★米国の「調教」と「圧力」が生み出した慰安婦問題の最終合意-(田中良紹氏)

仕事納めの28日、日韓両政府は慰安婦問題の最終解決に合意したと発表した。

日韓外相が共同記者会見を行って合意内容を発表し、

さらに安倍総理と朴槿恵大統領が電話会談を行い、

この合意が日韓の関係改善につながるよう協力する事を確認した。

この日、韓国では元慰安婦の支援団体が「国民を裏切る外交的談合」と批判する声明を出し、

最大野党の「共に民主党」も「絶対に受け入れられない」と非難した。

日本でも保守派から批判の声が挙がり、

「日本のこころを大切にする党」の中山恭子代表は「大いなる失望」を表明、

一方保守派の批判を和らげるためか安倍総理夫人がこの日に靖国神社を参拝した事を公表した。

米国ではケリー国務長官が「日韓両政府は慰安婦問題が『最終的かつ不可逆的に解決した』と明言した。

合意を歓迎する」と高く評価し、ライス大統領補佐官も

「難しい問題を最終的に解決した事を称賛する」との声明を出した。

一方、中国は事態を注目するが評価には慎重な構えを見せている。

隣国でありながら首脳会談を出来ずにいた日韓両国が、

先月2日の初の首脳会談以降、

最大の懸案であった慰安婦問題で急速に進展を見せた背景をフーテンなりに考えてみる。

首脳会談を拒んできたのは朴槿恵大統領である。

初の女性大統領として朴槿恵氏は慰安婦問題を最重視する立場にいた。

ところが日本の総理は慰安婦問題で謝罪した河野談話を否定する立場の安倍晋三氏である。

慰安婦問題で折り合いがつかない限り日韓が協力関係を構築する事は難しかった。

これまでの歴代韓国政権は、スタート時には日本との協力関係を重視するが、

政権が終わりに近づくと竹島問題や慰安婦問題を材料に国民の反日感情に訴え、

支持率を維持する傾向があると言われる。

ところが朴槿恵政権は当初から反日姿勢を強め、

それが任期が1年余となった終盤でようやく協力関係に舵を切ったのである。

背景にあるのは米国の意向である。ブッシュ(子)政権の中東政策がテロの連鎖を生み、

収拾のつかない泥沼にはまり込んだ米国は、

台頭する中国を仮想敵として力をアジアにシフトさせ中東から手を引こうとしているが、

それには日本と韓国が思い通りに動いてくれなければ困る。

ところが朴槿恵政権の前の李明博政権が米国と結んだ自由貿易協定は

韓国社会の格差を増大させ、貧困問題が深刻化して政権の親米姿勢に反発が生まれた。

一方で中国の台頭により韓国経済は中国への依存度を強めていく。

李明博政権の後を受けた朴槿恵政権は中国との関係を重視する政権としてスタートした。

一方の安倍政権は民主党政権の失敗を教訓に米国への「すり寄り」を強める政権である。

それが尖閣問題で米軍の支援を得ようとし米国から足元を見られた。

米国は中国と軍事対立する気は毛頭ない。

中東での「テロとの戦い」から手を引こうとする米国が中国と軍事対立する余裕などない。

ただ中国を仮想敵にすることで得られる利益はある。

中国の軍事的脅威を宣伝すれば日本や韓国に兵器を売ることが出来る。

また中国経済に対抗する経済連携をこの地域に実現させれば、

米国主導の経済圏をアジアに作り、それに中国を巻き込む事も出来る。

そうした時に日本の安倍政権が米軍の支援を要請してきた。

安倍政権の右翼的体質を嫌っていた米国は、

尖閣問題を自力で解決することが出来ない非力さを見て、

米国のアジア重視政策に安倍政権を利用する事を考える。

それが世界規模での自衛隊の米軍肩代わりを可能にする集団的自衛権の行使容認となり、

TPP交渉ではわずかなエサの見返りに忠誠度が試される事になった。

その結果、安倍総理はネギ背負った鴨となり米国議会で演説する栄誉を得た。

こうした米国の対応は韓国の朴槿恵政権を意識したものでもあった。

当初は安倍政権の歴史修正主義を批判し朴政権の側に立っていた筈の米国が、

一転して安倍政権を評価して見せたのだから朴政権は焦りを感ずる。

中国寄りから米国寄りにシフトする必要性を感じさせる。

一方で米国は安倍総理の「調教」に乗り出す。

村山談話や河野談話を引き継ぐように求め、

その結果、安倍総理は「戦後70年談話」で「名誉と尊厳を傷つけられた女性の存在」に言及する。

もう一方で米国は頑なな朴槿恵政権に「圧力」をかけ続ける。

米国が裏で糸を引く慰安婦問題の決着が動き出したのである。

それからは日韓両政府の言い分を足して二で割る政治的取引の交渉となる。

日本側は日本政府に法的責任はなく軍が強制的に女性を慰安婦にした事実はないとの立場で、

また河野談話が作られた後も韓国側が問題を蒸し返したことから今回の合意を最終にすることを要求した。

そしてたどり着いた結論は、日本政府が軍の関与と責任を認め、

韓国政府が設立する財団に日本政府の予算から10億円を拠出し、

安倍総理が朴槿恵大統領に謝罪の言葉を述べる事になった。

日本側から見れば法的責任も強制性も認めておらず、

日本側の主張が通ったように見え、

韓国側からすれば軍の関与や責任を日本政府が認めた事で強制性を認めたように理解し、

また政府予算から資金が拠出される事を事実上の賠償と看做すことになる。

しかしこれが最終決着になるかはこの合意が着実に実施されることが条件である。

元慰安婦の中には韓国政府に従う事を表明した人もいるが、

韓国政府の説明に反発する人もいる。

さらに日本大使館前に置かれた少女像の撤去を巡っては日韓に隔たりがある。

最終合意で解決したと見るのは早計である。

米国の「調教」と「圧力」に従った安倍政権と朴槿恵政権には国民を説得する作業が残され、

さらに米国が描く中国に対抗するための米日韓連携がどこまで緊密になれるかはまだ不透明である。

日韓国交正常化50年の年の最後に安倍政権と朴槿恵政権の関係が前進した意義は大いに認めるが、

米国の「調教」と「圧力」の結果だと考えると複雑な心境になる。

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