★根本思想が間違っているアベノミクスー(植草一秀氏)

アベノミクスは全体として失敗している。

2012年12月に発足した第二次安倍政権が打ち出した経済政策を、

安倍政権自身がアベノミクスと命名して宣伝した。

アベノミクスは三つの政策から成り立っている。

第一が金融緩和、

第二が財政出動

第三が成長戦略

である。

金融緩和はインフレ誘導、円安誘導を目的に掲げられたもの。

消費者物価上昇率を2%にまで引き上げることが公約として示された。

円安誘導は、当初の安倍晋三氏の発言で明示されていたが、

米国などが、他国の自国通貨切下げ政策に対する批判を強めたため、

「円安誘導のための金融緩和」

という説明は使われなくなった。

しかし、当初、安倍晋三氏が円安誘導を目指すことを公言していたことは事実である。

第二の政策が財政出動であり、

安倍政権は政権発足直後に13兆円規模の2012年度補正予算を編成した。

第三の政策は成長戦略であるが、これは、企業利益の拡大を目指すものである。

アベノミクスの核心がこの部分にあるが、賛否は分かれる。

私はこの成長戦略こそ、アベノミクスの誤りの核心であると確信する。

金融政策、財政政策、構造政策

は経済政策の基本三政策であり、

まったく目新しいものではない。

アベノミクスは

金融緩和、財政出動、規制改革

を内容とするものであって、普通の経済政策である。

安倍政権が軌道に乗ることができた最大の理由は、株高が進行したことにある。

この株高に貢献した第一人者は、野田佳彦氏である。

野田佳彦政権が最低、最悪の経済政策を実行して、日本の株価が暴落水準で推移した。

野田佳彦政権は財務省の傀儡(かいらい)政権で、超緊縮財政政策を強行した。

その結果、日本経済が低迷、株価が暴落水準で推移したのである。

安倍政権は野田政権の超緊縮財政を修正した。

これが、2013年5月にかけての日本株価急騰の大きな背景になった。

この株高をもたらした影の主役は、実は野田佳彦氏だったのだ。

他方、米国長期金利が2012年7月を境に上昇に転じた。

これがドル高=円安進行の主因である。

これに安倍政権の金融緩和政策が加わり、急激な円安が進行した。

日本株価は為替連動で変動しており、急激な円安進行が、急激な日本株価上昇をもたらした。

これで安倍政権が浮上したのである。

しかしながら、アベノミクスの三つの政策内容を高く評価することはできない。

第一の金融緩和政策はインフレ誘導を目指すものであったが、

実際にインフレ率が1%台半ばまで上昇した2014年に生じたことは何であったのか。

それは実質賃金の大幅下落だった。

インフレは借金を抱える企業、賃金を支払う企業にとっての利益になるが、

賃金をもらう労働者、貯蓄に生活を依存する国民に損失を与える。

インフレ誘導という政策自体が間違っていた。

第二の財政政策について、2013年は積極財政が日本経済の浮上に一定の役割を果たした。

しかし、2014年は消費税大増税が日本経済を撃墜した。

その後の2015年度も緊縮財政、2016年度の緊縮財政は極めて強度のものになる。

そして第三の成長戦略こそ最大の問題である。

その狙いは大企業の利益増大である。

大企業の利益を増大させる最大の方策は労働者に支払う賃金の圧縮である。

成長戦略とは労働者への分配所得を減少させ、大企業利益を増大させる政策である。

さらに税制では、法人税減税を拡大する一方、

所得ゼロの国民からも税をむしり取る消費税大増税が推進されている。

このアベノミクスで日本経済が浮上することはなく、庶民の生活は破壊されるばかりである。

日経平均株価が8664円から20868円にまで上昇したことで、

安倍政権はアベノミクスは成功だと主張するが、日本経済全体は浮上していない。

2012年度以降の日本の実質GDP成長率は以下のとおりだ。

2012年度 +0.9%
2013年度 +2.0%
2014年度 -1.0%

2015年4-6月期 -0.5%
