★安倍政権の格差推進政策はここまでひどいー(植草一秀氏)

「代表なくして課税なし」

の言葉がある。

課税とは国民の財産の強制徴収を意味する。

財産権を侵害するものである。

財産権は基本的人権の一部をなす。

したがって、財産権の侵害である課税が容認されるためには、正当な手続きが必要になるのだ。

議会制民主主義は、主権者である国民が、その代表者を議会に送り、

その代表者が主権者の意思を政治の行動として実行するものである。

正当に選出された国民の代表者が、議会で正当な手続きによって決定を行う。

その決定によってしか、課税は正当化されない。

これが「代表なくして課税なし」の考え方である。

課税は民主主義の意思決定における、根本の根本であると言うことができる。

およそ、政府の活動というのは、一言で要約するならば、

その本質は財政活動にあると言って過言でない。

政府の活動に必要な資金を国民から調達する。

そして、その調達した資金を政府活動として支出する。

中央政府、そして地方政府、あるいは社会保障基金の活動というのは、

国民から、いかにして資金を調達するか、そして、その調達した資金を、

どのように支出するのかにあると言ってよいのである。

この意味で、課税は民主主義の根幹をなす意思決定ということになる。

そうであるなら、主権者である国民は、課税の真実を正確に把握していなければならない。

日本の課税の実態がどのようになっているのか。

その課税が、主権者の意思を正しく反映するものになっているのか。

この点について、主権者である国民は、明確な意識をもって、現実を正確に把握していなければならない。

ところが現実はどうか。

どれだけの主権者が、日本の課税の実態を把握しているか。

日本の課税状況は、過去30年間に劇的な転換を遂げてきた。

その変遷を一言で表現するなら、

所得税中心主義の崩壊

能力主義の崩壊

である。

戦後日本の税制の根幹は、1949年のシャウプ税制勧告によって規定された。

その根幹が所得税中心主義である。

所得税の特徴は、累進税率にある。

所得の多い者に対する税率が高く、所得の少ない者に対する税率が低い。

現実には、所得が一定水準に達するまでは、課税が免除されている。

課税をしなければならなくなる所得水準のことを課税最低限と呼ぶ。

現在の税制では、夫婦子二人で、働き手が給与所得者で一人の場合、

子どもの年齢にもよるが、年間給与収入が325万円以下の個人は、所得税課税されない。

納税額ゼロである。

税率は所得が増えるに伴って上昇する。

所得4000万円以上の部分に対する税率は所得税と住民税を合わせて55%になっている。

所得税は、基本的に、税を負担する能力に応じた課税という考え方を根幹に置いている。

これを応能課税と呼ぶ。

この方式は、格差是正、結果における平等を実現するうえで、極めて有効なものである。

戦後日本の税制においては、この考え方がベースに置かれてきた。

しかし、過去30年間の日本税制の変化は、この基本を根本から破壊するものになっている。

所得税の比率が引き下げられ、これに代わる課税の中核に消費税が位置付けられてきた。

消費税は所得税の対極にある税制であり、

その最大の特徴は、超富裕者と超貧困者の税率が同一であるという点にある。

また、法人課税については、法人という人格が存在するのか、

それとも、法人所得も最終的には個人の所得に帰着するため、

法人の存在は擬制であるとするのか、という見方の相違が存在する。

しかし、法人所得が株式の配当や株価を通じて、

富裕者の所得と結びつきやすいという点は確かである。

安倍政権は所得税と法人税の負担を減らし、

消費税の負担を増大させる方向への日本税制の改変を加速させている。

法人税の実効税率を29%に引き下げる政策が大手を振って展開されているが、

これと自民党への企業献金の拡大は表裏一体をなすものだ。

日本の主権者は民主主義の根幹決定である税制の改変に対して、関心を集中させるべきだ。

恐るべき制度変更が強行されていることを知っておかねばならない。

日本の課税状況は、過去25年間に劇的転換を示してきた。

25年ほど前の課税状況は次のものだ。

所得税  27兆円(91年度)

法人税  19兆円(89年度)

消費税   3兆円(89年度)

これが、2015年度は以下の姿に変わっている。

所得税   16兆円

法人税   11兆円

消費税   17兆円

所得税と法人税が激減し、消費税が激増している。

2007年に政府税制調査会は、

日本の法人の税および社会保険料負担について国際比較を行っている。

その結果は、2007年11月に発表された

「抜本的な税制改革に向けた中期的考え方」

のなかに明記された。

その結論は、日本の法人の税および社会保険料負担が、

国際比較上、高いとは言えない、というものだ。

税負担だけを比較すると、日本の法人の負担は、他国よりもやや高いということになるが、

欧州では企業の社会保険料負担が重い。

社会保険料負担を含めると、日本の法人の負担は国際比較上、高いとは言えない。

これが、日本政府が示した公式見解なのである。

過去25年間に、日本の税収構造は激変した。

法人負担は軽減の一途をたどった。

2007年政府税調報告書が、日本の法人負担が高くないと明示したにも関わらず、

法人税負担は軽減の一途をたどったのである

その一方で、所得税収は減少し、消費税収だけが拡大している。

所得税の場合、年間給与所得が325万円までは納税額ゼロである。

ところが、消費税の場合には、所得が少なくても、所得がゼロでも、

超富裕層と同じ税率で税金をむしり取られる。

強者に優しく、弱者に過酷な税制なのだ。

だからこそ、消費税と類似した付加価値税を採用している欧米諸国では、

生活必需品を非課税としたり、軽減税率を設定したりしている。

イギリス、オーストラリア、カナダの付加価値税の標準税率は、

20%、10%、5%だが、食料品はいずれの国も税率ゼロ、非課税である。

当たり前のことなのだ。

経済活動の自由を認めれば、必然的に社会は弱肉強食化する。

人類は、こうした現実を踏まえて、経済政策のあり方を修正してきた。

当初は、自由放任、自由主義が採用されたが、

自由主義が経済社会を弱肉強食化し、人間の生存の権利さえ脅かすようになった。

そこで、20世紀には、基本的人権として、生存権の考え方が確立され、

経済政策運営においても、機会の平等ではなく、結果の平等が重視されるようになった。

その結果の平等を実現するうえで、中核的な役割を担ってきたのが、

累進税率をもつ所得税制度であった。

この施策は、結果における平等を実現するものではない。

結果における格差を縮小させるものである。

格差そのものを全否定するのではないのだ。

大きすぎる格差を「是正」することが目的である。

このような施策を取ってさえ、なお、格差を消すことはできない。

しかし、20世紀に確立された「生存権」の考え方を尊重するなら、

とりわけ、所得の少ない階層への強い配慮が求められることになるのである。

日本においても、所得税中心の課税方式は、

結果における格差是正に大きな役割を果たしてきたと考えらえる。

しかし、その仕組みが、この25年間に根底から破壊されつつある。

そして、安倍政権はいま、極めて重大な税制の改変を強行しようとしている。

消費税率を10%に引き上げる。

その際に、一部品目だけ、増税の2%分を免除することを検討している。

しかし、2%減免ではなく、予算の範囲で、2%減免を上限にして、一部免除しようという話だ。

他方で、法人に対しては減税をさらに進める。

その財源には、赤字法人に対する外形標準課税を検討しているという。

つまり、巨大な利益を計上する大企業を優遇して、

赤字に陥っているような零細な企業に増税を行うということなのだ

この現状を、日本の主権者は、まったく正確に把握していない。

その無知につけこんで、安倍暴政がさらに猛威を振るっている。

何とかしなければならない。

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