★非常事態に近い安倍首相の国会対応能力-(植草一秀氏)

安倍政権への逆風がやまない。

甘利明経済相が引責辞任に追い込まれたが、閣僚辞任で済む話ではない。

2013年5月9日に甘利事務所が“口利き″の依頼を受けた途端、S社に対するURの対応が急変。

S社は3カ月後、先行補償の約1600万円から約2億2000万円もの積み増し補償を受け取った。

その後に、S社は甘利氏を訪問し、現金を供与した。

甘利氏が直接受領した現金は、

2013年11月14日に  50万円
2014年 2月 1日に  50万円

である。

政治資金収支報告書においては、

自民党神奈川県第13選挙区支部に対して

建設会社から

2014年2月4日に100万円の寄付金

があったとの記載があるが、

これは、上記の甘利氏が受領した2回にわたる50万円の現金とは事実関係が異なる。

また、2回の50万円受領の暦年は異なっており、

政治資金規正法においては、

2回の現金受領を2013年分と2014年分に分けて報告しなければならないはずである。

小沢一郎氏の秘書を務めていた石川知裕元衆議院議員が逮捕、起訴された事案は、

小沢一郎氏の資金管理団体が2004年10月に支払いを完了して

2005年1月に移転登記が完了した不動産取得について、

これを2005年の収支報告書に記載して報告したことが

虚偽記載

だとされたものである。

商法の専門家は法廷で、このケースでは2005年の報告書に記載するのが正しいと証言した。

ところが、2004年の報告書に記載したことが

虚偽記載

だとして逮捕、起訴されたのである。

甘利氏が政治資金規正法違反で立件されるのが筋であろう。

また、テレビ報道では、URが保証の内規上限以上には金額を拡大できないと

説明したことだけが伝えられているが、問題の核心は、当初1600万円だった補償額が、

口利きののちに、一挙に2億2000万円も積み増しされたことにある。

この部分を正確に報道するなら、視聴者のほぼすべてが、甘利事務所の

「あっせん利得処罰法違反」

の心証を持つに違いない。

メディア報道は、URが内規を遵守して口利きによる圧力に屈しなかったかのような演出を施すものだが、

事実の核心とかけ離れている。

事実の正反対の報道を展開しているのだ。

そこに、警視庁が援護射撃した。

清原和博氏逮捕を、衆議院の予算委員会にぶつけてきたのだ。

NHKをはじめとするテレビ各局は報道番組の大半を清原報道で占有させた。

本当に姑息な、弱々しい対応である。

日銀は安倍政権の支配下に置かれてしまった。

総裁・副総裁の3名

審議委員の2名が第2次安倍政権によって決定された。

日銀の政策決定では、5人の議決権保持者を支配してしまえば、議論は意味がなくなる。

5人の賛成で決定できるからだ。

日銀の独立性は消滅した。

日銀関係者の誰一人として、この不正、不健全性を批判しない。

堕落は深刻だ。

安倍政権の支配下にある黒田東彦日銀は、

甘利ショックで沈む安倍政権にマイナス金利導入という支離滅裂な政策に突き進んだ。

甘利ショックで劣勢にある安倍政権を救済するために、

5対4という無謀な議決に走り、マイナス金利導入を決定した。

しかし、これまで実行してきた量的金融緩和と、

今回のマイナス金利導入は根本的に矛盾する部分がある。

また、金融機関の対市中与信の拡大も見込めない。

ただ単に、円安誘導し、株高を誘導するためだけのものである。

十分な検討も、十分な分析も行われぬまま、

ただひとつ、安倍政権を援護するためだけに黒田日銀が動いたが、

その効果はわずか3日で剥落し始めている。

国会で安倍晋三氏は憲法9条の改定が必要であると強調した。

根拠に挙げたのは、

憲法学者の7割が自衛隊が憲法違反であるとの見解を示していること

である。

しかし、その前に、

集団的自衛権行使容認が憲法違反である

との見解を示す憲法学者が、全体の9割以上を占めていることを忘れてはいけない。

7割以上の憲法学者が自衛隊は憲法違反だから憲法改定が必要と言うなら、

9割以上の憲法学者が違憲だとする集団的自衛権の行使を現行憲法下で容認することは筋が通らない。


2月4日の衆議院予算委員会質疑で、民主党の大串議員が、

「民主党も憲法改定を含む論議を忌避する考えは持たない」

と何度も述べているのに、その直後に安倍首相は、

「憲法については指一本触れてはいけないと主張するなら思考停止状態だ」

と繰り返した。

大串議員は、

「せめて30秒前の発言くらい忘れずに答弁してもらいたい」

と応じたが、安倍晋三氏の病状はかなり深刻である。

安倍晋三氏は、日本国憲法について、

「押し付けられた憲法である」

「日本人の精神に悪い影響を与えている」

との見解を過去に示してきた。

大串議員は、この「事実」を摘示して、

「いまもその判断に変化はないか

について端的にお答えいただきたい」

と質問したが、この質問に対して、正面から答えることができない。

何を質問されているのかが分からない状況であるように見える。

病気の治療で強い薬を服用している副作用であるのかどうか。

真相は定かでないが、国権の最高機関である国会の質疑としては、あまりにも悲惨な状況である。

そのうえで、安倍晋三氏は、突然

「逆ギレ」

の状況に陥って、激高して質問者を誹謗中傷する。

「品格」

の欠落は目を覆うばかりである。

大串氏は質問の冒頭に、

「総理であるのだから、度量のある答弁をしてほしい」

とくぎを刺したが、この懸念が完全に的中する悲惨な国会質疑になった。

意見の違いはあって当然だ。

さまざまな考え方、主張があることは当然のことである。

しかし、国権の最高機関である国会の質疑であるのだから、

質問者に対する敬意を持ち、質問に対して真摯に答える姿勢は必要不可欠である。

テレビ中継もされている。

このような悲惨な状況が続けば、日本中の子供たちが、政治権力や為政者に対する

尊敬=リスペクト

をまったく持たなくなって、誰も批判はできないだろう。

学校の生徒会の討議でも、真摯に相手の主張に向き合い、

建設的な論議をすることなど、不可能になるだろう。

要するに、ここまで安倍政権は追い詰められているのである。

経済政策について言えば、

アベノミクスは

金融緩和しかしていない。

一番重要なのは成長戦略であるが、

この成長戦略は

百害あって一利なし

諸悪の根源である。

大企業の利益拡大だけを目的にした、主権者の幸福追求の視点がゼロの政策なのだ。

より正確に言うなら、主権者の犠牲の上に大資本の利益を増大させる政策。

それが安倍政権の成長戦略である。

拙著

『日本経済復活の条件』(ビジネス社)

http://goo.gl/BT6iD7

はアベノミクス批判の書であるため、強い販売妨害的対応を受けているが、

この経済政策の基本を大転換しない限り、日本経済の復活はない。

安倍政権はすでに下り坂に入った。

その苦境が、安倍晋三氏の悲惨な国会での対応などを生んでいるのだと思われる。

この状況を、今年の選挙結果に反映させることが必要である。

急がなければ、日本が完全に沈んでしまうことになる。

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