[ノート]関西生コンとは?(1)


「おいおいおい、お前らまた悪だくみしてんのか!」
2009年晩秋の朝。大阪市内にある老舗高級ホテル「リーガロイヤルホテル大阪」のロビーは、突然の罵声に襲われ、騒然となった。
この日、「リーガロイヤルホテル」のラウンジでは、生コン業界の首領こと武健一・連帯労組関西地区生コン支部委員長が、呼びつけた生コン販売店の人間と、いつものように打ち合わせをしていた。そこに押しかけたのが、組員数人を引き連れた、山口組弘道会系淡海一家(滋賀県大津市、髙山義友希総長)の西田幸一相談役だった。
武委員長らに罵声を浴びせると、西田は配下の組員に「ここにいる連中を携帯のカメラで撮っとけ!」と叫んだという。西田相談役の一行はそれ以上騒ぐことなく立ち去ったというが、どうみても、弘道会系淡海一家による武委員長に対する脅し、恫喝だった。
この騒動の直後、事態は急転直下、動き始める。ホテルに押しかけた弘道会系淡海一家の西田相談役が、京都の生コン業者からミカジメ料500万円を脅し取ったとして京都府警に逮捕され、さらにこの年の12月初旬には、同一家のトップ、髙山総長に逮捕状(指名手配)が出ていることは判明したのだ。
こうしたなか、生コン業界では、先の騒ぎがあった直後のことだったからか、「武委員長が髙山総長を警察に売った」という噂が瞬く間に広がり、京都の生コン利権、さらには建設利権全般をめぐって、京都制覇を狙う山口組弘道会と武委員長の間で軋轢が生じているともささやかれた。
そもそも、京都の生コンを含む建設利権は、地元の暴力団「会津小鉄会」が仕切ってきた。加えて、生コンの首領こと武委員長と京都の生コン業界の蜜月関係は、故・髙山登久太郎・会津小鉄会会長時代から連綿と続いてきたものだ。実際、その会津小鉄会と深い関係にあると言われてきた京都市の「京都生コンクリート協同組合」(7社)の加盟業者は、武委員長名義で発行された三十数億円の手形換金にともなう裏金ルートで、重要な役割を果たしていたことが判明している。
さらに、前述のように故・髙山登久太郎会津小鉄会会長とも深い関係を築いてきた。
たとえば、髙山会長は生前、武委員長の連帯労組が主宰したゴルフコンペに車いす姿で出席し、参加者を前にして「今日は、髙山会長がお見えになっております」と、会場で紹介されたこともあった。
09年、武委員長に攻撃を仕掛けてきた弘道会系淡海一家の髙山義友希総長は、故・髙山会長の実子である。ではなぜ、髙山総長は武委員長に目をつけたのか?

<出回った「告発文書」の中身>
その背景について、関西の生コン業界関係者の1人が解説する。
「武さんは、京都の生コン業界に強い影響力を持つキーマンのような存在だった。12年12月に他界した山健組出身の渡辺(芳則)五代目山口組組長の時代、武さんは山口組となあなあの関係でやってきた。五代目山口組にすれば、カネさえ入れればいいという考えだった。ところが、司(忍、本名=篠田健市)さんが六代目山口組組長になってから、統制がきつくなってがらっと変わった。武さんに対して『素人なのにヤクザの真似なんかするな、やるんやったら配下に入れ』と、脅したんですわ。武さん率いる連帯労組は、今でいう半グレ集団。労働組合を標榜して企業に押しかけ、業務を妨害しながら、解決金として企業からカネを巻き上げる。複数の暴力団と交際し、組合事務所には山口組系組員が出入りし、定期的に大金を持ち帰る。武さんは、弘道会の傘下に入ることを嫌がったんです。」

出典:「暴力団のタブー -密着!激変する日本の闇社会-」(溝口敦+鈴木智彦+盛力健児+工藤明男ほか、宝島社)収録
『二代目弘道会の手に落ちた”錬金術の都”京都の闇』(一ノ宮美成)より

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