★「米国の嘘」を鵜呑みにする愚鈍な頭と「米国の嘘」で国民をだます悪辣な頭ー(田中良紹氏)

来週の成立が取りざたされる安保法案は国会で

いまだに意味不明の審議を続けているが、

政府・与党の議論を聞いていると、

日本政府は「米国の嘘」を鵜呑みにする愚鈍な頭脳しかないか、

あるいは「米国の嘘」を利用して国民をだまそうとする悪辣な頭を持っているか、

そのどちらかと考えられる。

フーテンの言う「米国の嘘」とは、

1991年の湾岸戦争に日本が拠出した130億ドルは

国際社会から全く評価されず、

人的貢献がなければ世界から感謝されないと主張する「嘘」である。

当時フーテンはワシントンに事務所を構え、

米国議会の議論を日本に配信する仕事をしていた。

駐米大使は村田良平氏であった。

当時の日米関係は経済摩擦が激しく、

ソ連の軍事的脅威より日本の経済的脅威の方が米国にとって深刻で、

米国民は日本政府や日本企業を敵と見ていた。

米国民の誤解を解くため、

村田大使はフーテンが提携する米国の政治専門テレビ局C-SPANに出演して

直接米国民と対話を行い、日本の真意を訴えていた。

90年8月2日、イラク軍が突如クウェートに侵攻して湾岸危機が始まる。

西側の各国は夏休みが終わる8月末、各国とも議会を招集し、

危機にどう対処するか議論を始めた。

しかし日本だけは国会を開かなかった。

当時の外務省北米一課長はフーテンに、

国会を開けば土井たか子委員長率いる社会党が

「何でも反対」して収拾がつかなくなると説明した。

一方国連は、それまで東西冷戦のため安保理の常任理事国が

一致できずにいたが、湾岸危機に際して初めて一致することができた。

これは第一次世界大戦以来、

戦争防止のために作られた国際連盟の理想がようやく可能になった

歴史的瞬間である。これを米国のブッシュ大統領は「新世界秩序」と呼び、

国連主導の「多国籍軍」が作られた。

当時の小沢一郎自民党幹事長は、

日本の自衛隊は平和憲法があり戦闘はできないが、

「多国籍軍」に協力することは憲法違反にならないとして

自衛隊の活用を主張したが、それを理解できる政治家がおらず、

橋本龍太郎財務大臣が米国のブレイディ財務長官と交渉して

日本は資金提供を行うことになった。

その方針が固まってから10月になって国会は開かれ、

130億ドルの財源として臨時の法人税徴収が行われた。

日本と同様に平和憲法を持つドイツは、

地中海に展開する米艦隊が湾岸に移動できるようドイツ艦隊を地中海に派遣した。

米国では出征した兵士の家に黄色いリボンが飾られ、

出征兵士の帰国を待つ家族からは出兵させない国への不満も聞かれた。

一方で日本やドイツに平和憲法があることを知った米国人の中には

うらやましがる声も多く、

「日本は良い国だ」とフーテンに声をかけてくるタクシー運転手もいた。

そして米国政府は、実は日本からの130億ドルを大変に感謝していた。

それがなければ「多国籍軍」が戦うことは出来なかったからである。

しかし経済で日本に痛い目に遭っていた米国は、

感謝の姿勢を見せることはなく、むしろ湾岸戦争を日本たたきの材料にする。

フーテンが直接耳にしたワシントンでの日本批判は次のようなものである。

「日本は経済大国である。いずれ米国と肩を並べ、

さらに米国を追い抜く可能性があると我々は考えていた。

しかしこのたびの対応は日本が米国のジュニア・パートナー(子分)に過ぎないことを証明した。

なぜなら日本経済はエネルギー源をほとんど中東に頼っていて、

中東に危機が起きれば最も打撃を受けるのは日本である。

ところが湾岸危機が起きても日本は国会を開いて議論せず、

つまり国家国民の問題として捉えず、ひたすら米国にすがりついてきた。

自分の危機を自分で判断せず、他国に頼るような国は大国になれない」。

そして米国は「日本いじめ」を始めるのである。

上から目線で「ショー・ザ・フラッグ」とか「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」と言い出した。

「ショー・ザー・フラッグ」とは「旗幟鮮明にしろ」という意味だから、

日本政府を「あいまいな態度をとるな」と脅している訳だ。

また「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」は

「観客席にいないで戦場に入ってこい」と戦争参加を促している。

いたぶれば日本は何でも言うことを聞くとばかりの言動を米国は始めたが、

情けないのは日本の外務省である。それをいちいちごもっともとゴマをする。

しかし当時の村田駐米大使は硬骨の人であった。

「自伝」を読めば、米国政府が本心では日本に感謝しているのに

経済競争で負けた腹いせでわざと日本に感謝しないふりをしたことを見抜いている。

問題はその後の外務省である。

湾岸戦争時の駐米大使の言うことを聞かずに、

「米国の嘘」の宣伝拡大に努め、それを国民をだます材料に利用している。

ここでは詳しく論じないが「中国の著しい軍事的台頭」も

「北朝鮮の核ミサイル脅威」も「いたぶれば何でも言うことを聞く日本」に向けられた

米国の宣伝であり、全くの「嘘」とは言わないが「嘘」に近い表現で

日本を洗脳する言葉である。

その「米国の嘘」に慌てて反応する国家は、

自分の問題を自分の頭で判断せずに他人に頼ろうとする国家と

米国から見られる。かつて日本の経済的台頭に脅威を感じた米国は、

日本に敵愾心を抱く一方で、自分を追い抜く存在として一目も二目も置いていた。

ところが湾岸戦争で日本は「大国になれない国」であることを知ると、

日本を馬鹿にし始め、何でも言うことを聞かせようとしてきた。

そして「言うことを聞くとますます馬鹿にする」という

負のサイクルに日米関係ははまり込んでいる。

政府・与党からは「安保環境はこれまでになく厳しさを増している」、

「日米同盟を強化すれば抑止力が増す」、

「国民を守るための集団的自衛権行使」などの言葉を何度も何度も

聞かされてきたが、

しょせんそれらはすべて湾岸戦争時の「米国の嘘」をベースに作られた言葉である。

湾岸戦争とその後のアフガン、イラク戦争は

本質が全く異なるものであることを知らないと、

戦前の日本が日露戦争を勝利したと錯覚して悲惨な末路をたどったように、

日本は再び戦争で大きな誤りを犯すことになる。

まずは湾岸戦争で人的貢献をしなかったから

日本は国際社会から評価されなかったという「米国の嘘」を否定するところから

始めないと、「嘘」で固められた法案が出来上がることになる。

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