2015年7-9月期 +1.0%

日本経済が超低迷を続けていることは一目瞭然である。

財政出動を実行した2013年度だけが2.0%のプラス成長を実現したが、

2014年度はマイナス成長、2015年度もほぼゼロ成長なのだ。

「アベノミクスで日本経済が良くなった」

という主張は、ウソである。

経済学者の金子勝氏は、

「安倍政権は息をするようにウソをつく」

と表現するが、まさにその通りだ。

経済が超低迷を続けているのに、大企業の利益が急増し、株価が上昇したことは、

取りも直さず、労働者の分配所得が減少したことを意味している。

その労働者の所得減少は、「意図せざる結果」として生じたものではない。

アベノミクスの「意図」によって、労働者の処遇が一段と悲惨なものになっている。

国税庁発表の民間給与実態統計調査を見ると、2014年の給与所得は、

正規労働者 478万円

に対して、

非正規労働者 170万円

だった。

正規と非正規の間に、このような賃金格差が存在するのだ。

安倍政権は労働者の非正規化を後押しする政策を推進しているが、

その目的な企業の利益を拡大させることである。

労働者の4割が非正規労働者であり、

年収200万円以下の労働者が1000万人を超えている。

女性の給与所得者のうち、約4割が年収200万円以下になっている。

日本の相対的貧困率は、子どものいる世帯で親が1人の世帯で突出的に高くなっている。

日本のひとり親世帯の相対的貧困率は50%を超えている。

相対的貧困とは、所得水準が全体の中央値以下である状況を指す。

日本の格差問題が、とりわけ、子どものいるひとり親世帯で極めて深刻な状況にあることが分かる。

こうした世帯を直撃するのが消費税大増税である。

所得税の場合、夫婦子二人の世帯の場合、年間収入353万円までは所得税納税額はゼロである。

ところが、消費税の場合、所得がゼロでも、超富裕層と同じ税率で税金がむしり取られる。

金持ちに有利、所得の少ない人には地獄の税制が、消費税である。

巨大な利益を計上し、さらに利益増大策が次々に打ち出される対象となっている大企業に対しては、

法人税減税が激しい勢いで推進されている。

2016年度も、中小零細企業には増税が実施されるが、大企業に対してはさらなる減税が実施される。

これがアベノミクスの真髄である。

大企業の利益が増えれば、庶民の所得も増える

という

「トリクルダウン理論」

も真っ赤なウソであった。

労働者の所得は圧縮され、大企業の利益だけがかさ上げされている。

主権者はアベノミクスの正体を見破り、この政権を倒して、経済政策の路線転換を図るべきである。

株価が上昇している間は、アベノミクスの闇が隠されてきた。

しかし、為替変動が円安から円高に転換することに連動して、株価変動が上昇から下落に転じ始めた。

こうなると、アベノミクスの闇が明るみに出てくる。

安倍政権は甘利明氏の金権腐敗スキャンダルを、メディアジャックにより隠蔽しているが、

円高=株安への潮流転換を覆い隠すことはできない。

黒田日銀は安倍政権を支援するためだけに追加金融緩和政策を決定したが、

その効果はわずか3日で帳消しにされた。

金融政策は限界に来ている。

黒田日銀の政策失敗をまずは率直に認めることが必要だ。

新たな処方せんとして、

第三の施策である成長戦略を推進することが必要であるとの声が聞こえるが、

これこそ、誤りの上塗りである。

成長戦略は労働者からの搾取を強化して、資本の利益をかさ上げしようとするものである。

いま必要な施策は、大資本に対する優遇を圧縮し、国民経済の底辺を強化することである。

経済政策の基本を

「弱肉強食推進」

から

「共生重視」

に切り替えることが必要なのだ。

「弱肉強食」を推進する安倍政権を終焉させ、

共生社会の構築を目指す、新しい政権を樹立しなければならない。

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