ。

2007年6月を起点に計算すると、日本政府は米国に152兆円の巨額の資金を注ぎ込んだ。

米国国債を買ったということは、152兆円のお金を米国に貸したということだ。

貸したお金なのだから、返してもらうの当然のことだ。

ところが、日本政府は米国に貸したお金を返してもらったことが、実は一度もない。

「返して下さい」と言ったことすらないのだ。

1997年6月に橋本龍太郎首相が、コロンビア大学での講演後の質疑応答で、

「米国国債を売りたいという衝動に駆られたことがある」

と発言して騒動になった。

そして、橋本氏は98年に首相辞任に追い込まれ、2006年に急逝した。

外貨準備売却に言及したことのある中川昭一元財務相は、2009年2月、

イタリア・ローマでのG7財務相・中央銀行総裁会議に出席した際に朦朧会見を行い、

その後の総選挙で落選し、10月に急逝した。

日本政府が米国に貸したお金を返してもらうことは、一種のタブーとされているが、

日本が独立国であるとすると、これほどおかしなことはない。

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