★米国はとっくの昔から北朝鮮の核を容認しているー(田中良紹氏)

2016年は2つの危機で幕を開けた。

サウジアラビアとイランの国交断絶、そして北朝鮮の水爆実験である。

米国のオバマ政権は残り1年の任期中に2つの大きな外交課題を抱える事になった。

しかし2つの危機はいずれも冷戦後の米国の世界戦略によって生み出されたものである。

米国にはそれを解決する責務があるが、おそらく米国が一国で解決する事はできない。

ロシアと中国に協力を仰ぐことになれば米国の「一極支配」の終わりが見えてくる。

今年は世界の多極化が印象付けられる1年になるかもしれない。

旧ソ連が崩壊した1991年、日本では宮沢総理が「これで日本も平和の配当を受けられる」と語り、

日本人は世界が平和になるかのような錯覚に陥った。

しかし米国は旧ソ連の崩壊を単純に喜んではいない。

ソ連の強力な管理下にあった核技術が権力の弱体化によって拡散の脅威にさらされたからである。

米国が核拡散を懸念したのは中東と北朝鮮である。

中東には核保有を確実視されるイスラエルがあり、

イスラエルと敵対するイラクやイランが対抗上核を持つ。

また冷戦による分断が残された唯一の地域、朝鮮半島にも北朝鮮が核を持つ可能性があった。

すでに1981年にイスラエルはイラクに建設されている原子力発電所を

核の危険があるとして爆撃している。

米国は中東と北朝鮮に監視の目を光らせていたが、

まず冷戦後に核疑惑が現実化したのは北朝鮮だった。

北朝鮮は朝鮮戦争が休戦するとすぐ核開発を考えた。

しかし旧ソ連は平和利用しか認めず、北朝鮮は70年代にIAEA(国際原子力機構)、

80年代にNPT(核拡散防止条約)に加盟して原子力発電だけを行っていた。

それがソ連崩壊後の1993年、IAEAの査察を拒否する。

米国議会には「イスラエルがイラクを空爆したように北朝鮮の原子力施設を空爆すべし」の声が上がり、

クリントン政権は北朝鮮空爆を決意した。日本の羽田政権にも事前に通告があった。

羽田政権は朝鮮戦争勃発を覚悟する。しかし情報が公表される事はなかった。

米国の北朝鮮空爆に反対したのは韓国政府である。

北朝鮮が反撃に出れば国境線に近い首都ソウルは壊滅的打撃を受ける。

そして韓国政府は日本政府に自衛隊機が米軍に協力して領空に入れば日本機を撃墜すると通告してきた。

直前に空爆は中止され、カーター元大統領が訪朝して、

最終的に北朝鮮が核開発を断念する見返りに各国が北朝鮮に軽水炉と重油を提供する合意が成立する。

当時米国議会を取材していたフーテンは、

この時点で米国は北朝鮮の核開発を容認する戦略に転換したと判断した。

なぜなら北朝鮮が核開発を断念する事はありえないからである。

朝鮮戦争は休戦しただけで米国との戦争はまだ続いている。

冷戦時代の北朝鮮はソ連の核に守られていたがそれもなくなった。

北朝鮮は自前で生き残りを図らなければならない。

北朝鮮が存亡の危機を脱するには第一に米国との平和条約が必要である。

その交渉カードとして核開発を続ける事は当然に考えられる。

それを知らない筈のない米国が北朝鮮と合意したのは、

北朝鮮の核は米国に対する脅威ではなく、

むしろ北朝鮮の脅威を米国の利益につなげることが出来ると考えたからだとフーテンは思った。

従って米国は北朝鮮の核開発とその運搬手段であるミサイル開発を

口では非難するが力で抑え込む事はしない。

制裁を課すのがせいぜいだ。実際、北朝鮮に対する経済制裁は90年代から続けられたが、

それで北朝鮮は核開発を諦めたか? むしろますます核開発に傾斜する結果を生んでいる。

こうして北朝鮮の脅威は冷戦後の米国の世界戦略に組み込まれた。

