★安倍政権のバラマキ選挙買収放漫財政を糺すー(植草一秀氏)

2016年の金融市場は波乱含みで始動した。

『金利・為替・株価特報』

http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html

では、昨年6月以降、ドル円の大幅円安の可能性が後退していることを指摘してきた。

昨年6月10日に、黒田東彦日銀総裁が国会答弁で、

「これ以上の実行実質レートでの円安はありそうにない」

と発言した。

この発言の背景に、円安誘導を批判する米国議会の意向があった。

日本は米国の命令で、TPP交渉をまとめ上げる責務を担わされている。

2012年12月の総選挙で

「TPP断固反対」

のポスターを貼り巡らせた安倍晋三自民党が変節して、

TPPに前のめりになっているのはこのためである。

このTPP推進の障害になっていたのが、日本の円安誘導であった。

米国議会は、TPPのなかに、自国通貨切り下げ禁止の条項を盛り込むことを強く主張している。

このことが背景にあり、日本は円安誘導を推進することができなくなった。

現実に、黒田発言があった2015年6月以降、ドル円レートの円安はまったく進行していない。

他方、日本円の水準は、長期の為替レート変動の中心に位置すると考えられる。

購買力平価と比較して、大幅円安水準に振れている。

英国経済誌「エコノミスト」が毎年年初に提示する。

「ビッグマック指数」

では、ドル円の購買力平価は

1ドル=78円

と算出されていた。

OECDが算出している購買力平価でも、ドル円は

1ドル=100円

という水準が提示されている。

米国の利上げ観測が存在し続けてきたため、ドル上昇観測が強く残存してきたが、

利上げが実施されて、「材料出尽くし」になった。

また、米国の利上げペースは、

極めて緩やかなものになるとの見通しが強まったこともドル上昇力を弱めている。

日本の株式市場では2004年4月以降、

ドル高=株高

ドル安=株安

の連動関係が観察されてきた。

ドル円相場が、円高=ドル安に振れ始めて、日本株価が反落傾向を強めている。

暴走する第二次安倍政権が3年もの長期政権となった最大の背景は株価上昇である。

2012年11月14日に8664円だった日経平均株価が2015年6月24日に20868円に上昇した。

この株価上昇が安倍政権を支えてきた。

この期間の株価上昇の最大の特徴は、日本経済の本格浮上を伴わなかった点にある。

株価は上昇したが、日本経済は低迷を続けているのだ。

経済全体が低迷し続けているのに、株価が上昇したというのは、

経済活動の果実の分配において、大資本の分配所得だけが増大し、

労働者の分配所得が圧縮されたことを意味する。

円安進行は輸出製造業の企業収益を大幅に増大させた。

各種労働規制の緩和は、企業の労働コスト圧縮に寄与してきた。

大企業だけが潤い、大企業だけが優遇され、株価が上昇したのである。

法人税だけが減税され、庶民を苦しめる消費税大増税が強行されてきた。

それでも、安倍政権が存続し続けているのは、日本の言論空間を大資本が支配しているからである。

民間マスメディアの運営は、大資本が提供するスポンサー支出に依存する。

大企業がマスメディアを支配し、安倍政権礼賛の情報操作を展開しているために、

この安倍政権が存続し続けているのである。

しかし、その構造に明確な翳りが生まれている。

円安=株高の図式が、ついに壊れ始めているからである。

このチャンスを、主権者勢力は最大限、活用しなければならない。

安倍政権を一気に劣勢に追い込み、

その流れのなかで2016年の国政選挙を勝ち抜く方策を生み出さなければならない

メディアがアベノミクスを絶賛するが、

ほとんどの国民は、アベノミクスの恩恵になどまったく浴していない。

円安の誘導

インフレの誘導

など、一般国民にとっては

百害あって一利なし

の代物である。

成長戦略

と表現すると聞こえが良いが、

成長戦略とは、

資本のリターンを拡充する政策のことである。

資本のリターンを拡充するとは、言い換えれば、

労働のリターンを圧縮することなのである。

円安が進行すれば、輸入品の価格が上昇する。

賃金が上がらないのに、インフレ率が上昇すれば、実質的な所得は減少する。

年金生活者も、年金が増えないのに、

輸入品は値上がりする、一般物価は値上がりするでは、踏んだり蹴ったりなのである。

安倍政権は2012年度に大型補正予算を組み、2015年度も補正予算を編成して、

いま国会審議が行われている。

しかし、安倍政権の財政政策はあまりに筋が悪い。

何よりも大事な社会保障を切り刻み、利権支出だけをばら撒いているのである。

「ふるさと創生」

名の下に展開されているのは、地方に対する、公金による買収工作である。

公職選挙法は、選挙目当ての金品の提供を禁じているが、

安倍政権は財政政策を活用して、選挙目当ての金品提供を行っているのだ。

お歳暮商品が3割引きになる。

旅館に泊まると政府が1万円、2万円の補助金を出す。

お歳暮商品を販売する業者、旅館を営む業者は、こうした金品の提供を歓迎するだろう。

こんな金品を提供してくれる自公政権に選挙で応援しようということになる。

これが安倍政権のバラマキ財政の実態である。

その一方で、一般庶民には消費税で少ない所得をむしり取る。

生活保護支給を圧縮する。

年金支給を減らし、年金保険料を増額する。

高額療養費制度を圧縮する。

などなど、悪行三昧なのである。

財政政策で大事なことは、

プログラム支出を拡充して

裁量支出を排除すること

である。

上記のふるさと創生バラマキ支出など、無駄な裁量支出の典型事例である。

こんな利権まみれの政策を一掃すれば、巨額の財源を確保することができ、

消費税増税など必要なくなるのである。

また、このような無駄な裁量支出を排除して、確保した財源で、

真に財政支援を必要とする人々に、重点的に財政主出を振り向けるべきなのだ。

ひとり親世帯の子供の貧困が深刻になっている。

日本が先進国を名乗るなら、すべての子供に対する生活保障と、

すべての子供に対する教育機会の保障を拡充するべきである。

安倍政権は弱肉強食を奨励し、巨大な財政利権を、政治屋と官僚で分け合う構造を構築している。

そして、その財政利権を地方の津々浦々にまで、利権の輪でつなぎ、これを選挙活動の原動力にしている。

私たちは、このような日本政治の基本図式を書き換える必要がある。

財政支出は透明、公正に改変するべきだ。

利権支出=裁量支出を排除して、

プログラム支出=社会保障支出を拡充する。

財源調達においては、力のない者から税金をむしり取る消費税中心主義を、

本来の所得税中心主義に戻すべきである。

また、巨額の内部留保をため込む巨大資本に対する適正な課税を実現するべきである。

金融市場の変調という安倍政権に対する逆風を生かして、

安倍政権の経済政策の根本欠陥を明示して、これを今後の選挙で強く訴えてゆくべきである。

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