★サイアクノミクスになっているアベノミクスー(植草一秀氏)

円高と日本株価下落が進行すると、

日本のメディアは、

「安全資産として日本円が買われている」

「世界経済のリスクが高まり株価が下落している」

と報道する。

それでは、2013年から2015年にかけて、

円安と日本株価上昇が進行したときに、

「危険資産を回避する行動が強まり、日本円が売られている」

「世界経済の回復期待が強まり株価が上昇している」

と説明していたか。

違う。

「アベノミクスの政策対応が好感されて、円安と株高が進行している」

と伝えていた。

そうであるなら、

「アベノミクスの政策対応が嫌気されて、円高と株安が進行している」

と伝えるべきだろう。

NHKはニュース報道のなかで、

「リスク回避の行動が強まり、安全な資産を買う動きが強まり、日本円が上昇しています」

などと、断定する原稿を用意するが、そもそも断定などできない。

これまでに断定形でのニュース原稿を書いてきたことをよいことに、勝手に理由をNHKが決めている。

もちろん、原稿を創作するときには、政治権力の顔色を窺う。

こうして、大本営発表のニュースが報道される。

こうして小さなウソが積上げられて、ペテンに満ちた政策が遂行されている。

しかし、安倍政権を支えてきた唯一の拠り所が株価上昇だったから、

株価急落は政権の屋台骨を揺さぶることになる。

2月12日の東京市場では、取引時間中に日経平均株価が15000円を割り込んだ。

日経平均株価が15000円を割り込むのは2014年10月以来、1年半ぶりのことだ。

2014年10月31日、黒田東彦日銀は、追加金融緩和政策第2弾を決定した。

2014年12月14日の選挙に合わせて、株価吊り上げの政策発動を決定したのである。

安倍政権は選挙に合わせて、2015年10月の消費税率10%への引上げを延期する決定を行った。

同時に原油価格の暴落が発生して、日本株価が大幅上昇して、

安倍政権は2014年12月の総選挙にも勝利してしまった。

しかし、日本の株価は、この黒田日銀金融緩和第2弾を決定する前の水準にまで下落してしまったのだ。

『金利・為替・株価特報』2016年2月15日号(2月上旬号)

http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html

には、株価下落の背景と事態打開に必要な条件を記述した。

政治権力に支配された日本のマスメディアは、円高と日本株価下落が、

日本の経済政策とは無関係であるかのように報道するが、まったくの間違いだ。

そもそも、アベノミクスそのものに大きな間違いが含まれている。

また、アベノミクスと言われるけれども、

安倍政権はアベノミクスで提示した政策とは正反対の政策も実行している。

アベコベノミクスとアベノミクスが混じり合っていて、正確に表現すると、

アベノミクスの悪い点はそのままにして、アベノミクスの正しい部分は正反対にしているのだ。

サイアクノミクス

となってしまっている。

これまでは、株価が上昇していたから、

雪があらゆるものを純白に染め抜いてしまうように日本経済の闇の部分が隠されてきた。

しかし、株価が下落して雪が解けてしまうと、あちこちから、汚れた部分が見え始める。

春節で中国からの旅行者は多いが、元は下落し、中国株価が暴落したから、

中国旅行者の支出は金額で見て大幅に減少するはずである。

日本経済の現状を正確に捉えて、適正な政策対応を打ち出さなければ、

日本経済は再転落することになるだろう。

2013年から2015年にかけて、たしかに株価は大幅に上昇した。

8664円の株価が20868円にまで上昇したのだから、そのインパクトは大きい。

株価が上昇した最大の背景は企業収益が急増したことである。

とりわけ輸出製造業の企業収益が急増した。

輸出製造業は最高益を獲得し、日本の株価は全体として大幅に上昇した。

これで恩恵を受けた企業や人はたしかに存在する。

安倍首相は国会で経済の話になると、いつも、むきになって日本経済が良くなったと強調する。

たしかに良くなった部分は存在するのだが、日本経済全体で見ると状況はかなり違う。

日本の経済成長率、実質GDP成長率は

2012年度 +0.9%
2013年度 +2.0%
2014年度 -1.0%

2015年4-6月期 -0.5%
2015年7-9月期 +1.0%

である。

2012年度は野田政権から安倍政権に交代した時期で、+0.9%の成長率。

その後も一進一退で、ゼロ近辺をさまよっている。

つまり、日本経済全体はゼロ成長近辺をさまようという、瀕死の状態が続いているのだ。

経済全体が瀕死の状態なのに、大企業の利益だけが拡大した。

とりわけ、輸出製造業の利益が拡大した。

背景には、

ゼロ金利

円安誘導

法人税減税

がある。

これらの環境で利益を得る主体と損失を蒙る主体が併存する。

普通の労働者と、リタイアした年金生活者にとって、この環境はどのようなものだっただろうか。

これらの普通の庶民は、給料で生活し、リタイアした老後は、虎の子貯金と年金で生計を立てる。

円安が進行して、インフレ率が上昇することは、普通の庶民にとって最悪だ。

円安になると輸入品が値上がりする。

庶民が輸出するということはないから、円安のメリットはない。

円高だったら、海外旅行の魅力が増すが、円安では海外旅行が高嶺の花になる。

だからといって、国内旅行が割安になるわけではない。

インフレの分だけ、国内旅行も値上がりする。

また、インフレの分だけ、給料は目減りする。

インフレを喜んでいるのは、給料を払う会社の側なのだ。

年金生活者は年金と虎の子貯金で暮らすが、インフレは年金と虎の子貯金の両方を直撃する。

本当に、百害あって一利なしだ。

さらに決定的なのが税制改悪だ。

大企業には途方もない大減税が実施されてきた。

その一方で、庶民には、消費税大増税のプレゼントだ。

こんなプレゼントいらない!

と誰もが叫ぶが、現実に大増税が強行実施されてきた。

主権者は選挙で投票する権利を持っているのだから、

消費税大増税を強行推進した議員を全員落選させればいい。

ところが、日本の主権者はその行動を取らない。

突き詰めると、国民自身が悪いのではないかということになってしまう。

日本国民はあまりに従順で、権力の行動を疑いもせず、抵抗もしない。

疑いを持ち、抵抗する人はたくさんいるが、選挙結果につなぐことには失敗している。

財務省は、日本の財政がギリシャのような危機に直面するという、ウソを流布して国民を騙している。

日本の政府借金のGDP比はギリシャよりも高く、200%を超えている。

しかし、日本の場合、政府資産のGDP比も200%を超えている。

金融市場で日本の国債は、安全資産の世界ランキングトップ10には確実に入る。

ギリシャは世界のなかのワースト2位くらいに位置する。

資産があることを知らせず、借金の金額だけを宣伝して、財政危機だという嘘八百を流布しているのである。

権力を疑い、権力に抵抗する主権者は、主権者全体の25%を確実に超えている。

この、骨のある主権者が連帯すれば、実は政権を倒し、政権を樹立することができる。

できるのなら、やればよい。

その気になれば、絶対にできる。

幸いのなことに、大きな力を持つ共産党が、唯我独尊の道を離れて、

連帯運動に参画する明確な意志を示している。

千載一遇のチャンスである。

この機会を逃さず、心ある、そして骨のある主権者が連帯して、日本政治に革命を起こすべきである。

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