★法案を修正しても「違憲」が「合憲」に変わる事はない―(田中良紹氏)

地雷原に入り込んで危うさを感じ始めた安倍政権は、

法案の「修正」という逃げ道を探している。

しかし大半の憲法学者が「違憲」と指摘する法案を「修正」したところで

「合憲」になる訳ではない。むしろここにきて修正協議を行えば、

法案の醜悪さがさらに国民の目に焼き付けられることになるかもしれない。

安保法案に反対するデモが国会を取り囲んだ6月14日夜、

安倍総理と橋下大阪市長が会談したというニュースが流れた。

フーテンは「藁をもつかもうとする安倍総理」とブログに書いたが、

翌日の記者会見で菅官房長官は「会談は橋下市長の側から申し込まれた」と、

安倍政権が橋下氏にすがったとは思われないように装った。

しかしこれは素人でも見抜ける見え透いた嘘である。

仮に橋下氏から「挨拶に伺いたい」と言われたとしても、

それをメディアに取材させ「意味ありげに」報道させて利用しようとしたのは官邸である。

ただの挨拶なら誰も知らない所で報道させないようにやれば良い。

その後の展開を見れば、

安倍政権が橋下氏を利用して維新を修正協議に巻き込もうとする作戦も

思惑通りには進んでいないように見える。

橋下氏は安倍総理との会談後、

「維新は民主党と一線を画すべき」という内容のツイッターを発信した。

それは当たり前のことを当たり前に言っただけで、

政局的には意味のないリップサービスである。安倍政権を有利にする話ではない。

だいたいが大阪都構想の住民投票で明らかになった事は、

橋下氏を支持する大阪市民が3割程度だったという現実である。

メディアは接戦の末、僅差で橋下側が敗れたと報道したが、

棄権した大阪市民は橋下構想に賛成していないのだから

それは反対票と同義であり、橋下氏は7割の大阪市民を説得できなかった事になる。

従って橋下氏が政界引退を表明するのは不思議でなく、

自らの力量を冷静に分析できている証拠だと言える。

従って橋下氏を利用しようとするのは「藁にすがる」話なのだ。

そして「維新が民主党と一線を画す」話は、

これからの政局で安倍政権がきりきり舞いをさせられるかもしれない可能性を含んでいる。

安倍政権は、民主党や共産党と異なり維新が労働者派遣法改正案や

安保関連法案で委員会に出席している事を「野党分断」と捉え、

安倍政権に有利に働くと見ている。

まるで政治を知らない幼稚な判断だとフーテンは思う。

維新が民主・共産両党と同じ対応を採れば、国会は自公対民維共に二分され、

数で上回る自公は採決を粛々と行うしかなくなる。

それは国民の批判を浴び、安倍政権の支持率を下げ、

安倍総理は傷つくかもしれないが、

しかし60年安保の頃より劣化した政治家と、劣化したメディアと、

劣化した国民がこの国には存在する。

大ばくちを打った後に国民の視線をそらすエサを用意し、

しばしほとぼりを覚ませば何とかなると自公は判断するかもしれない。

そうなれば戦後70年、廃墟から経済大国に上り詰めた日本にとって、

誠に不幸な政治の姿をさらすことになる。しかしそれはありえない話ではない。

一方で、民共が反対姿勢を強める中、維新がそれとは異なるスタンスを採れば、

本音では強行採決にびくついている安倍政権は

維新に接近する事で強行採決批判を和らげようと考える。

そこで維新が一躍国会の主役に躍り出る。

修正協議に乗るように見せながら修正とは異なる次元に自公を引きずり込む事も可能になる。

労働者派遣法改正案では「同一労働、同一賃金」の原則を貫き、

安保法制ではあくまでも慎重審議を貫き、

今国会ではなく来年の通常国会まで審議を重ねさせる事もあり得るのである。

維新の慎重姿勢にしびれを切らして自公が強行採決を行えば、

その方が国民の強行採決批判は強まる。

維新は慎重審議を貫く事で国民の共感を得る事が出来る。

そして国会審議を見るかぎり維新の主張は決して安倍政権寄りではない。

フーテンの主張と重なるところも多々ある。

例えばフーテンが「戦後日本の安全保障政策を大転換するのに

現職議員だけで議論しているのはおかしい。

歴代外務大臣、歴代防衛大臣、歴代財務大臣なども参考人として国会に呼ぶべきだ。

そうしないと国民には何が何だか分からない」と書いたら、

同じことを維新の議員が国会で主張した。

その審議を見てフーテンは改めて参考人招致の考えに自信を持った。

そこで再び提案させてもらう。戦後70年で最大の政策転換を行うためには、

国会に歴代総理、歴代外務大臣、歴代防衛大臣、歴代財務大臣、

歴代内閣法制局長官、歴代自衛隊幹部を呼ぶべきである。

そして議員との議論の場を設けるべきである。

また安保法制を諮問されて「濃密な議論」を行ったとされる「安保法制懇」のメンバーも

全員を国会に招致し、法制の必要性を議員との間で議論し、

それを国民に見せる必要がある。

これまでは安倍総理、岸田外務大臣、中谷防衛大臣、横畑内閣法制局長官の答弁を

見てきたが、彼らの答弁で理解させる事は全く無理だと分かった。

そのことは最近の世論調査で証明されている。

中曽根、海部、細川、羽田、村山、森、小泉、福田、麻生の各元総理をはじめ、

安全保障問題の重責を担ってきた方々の意見を聞き、

法制のメリットとディメリットを羅列されない限り国民に判断材料が提供されたとは言えない。

前回のブログで最低でも30人程度の参考人を呼ぶべきだと書いたが、

アメリカ議会が湾岸戦争を行った際は200時間を超える参考人質疑を行い、

そのうえで議員たちが議論した。それと同程度の事はやるべきで、

維新はそれを徹底追及すべきである。

一方で民主・共産は「違憲」論を展開し、強行採決に徹底的に反対する。

この十重二十重の包囲網が安倍政権の単純すぎる国会運営を複雑化させ、

同時に国民の安保政策に対する理解も深めさせることになる。

フーテンの考えでは維新が民主党と一線を画す方が国会を面白くする。

それにしても本日の「党首討論」で安倍総理が、

安全保障問題で具体的な事を言うリーダーは海外にいないと発言した事に驚いた。

いったい安倍総理は海外の議会を見た事があるのだろうか。

軍の作戦や戦術について具体的言及は避けるが、

抽象的な物言いで安全保障問題を語るリーダーなど世界にはいない。

それさえも分かっていないのかと悲しくなった。

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