朝日新聞1989年8月18日朝刊『声』欄・高橋克雄氏による投書


良質アニメも度を越すと危険

東京都 高橋克雄(アニメ作家 56歳)

 かつて私が本誌論壇で、アニメの危険性を指摘してから情報消費者運動が起こり、実践の中から多くの教訓を得た。初めは俗悪アニメを問題としていたが、ことはもっと深刻だった。「アニメを見て涙を流す心の優しい子なのに?」という相談が多い。そうした心優しいはずの子供が、現実には極めて恐ろしい反応を示すのである。

  アニメの大量摂取に象徴される事態は、実は人類が初めて抱え込んだ“心の中の原発”であり、『核』問題と言える。今まで人類はこれほど大きな虚構の現実を、子供に与えた歴史を持たない。

 アニメはシンプルでピュアだ。現実より明快で純な世界だ。それだけに、そうした虚構の現実を幼児期から毎日摂取すれば、当然、心はその魅力的な世界で生活を始める。向こう側で暮らすようになると、きれいごとではないこちら側とのズレが起こる。

 そのギャップは、自分を囲む生の人間たちを不快と感じさせ、やがては自分を常に困難に陥れる「美しくない現実環境」を激しく憎むようになる。こうした心の中毒少年たちを、現実に引き戻すことは、極めて困難で成功例は少ない。

 良質のものであっても、過度の入力は危険なのである。ゲームも含めた映像の麻薬から子供の感性を守るのは親と教師。良い情報を数少なく与えることが大切である。自衛のための正しい情報管理を切望してやまない。

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