★黒田日銀の政策運営が「終わっている」背景-(植草一秀氏)

12月17、18日に日銀政策決定会合が開かれ、日銀が追加金融緩和を決定した。

しかし、大きな内容は盛り込まれなかった。

また、米国FRBは12月15、16日のFOMCでFFレートの誘導目標を引き上げた。

9年半ぶりに金融引締め政策が実施された。

『金利・為替・株価特報』

http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html

2015年12月14日号では、これらのことをすべて予測済みである。

予測通りの政策推移、市場変動が生じている。

『金利・為替・株価特報』=TRIレポート

は会員制のレポートで、月に2度発行しているものだが、

このTRIレポートの年次版を2013年から刊行している。

出版元はビジネス社である。タイトルは、

2013年版 『金利・為替・株価大躍動』

2014年版 『日本経済撃墜』

2015年版 『日本の奈落』

だった。

2013年版では、政治の変化が政策の変化をもたらし、円安と株高が急激に進行することを予測した。

日経平均株価の16000円への上昇を明記した。

2014年版では、消費税率5%から8%への消費税増税強行実施により、

日本経済が撃墜されることを予測した。

現実に、日本のGDP成長率は、

2014年4-6月期に、

年率マイナス16.3%(外需と在庫投資の影響を除去した国内最終需要ベースの経済成長率)

という未曽有の転落を示した。

文字通り、日本経済は、消費税増税によって撃墜されたのである。

2015年版では、安倍政権が2015年10月の消費税率10%に突き進むなら、

日本経済が奈落に転落することを警告した。

これを回避するためには、消費税再増税を延期、または凍結、または中止する必要があることを指摘した。

私が設定した当初タイトルは「日本の瀬戸際」で、

消費税再増税への突進を中止するのかどうかが最重要の焦点であることを指摘した。

同時に、2014年内の解散総選挙の可能性があることを指摘した。

現実に、安倍政権は、再増税を延期して解散総選挙を実施した。

2015年版のTRIレポートは2015年の除夜の鐘をまたいで刊行される。

タイトルは

『日本経済復活の条件
 -金融大動乱時代を勝ち抜く極意-』

である。

すでに、アマゾンでは予約受付を開始した。

http://goo.gl/BT6iD7

画面上の刊行日は2016年1月7日になっているので、

配本は年明けになるが、ぜひ、予約ご注文を賜りたく思う。

タイトルが示すように、日本経済が本当の意味で復活するための条件を明示した。

過去30年間の日本経済の推移を詳細に検証すると、

「経済変動を引き起こしている最重要の要因は経済政策である」

ということが明瞭に浮かび上がる。

その経済政策に焦点を当てて、激動の時代の金融変動を読み抜く極意を伝授しようとする書である。

ぜひご高覧賜りたい。

12月18日の金融政策決定会合で、

ETF購入枠拡大などの追加金融緩和措置が示される可能性が高いが、

本格的な量的緩和の追加は可能性が低いと指摘してきた。

そして、その通りの現実が明らかになった。

米国が利上げをしたが、利上げを始動しても、

必ずしもドル高の流れは加速しないであろうことも予測してきた。

この点を見つめたときに、見落とせないのは、昨年6月10日の、

国会における黒田東彦総裁発言である。黒田氏は、

「実質実効為替レートは、さらなる円安はありそうにない」

と述べた。

突然、この人が何を言い始めたのか、と、理解できない人がほとんどだった。

いまだに、何を目的に、何を言おうとしたのか、明白ではない。

しかし、TRIレポートでは、その背後にTPP交渉が存在することを指摘し、

これ以上の円安進行の可能性が低いことを指摘した。

そして、ドル円レートは、1ドル=125円を大きくは上回らずに現在まで推移してきている。

TPP交渉は、10月上旬に大筋合意が成立した。

そして、年明け後の2月上旬にニュージーランドで最終合意=署名が

実施されるのではないかとの憶測が広がっている。

この合意を推進したのは日本だが、日本は日本の国益を守らずに、

米国の命令に従って、合意を推進したのである。

例えば、

日本が米国から輸入する牛肉は、

現行38.5%の輸入関税がTPP発効初年度に27.5%にまで引き下げられて、16年目に9%となる。

その一方で、

米国が日本から輸入する自動車のうち、

乗用車はTPP発効15年目に初めて関税が引き下げられ、25年目にゼロにされ、

トラックは発効後30年間、関税率引き下げは行われず、30年後に初めてゼロになる。

明治時代の通商条約と似たような、不平等条約を、日本政府が推進して合意を誘導したのである。

このTPPは日本を文字通り破壊するものである。

農業が破壊され、医療が破壊され、食の安心・安全が破壊される。

また、各種共済制度も破壊されることになるだろう。

TPPの最大の脅威は、ISD条項によって、国の主権が損なわれる点にある。

「国の主権を損なうようなISD条項に合意しない」

が自民党公約である。

「国の主権を損なわないようなISD条項」

は存在しない。

したがって、ISD条項が盛り込まれるTPPに日本が参加することは、明白な公約違反である。

この公約違反がまかり通ることを、日本の主権者は容認するのか。

前の野田政権は、

「シロアリを退治しないで消費税を上げるのはおかしい」

と明言して、

「シロアリを退治しないで消費税を上げる」ことを国会で強行採決した。

いまの世の中、

右を向いても左を見ても、

アホとペテンの絡み合い、

真っ暗闇じゃやござんせんか、

という状況だ。

浜矩子氏は、

『さらばアホノミクス』

http://goo.gl/btqyUE

という、痛快なタイトルを付した著書を刊行されているが、

アホとペテン師が跋扈する日本政治に明るい未来は広がらない。

このTPPが、仮に2月に最終合意されると、

その後は、調印した各国が、それぞれの国の議会で批准手続きを行う。

一定の国が批准した段階でTPPが発効してしまうということになる。

米国の批准は11月8日の大統領選後に持ち越しになると見られているが、

日本政府は、来年2月から3月にかけて、

批准手続きを完了させてしまうことを検討しているとも、漏れ伝わってくる。

大筋合意の合意文書すら日本語で用意されていない。

翻訳も公開されていない。

日本はTPPの正式交渉国ではないかのような処遇を受けている。

これは、日本政府が侮辱されているということに留まらず、

日本の主権者が侮辱されているということになる。

TPPが持つ最大の欠陥とも言える

ISD条項の不当性

については、米国でも批判の声が上がっている。

米国議会上院のエリザベス・ウォーレン議員は、

本年2月25日付ワシントン・ポスト紙に論文を寄稿し、

ISD条項が国家主権を損ねること明確に指摘して、その否定を呼びかけた。

日本はTPPに参加してはならない。

TPPに対しては、米国でも反対論は根強い。

輸入製品と競合する産業界の労働者も反対の意思を表明しており、

こうした反対論を受けた議会民主党が、TPPに為替条項を盛り込むことを強く求めている。

為替条項

とは、他国が自国通貨を人為的に切り下げる措置を禁止するものである。

日本政府は、TPP交渉を着地させるために行動することを、米国に命令されている。

これが、黒田発言の裏側にあるのだ。

だから、これ以上円安に誘導する施策を打つことはできない。

6月以降、ドル円は、まったく円安に振れていない。

だから、12月18日の決定会合でも、実質的な内容を盛り込むことができなかった。

市場は、瞬間的に株高に反応したが、1時間もすると、政策の内容を理解した。

バズーカなどともてはやされたのは過去の一瞬のできごと。

アベノミクスはたそがれの季節を迎えている。

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