旧ソ連の崩壊で米国は世界規模での米軍再編を行うが、

クリントン政権のナイ国防次官は95年に「アジアで冷戦は終わっていない」と言い、

10万規模の米軍を東アジアに駐留させる方針を打ち出した。

「アジアで冷戦は終わっていない」のではない。

米国が「終わらせなかった」のである。

ソ連の崩壊で本来は見直されるべき日米安保条約はむしろ冷戦時代より強化され、

朝鮮有事を口実に自衛隊と米軍の結びつきが強められ、

米国はイージス艦やミサイル防衛などの兵器売り込みに成功した。

冷戦後の米国は、冷戦を利用して経済成長した日本から、

安全保障を口実にカネを吸い上げる仕組みを作ったとフーテンは書いてきたが、

ミサイル防衛に「拳銃の弾を拳銃で撃ち落とせるか」と強く反対してきた自民党が

北朝鮮の脅威を見せつけられて反対できなくなり、

平和主義を盲信する国民も北朝鮮のミサイルが日本列島の上空を飛べば

米国依存の軍事力強化に反対しなくなった。

米国の戦略は功を奏してついに安倍政権の集団的自衛権行使容認に至るのだが、

一方ではそれが北朝鮮の核開発技術を前進させる。

今回が本当に水爆実験であったかは分からないが北朝鮮が

当初から水爆開発を目指している事は間違いない。

このままいけばいずれはという時が来る。そうなれば米国の核抑止力は無力化する。

一方で北朝鮮の脅威をなくしてしまえば日本からカネを吸い上げる口実がなくなる。

フーテンの知る限り米国は一度だけ朝鮮半島の統一を検討した事がある。

クリントン政権末期、大統領のレガシー(遺産)としてイスラエルとPLOの和解を実現させるか、

最後の分断国家である南北朝鮮を統一させるかの二者選択が迫られた。

後者を選べばクリントン大統領は「冷戦の終焉を完成させた大統領」として歴史に名が残る事になる。

「ジャパン・アズ・ナンバー・ワン」の著者として知られるエズラ・ヴォ―ゲル氏らが構想を練った。

東西ドイツ統一の教訓から韓国経済への悪影響が懸念され、莫大な必要経費が見積もられた。

経費は朝鮮を植民地支配した日本に負担させるというシナリオになった。

しかし北朝鮮の脅威をそのままにする方が米国の利益になるという結論から、

クリントン大統領は任期の最後に中東和平に乗り出した。

しかし中東での米国の戦略はイスラム教シーア派とスンニ派の対立を深刻化させる。

フーテンは80年代にイラクを取材した事があるが今のような激しい宗派対立はなかった。

対立が生まれたのは米国がイラク戦争でサダム・フセイン政権を倒した事による。

「イスラム国」というテロ組織が生まれたのもそれがきっかけだ。

イラクを米国流の民主主義国に作り変えようとしたブッシュの覇権戦略が

中東地域全体をがたがたにした。

一方、イランとの長年の対立関係をソフト・ランディングさせようとしたオバマの戦略も

さらなる対立をもたらす。それらが年明けにサウジとイランの国交断絶となって現れた。

その混乱に乗じるようにロシアが中東に手を伸ばしている。

米国は中東ではロシア、北朝鮮では中国の協力を得ないとこれらの危機を乗り越えられないと

フーテンは思う。

そしてフーテンには米国が「一極支配」を目指した90年代が遠い昔の事のように思えてきた。

冷戦の終焉を自立のチャンスと捉えず、世界は平和になると他人事のように考えた日本は、

米国の「一極支配」が終わりを告げ多極化の方向に向かいつつある時、

ひたすら米国追随に終始している。

それは世界から無視され孤立する事につながる道ではないか、

フーテンはそれを怖れている。

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