#roku789 野坂昭如さんからの手紙 2015年12月7日 放送分

はや師走である。街はクリスマスのイルミネーションにさぞ華やかに賑やかなことだろう。僕はそんな華やかさかとは無縁、風邪やらなんやらややこしいのが流行っている。ウイルスに冒されぬようひたすら閉じこもっている。賑わうのは結構なこと。そんな世間の様子とは裏腹に僕は日本がひとつの瀬戸際に差し掛かっているような気がしてならない。明日は十二月八日である。昭和十六年のこの日、日本が真珠湾を攻撃した。八日の朝アメリカ、イギリスと戦う宣戦布告の詔勅が出された。戦争が始まった日である。ハワイを攻撃することで当時日本の行き詰まりを打破せんとした結果戦争に突っ走った。当面の安穏な生活が保証されるならばと身を合わせているうちに近頃かなり物騒な世の中となってきた。戦後の日本は平和国家だというがたった一日で平和国家に生まれ変わったのだから同じくたった一日でそのその平和とやらを守るという名目で軍事国家つまり戦争をすることにだってなりかねない。気づいた時二者択一など言ってられない、明日にでもたった一つの選択しか許されない世の中になってしまうのではないか。昭和十六年の十二月八日を知る人がごく僅かになった今、またひょいとあの時代に戻ってしまいそうな気がしてならない。

野坂昭如

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