★ 「格差推進」と「成長と分配の好循環」の根本矛盾ー(植草一秀氏)

軽減税率の報道が大々的に展開されているが、

こんなことで主権者は問題の本質を見誤ってはならない。

あるべき税制を考えるなら、

過去25年の日本の税収構造の変化を踏まえることが、まず優先されるべきだ。

いま論議されていることは、

現在の8%の消費税率を2017年4月に10%に引き上げる際に、

一部品目に限って、税率を8%に据え置くことである。

消費税の逆進性を緩和する

などの言葉が使われるが、問題の本質からはまったくずれた論議である。

逆進性を緩和する、

消費税の問題点を是正する、

ということであるなら、

生活必需品の非課税

税率ゼロ

を検討するべきだろう。

8%に据え置くか、10%に引き上げるか、

などという話は、枝葉末節の論議だ。

それすら認めようとしない財務省の姿勢は言語道断を言わざるを得ない。

もともと、消費税を5%以上に引き上げる際に、

消費税を引き上げる前に、官僚利権を断ち切る

という話があった。

その話について、何も進展がないのである。

財務省は消費税増税について提案するなら、

その前に、財務省の天下り利権の縮小について、具体的な提案を示すべきである。

財務省の天下り利権の氷山の一角である、一部機関への天下りを根絶すること。

最低限でも、これを実行する必要がある。

氷山の一角の一部機関への天下り

とは、

日本銀行、日本取引所

日本政策投資銀行、国際協力銀行、日本政策金融公庫

日本たばこ、日本郵政、

横浜銀行、西日本シティ銀行、

への天下りを、まずは全面廃止するべきだ。

「我が身を切る改革」

をやってから、消費税増税の負担を求める、というのが、最低限の条件であるだろう。

この点に頬かむりをして、

消費税大増税を規定路線であるかのように振る舞う財務省の基本姿勢を、

主権者国民が糾弾する必要がある。

25年前の税収構造はこのようなものだった。

所得税 27兆円(91年度)

法人税 19兆円(89年度)

消費税  3兆円(89年度)

だった。

これが2015年度は

所得税 16兆円

法人税 11兆円

消費税 17兆円

になっている。

富裕者の負担を徹底的に軽くして、中低所得者の負担を際限なく重くしているのである。

そこで出てくる論議が軽減税率だが、所得の少ない人々の生活を真剣に考えるなら、

生活必需品非課税

の検討以外にあり得ない。

メディアが、

「10%を8%にするなどという些末な論議をするのではなく、

生活必需品は無税、非課税にすることなどを検討するべきだ」

との報道を大々的に展開するのなら分かる。

それを、

「軽減税率の適用範囲を生鮮食料品にするか、

加工食品や外食にまで広げるのかについて、自民党と公明党の合意がなかなか成立しない」

などという、些末な論議を延々と繰り広げている。

そもそも、いま論じるべきテーマは、2017年4月の消費税10%の中止もしくは延期である。

法人税が減税に次ぐ減税、消費税が増税に次ぐ増税、ということを、

主権者は絶対に容認できないはずだからだ。

消費税の問題は、5%を8%にしたことの是非から始める必要がある。

2012年8月に野田佳彦政権が消費税率を5%から8%、そして、10%に引き上げる法律を強行制定した。

しかし、この政権誕生の根拠になる2009年8月総選挙で野田佳彦氏は、

「シロアリを退治しないで消費税を上げるのはおかしい」

ことを明言したのだ。

主権者は、シロアリを退治しないで消費税を上げないことを確約した民主党に

政権を委ねる決定を示した。

したがって、2012年8月の消費税増税決定は、

主権者国民の同意を得ていないものであり、主権者国民の意思に反するものであった。

したがって、2012年12月の総選挙で、

この点が最重要争点に掲げられなければならなかったが、メディアはこの問題をまったく取り上げなかった。

安倍自民党が勝利した最大の理由は、野田民主党が主権者から全面的に否定されたことにある。

その否定された最大の要因は、公約違反の消費税増税を強行決定したことである。

したがって、2012年12月選挙で安倍自民党が勝ったからと言って、

消費税増税が主権者によって是認されたことにはならないのである。

その次の総選挙は、2014年12月に実施された。

この選挙の前の2014年4月に、消費税は5%から8%に引き上げられてしまった。

この増税で日本経済は撃墜された。

安倍自民党は2014年12月の総選挙に際して、

2015年10月の消費税率10%を実施しないことを掲げた。

増税を掲げて選挙を戦ったわけではないのである。

つまり、消費税率8%、消費税率10%は、

日本の主権者国民によって、一度も正統化、オーソライズされていないのである。

正統性がない。

だから、軽減税率のような、些末な論議をする前に、

消費税率8%は正当化されるのか、

消費税率10%の強行は許されるのか、

について、徹底的な論議が求められる。

法人税だけが減税に次ぐ減税となる一方、

消費税だけが増税に次ぐ増税とされることに、正当性、正統性はかけらもない。

安倍晋三氏は、

「成長と分配の好循環」

などという言葉を用いるが、

日本経済最大の問題は、

「分配の歪み」

にある。

格差拡大という問題は、分配問題そのものなのである。

そして、

分配に歪みがあるときに、

その歪みを是正するための、最有力な方法が

税制を通じる所得再分配

である。

この

所得再分配の機能を発揮する税制が

所得税および法人税

である。

所得税の強化、所得税の累進制の強化

によって所得再分配の機能を強化する。

また、

法人課税を強化して、

所得再分配の機能を強化すること、

が求められている。

安倍政権が推進している政策は、

これと真逆の方向を目指すものだ。

法人税減税を際限なく拡張し、

低所得者への配慮なしに消費税大増税を強行している。

分配の歪みは、

安倍税制によって、一段と拡大されている。

消費税を5%に戻し、

法人税課税、所得税課税を強化するべきである。

同時に、

すべての労働者の正規化

最低賃金の引上げ、

すべての人に最低限の所得を保証するベーシックインカム制

を実現するべきである。

税制論議を、些末な軽減税率論議から、

消費税再増税中止論議に、全面的に切り替えるべきである。

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