在米台湾人の論客、Andy Chang氏の考察  「中台首脳会談」の影響


「中台首脳会談」の影響
Andy Chang 

台湾の中華民国政府は4日、馬英九総統がシンガポールに飛んで中国の習近平国家主席と会談すると発表した。中国の中台事務弁公室の張志軍代表も同様の発表をした。この首脳会談は発表の3日後に実現する突然さなので、台湾の野党と民間で批判や抗議が相次いだ。

台湾の中華民国政権は1949年に蒋介石が共産党との戦いに負けて台湾に逃げ込んだ政府である。中国と経済交流はあったが中台首脳会談は初めてである。中国は台湾を領土の一部と主張し、中華民国は中国大陸全土を中華民国の領土と主張している。しかし台湾人民は中国人の主張を認めない。

1952年4月に発効したサンフランシスコ講和条約で日本は台湾澎湖の主権を放棄したが、中華民国に主権を委譲したのではない。中国は台湾を統治したことはない。南シナ海の南沙、西沙諸島もサンフランシスコ講和条約で同じく日本が主権を放棄したものだが、中国に主権を渡したのではない。つまり中国が台湾の主権や南シナ海の諸島を自国の領土とする主張には根拠がない。

もちろん、中台首脳会談(中国と中華民国の首脳)は史上初である。このニュースは台湾だけでなく世界中が興味を持った。米国のアーネスト大統領報道官は「台湾海峡の両岸の緊張関係を緩和し、関係を改善する歩みを歓迎する」と発表した。アメリカは干渉しないで成り行きを見ると言うことなのだろう。

首脳会談と言っても台湾と中国はお互いの主権を認めないから、双方の国家主席が会談するわけにはいかない。台湾では「馬習会」と呼んでいるが、首脳会談でお互いにどんな名目で会談し、どのような名称で呼び合うのか。

馬英九は五日総統府出記者会見し、馬習会では双方が「先生」と呼ぶことに決めたと発表した。また双方が先生と呼び合う取り決めは双方が「対等の立場と尊厳を維持すること」であり、「相互の主権は認めないが統治権は否定しない」と言う玉虫色の発言をした。

●馬習会の目的

馬英九は記者会見で今回の馬習会は二年来の交渉の結果だと強調した。馬英九は2013年のAPECで双方が会談することを提議したが中国側は拒否した。2014年にも会談の可能性を提議したがやはり否定された。つまり中国が決定権を持ち、台湾側は中国の決定に従うだけで、今回の慌ただしい決定は中国が決めたものである。

馬習会談の目的とは何か、何を話し合うのかが台湾では大きな話題となっている。台湾政府側の報道では「両岸の平和を堅め、台湾海峡の現状を維持する」としている。しかし民進党の蔡英文は「間もなく退任する馬総統が台湾の将来を左右し決定することはできない」と述べた。

一般の評論では馬習会の目的が来年の総統選挙で国民党有利にするためとしている。中国が国民党を支持すれば人気が低迷している国民党に有利となり、少なくとも国会議員の当選数が増加するかもしれない。逆の見方では中国がこのような手段で選挙に介入すれば民衆の反感を買い国民党は大敗すると言う。

もう一つの選挙より大切な目標は「中台服務貿易協定」を締結するにある。馬英九は総統に就任するとすぐに、経済合作構築合意(ECFA)を締結するはずだったが、国会では大反対だったので、総統命令で強引にECFAにサインしたのだった。

ECFAの次に中台服務貿易協定の法案でも台湾民衆は大反対だったが、国民党が国会で勝手に法案成立を宣言したためヒマワリ学生運動が起きて国会の建物を占拠した。このあと台湾では反中国意識が大勢となって去年11月の選挙で国民党が大敗したのだった。つまりシンガポールの馬習会で中台服務貿易協定に双方が合意を発表すれば来年一月の選挙で国民党は壊滅する。

●台湾人の危惧は「売国協定」にある

台湾人が最も危惧しているのは馬英九がこの会談で台湾の主権を放棄するような約束をすることである。馬英九は5日の記者会見で「双方の主権は認めないが、統治権は否定しない」と言った。主権とは何か、統治権とは何か。中国と台湾(中華民国)は二つの違った政権である。だが馬英九も習近平も「中台統一」を主張している。つまり中国が台湾統一を主張し、馬英九政権は「中国大陸を統一」を主張している。お互いに否定しないが、どちらにしても台湾が中国に飲み込まれる結果だから台湾人は反対する。

誰でもわかるように中華民国が中国を統一するのは不可能だが、統一とは台湾が中国に併呑されることで台湾人は絶対に承認できないことである。

つまり台湾人にとって、馬習会で馬英九と習近平が中国と台湾は同じ中国人の政権だとか、双方の政権が将来いつか統一することに同意したと発表すれば台湾を売り渡す「売国協定」となる。

●馬習会の結果とその影響

蔡英文は馬習会談は(1)双方が対等な立場と尊厳を維持すること、(2)会談の結果は公開、透明であり、(3)政治的約束をしないことの三条件を提示した。

台湾人、また世界諸国にとって、中国の台湾併呑は絶対に受け入れられないことである。だから世界が馬習会の結果いかんに注目しているのである。台湾人民は馬習会の結果にいかなる密約や、暗黙の了解も許されないと主張している。

馬習会は中国側の主導によるもので馬英九ではなかったと見られる。来年1月の選挙で民進党が政権を取ることはほぼ間違いないから、中国は何とかして国民党の勢力を維持したいのだろう。

台湾のメディアの反応では、馬習会が選挙に与える影響は国民党に不利である。これは会談の結果を見なくても民間の反応でわかる。つまり短期的には国民党と中台関係の発展に不利である。長期的に見ても中国が台湾に与える影響は不利と思われるが、これは会談の結果と選挙の結果を見なければわからない。短期、長期に見て馬習会は台湾人の独立意識を高める結果となるだろう。

(メルマガ「台湾の声」より転載)

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