★維新が一皮むけるか消滅するかの国会の行方―(田中良紹氏)

8日の衆議院安保特別委員会で、

維新の議員が「自衛隊法の一部を改正する法律案」と「国際平和協力支援法案」、

民主党の議員が「領域警備法案」をそれぞれ趣旨説明し、

安倍政権の安保法案に対抗する野党の対案が審議入りした。

国会は政府の安保法案に対する議論から、

三つ巴か四つ巴の議論の展開が可能となり、

それが審議日程とも絡んで来週からの安保国会はいよいよ第2の山場を迎える。

第1の山場は6月の会期末であった。

当初から今国会の延長は予定されていたが、

「安保法案を夏までに成立させる」と国際公約して歩いた安倍総理は、

会期末までに法案を衆議院通過させる事を目指した。

参議院で衆議院と同程度の審議時間を確保し

「夏までに成立」させるためにはそれが条件だった。

しかし大量議席に胡坐をかく安倍総理は、

「丁寧な説明をする」という言葉とは裏腹に抽象的で意味不明の答弁を繰り返し、

また総理自身が質問者に野次を飛ばすなど、

軽薄な国会手法によってしばしば審議を中断させた。

その結果、会期末までの衆議院通過は難しくなり、

また大半の憲法学者が法案を「違憲」と判断した事で、

国民は一層の慎重審議を求めるようになる。

そのため国民が戦死者を追悼して戦争を思い出す8月前に

法案を成立させる事は不可能になった。

そのためか会期は9月末までと過去最長になり、

それは参議院で成立しなくとも衆議院で再可決ができる「60日ルール」を意識させた。

7月27日までに法案を衆議院通過させれば参議院で審議しなくとも

今国会での成立が確定する。

それは何としてもこの国会で法案を成立させるという強硬姿勢の表明でもある。

そこに野党の対案が提案された。

維新の提案による「自衛隊法の一部改正案」は、

政府案が集団的自衛権の発動要件を「存立危機事態」とする事を否定し、

より個別的自衛権の発動に近い「武力攻撃危機事態」を設定して

自衛隊の防衛出動を可能にする。ホルムズ海峡での機雷除去などは認められない。

また国際協力のための後方支援として、

政府が武器弾薬の提供や外国の戦闘機に対する給油を認めているのを否定し、

さらに「非戦闘地域」という現行の制約を維持して、

「戦闘現場以外ならどこでも活動できる」とする政府案に反対する。

そして民主党と維新の共同提案による「領域警備法案」は、

日本の領海や離島の警備に海上保安庁だけでなく

自衛隊の出動も可能にするため海上保安庁と自衛隊の連携強化を図るものである。

中国を念頭に東シナ海や周辺海域での防衛能力を高める狙いがある。

8日の特別委員会では維新の議員が対案を説明しながら、

安倍政権の政府案を厳しく批判する一方、

維新案を批判した公明党の北側一雄副代表を名指しで批判、

また法案の共同提出で意見の合わなかった民主党の枝野幸男幹事長も批判して、

これからの国会が与野党対立の単純な図式から

三つ巴か四つ巴の対決図式になる事を予感させた。

そこでまだ早いのだがこれからの展開を予想してみる。

安倍政権が過去最長の会期延長を決め、

「戦後70年談話」を閣議決定しない方針に転換したのは、

安保法制に対する世論の風当たりを見て攻勢から防戦に転じたとフーテンは書いた。

そのため安保法制の強行採決は政権崩壊につながると考え、

強行採決と言われないように維新の採決引き込みに全力を挙げる。

従って対案の提出はまさに願ったりである。

対案の採決と同時に政府案を可決することが可能になる。

一方で維新はキャスティングボートを握った事で「一皮むける」チャンスを得た。

「一皮むける」とは「古い皮を脱して大人になる」ことを意味する。

これまでのように「正論を主張するのが政治だ」と幼稚な事を言うのではなく、

自分たちの主張を実現させるためにどれほど泥をかぶれるかの覚悟をする事である。

つまり維新は安倍政権の安保法案を否定して維新案を成立させる本気度が

この国会で問われる。

「正論を主張するのが政治だ」と考える連中は、

恰好だけをつけ主張を実現するために嫌いな相手と手を組む芸当ができない。

しかしそれは政治ではない。「正論を主張するだけ」なら学者や評論家と同じになる。

これまでの維新は大阪の橋下市長のチルドレンで

安倍政権の補完勢力と看做されてきた。

しかしその古い皮から脱して自分たちの法案を成立させる政治闘争の試練を経れば

「一皮むける」可能性がある。それがこの国会の見どころだとフーテンは思っている。

維新がこれまでのままか「一皮むける」かで国会の展開は大きく異なる。

維新と民主は「60日ルール」を与党に使わせない事を確認したという。

7月30日まで法案を衆議院通過させないという事だ。

それならば7月27日から30日までが衆議院通過を巡る攻防の山場となる。

それまでに維新の考えを国民に周知させ政治の流れを変える政治力を

維新が発揮できるかどうかである。

それが出来なければ、維新が安倍政権の安保法案成立に利用されたと評価され、

「一皮むけずに」終わるかもしれない。

選挙を考えれば自公の協力体制は万全で、そこに維新が割り込むすきはない。

昔、自公保という三党連立政権があったが、

やがて保守党は自民党に吸収されて消滅した。

維新が自民党に協力すれば保守党と同じ運命をたどる事になるだろう。

つまりこの国会の展開がどうなるかで、

維新という政党は「一皮むける」か、あるいは消滅するかの分かれ道が見えてくる。

そして安倍政権はこの国会で安保法案を成立させることが出来たとしても、

昨年に閣議決定した集団的自衛権の行使容認とはかけ離れた内容の、

安倍総理の面子を立てるだけのボロボロの法案を成立させる事になる。

そしてそこにTPPや、原発の再稼働や、辺野古基地建設や、戦後70年問題などが

次々に浮上して安倍政権は政治的エネルギーを消耗する。

その頃の支持率がどうなるかで自民党内に安倍離れが起きるかもしれない。

フーテンが今いぶかしく思っているのは、

来週15日に採決して法案を衆議院通過させる方針が与党内から出ている事である。

9月末まで延長したのになぜそんなに急ぐ必要があるのか分からない。

野党が対案を出した矢先に採決すれば維新だって反発するしかない。

維新は採決に出席せずに強行採決を非難する事になり、

参議院審議も空転して「60日ルール」が現実になる状況が生まれる。

しかし憲法に関わる法案を参議院無視の形で決めれば、

これも立憲主義の否定と批判され、安倍政権の横暴さが際立つ事になる。

それを承知で与党は来週の衆議院通過を考えているのか、

野党に対するブラフに使っているのか、

あるいは水面下で別の交渉を行っているのか、

さらにあるいは安倍総理を助けるふりをして足を引っ張っているのか、今のところ判然としない。

フーテンはとりあえず今月末の27日から30日を第2の山場の山場と見て、

あとは維新が「一皮むけるか」どうかを注視していくつもりである。

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