★国民に不幸しかもたらさないTPP批准を阻止-(植草一秀氏)

2月4日にニュージーランドでTPP最終合意文書への署名が行われた。

日本からは「政治とカネ」のスキャンダルで引責辞任した甘利明氏の代わりに、

高鳥修一内閣府副大臣が出席した。

この高鳥修一氏が2011年5月11日に、自身の公式ブログに

「TPPについて(平成の売国)」

と題する記事を掲載している。

https://goo.gl/9MxFBa

この記事に高鳥氏は次のように記述している。

「私はTPPについて国家主権の放棄であり、平成の「開国」どころか平成の「売国」だと考えている。

政治家の中にもいろんな考えや判断があるけれど、

TPP問題は日本を守る断固とした決意のある「保守政治家」か否かのリトマス試験紙みたいなものだ。」

高鳥氏はTPPが「平成の売国」であるとの認識を示している。

実際に、2012年12月16日の衆議院議員総選挙に際して、高鳥氏は

「TPP断固反対」

の考え方を明示した。

その高鳥氏がTPP最終合意の署名式に出席して署名した。

このような政治家を主権者は許してならない。

高鳥氏の過去の言動については、テレビメディアも取り上げている。

それにもかかわらず、厳しい追及がなされていない。

安倍晋三自民党は2012年12月の総選挙に際して、TPPについて、

ウソつかない!
TPP断固反対!
ブレない!
日本を耕す!!自民党

と大書きしたポスターを貼り巡らせるとともに、

6項目の公約

を明示した。

http://goo.gl/Hk4Alg

「わが党は、TPP交渉参加の判断基準を明確に示します。

TPP交渉参加の判断基準

1 政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。

2 自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。

3 国民皆保険制度を守る。

4 食の安全安心の基準を守る。

5 国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。

6 政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。」

政治が国民から信頼される存在になるには、

政治家が主権者と交わした契約=政権公約を遵守することが必要不可欠だ。

ところが、安倍晋三自民党は、主権者と交わした契約=公約を木端微塵に破壊している。

このような政治を許してはならない。

国民に対する背信行為を繰り返す政治権力は、主権者が自らの手で葬らねばならない。

ところが、主権者の側に、その気迫と行動が欠けている。

これでは、政治が堕落するもの無理はない。

政治の堕落は主権者の堕落であると批判されて、主権者は反論できない。

6つの公約は木端微塵に破壊されているが、そのなかでも、とりわけ重大であるのが、ISD条項だ。

自民党公約は

「国の主権を損なうようなISD条項は合意しない」

である。

「ISD条約は国の主権を損なうものであるから、合意しない」

これがこの公約の意味だ。

ところが、安倍政権は姑息な手法を用いて、ペテンまがいの行動を示した。

国会決議の文言を

「濫訴防止策等を含まない、国の主権を損なうようなISD条項には合意しないこと」

としたのだ。

安倍政権が得意とするところのペテン=詐欺的手法がここでも用いられた。

トップがペテンそのものの体質だから、

TPPを「平成の売国」であると明記した高鳥氏がTPP合意文書に署名するという

離れ業を演じることができるのだ。

ISD条項は、この条項を根拠として国を提訴するISDについて判断する

世銀傘下のICSID(国際投資紛争処理センター)が裁定を下すと、

この決定が国家主権よりも上位に位置付けられるというものである。

「濫訴」であろうと、

「濫訴」でなかろうと、

裁定機関の判断が国家主権の上にくるわけだから、

ISDが導入されれば、国の主権者損なわれる。

だから、

「国の主権を損なうようなISD条項には合意しない」

という公約が掲げられたのである。

「濫訴」ではなくても、ISD条項に基づいて提訴がなされ、裁定機関が判断すれば、

国家はその内容に服従しなければならない。

これを

「国家主権の侵害」

と言わずに何と言えるのか。

2012年12月の総選挙に際して、安倍自民党は、上記公約を明示した。

したがって、ISD条項が盛り込まれているTPPに日本は参加することが許されない。

これが「公約を守る」ということだ。

安倍政権は、ISD条項が盛り込まれたTPPに日本が参加することについて、

日本の主権者からの了承を取り付けていない。

「国の主権を損なうようなISD条項には合意しない」

と約束したままなのである。

その安倍政権がISD条項が盛り込まれたTPPに参加することは許されない。

このことをメディアが一切取り上げないことが問題である。

日本の腐敗したマスメディアは、TPPに対する

ポジティブキャンペーン

を展開し続けている。

TPPで消費者は輸入品を安価に取得できるようになる。

力のある農業は輸出を拡大できる。

TPP参加で経済が活性化する。

こうしたデマゴーグが流布されているのである。

現実には、TPP参加で取り返しのつかない問題が生まれることになる。

まさに、安倍晋三自民党が主権者に約束した6項目の公約で懸念された問題が広がるのである。

農業は、国民生活の根幹を支える産業である。

東大教授の鈴木宣弘氏が、

『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』
(文春新書)

http://goo.gl/wxTNAq

に記されたように、日本農業が破壊されるだけではなく、

「これ以上、一部の強い者の利益さえ伸びれば、

あとは知らないという政治が強化されたら、

日本が伝統的に大切にしてきた助け合い、支え合う安全・安心な社会は、さらに崩壊していく。

競争は大事だが、あまりにも競争に明け暮れる日々は人心も蝕み、人々は人心共に疲れ果てる。」

のである。

農業には、国土保全機能、生物多様性保全機能、景観保全機能などの重要な機能がある。

TPP参加によって、これらの機能も喪われてしまう。

昨年12月5日付の北陸中日新聞コラムに

「TPP 抜けた視点」

と題するコラム記事を寄稿した、金沢美術工芸大名誉教授で、現在は農業を営む横川善正氏は、

「環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意のニュースを聞き、

日本の農が育ててきた食の安心と安全のみならず、

稲作から生まれた歴史的な祭りや伝統文化の喜び、

それを支える地域社会の共同性、

自然から学ぶ創造性や畏怖や謙虚さという「こころの知恵」までもが危うくなったと感じる」

「国の農業補助は、食糧自給拡大のみではなく、

農業従事者が果たす社会の安穏と国土の美化を念頭に行われてきた」

「伊などの老人ホームで高齢者の自立度が高いのは、

農を生きがいとこころの糧として日常生活圏に取り入れているからだ」

と指摘する。

日本が伝統的に大切にしてきた助け合い、支え合う安全・安心な社会が、

完全に崩壊してしまうことがより深刻な問題なのである。

農業の問題だけでなく、日本の公的保険医療制度が崩壊することは、

日本社会を絶望の渕に落とし込むことになるだろう。

食の安全・安心は崩壊し、

日本の自然環境を日本の主権者が守ることも不可能になる。

主権者は、御用メディアの卑劣な情報誘導、情報工作を打破して、

安倍政権を打倒して日本を守らねばならない。

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