★憲法破壊安倍政権背後で蠢く「日本会議」の闇―(植草一秀氏)

1960年の安保闘争と比較して、

今回の集団的自衛権行使容認違憲立法に対する国民運動の盛り上がりは小さい。

しかし、内容の重大性は今回の問題の方が大きいとも言える。

この違いをもたらしている最大の背景は、メディアの問題の取扱いである。

そして、日本国民の問題意識の希薄さも強く影響している。

国政選挙の投票率が5割そこそこである理由の一つは、

政党が主権者の意思を正面から受け止めて行動していないことにある。

このために、政治に強い関心はあるが、

投票したいと思う対象が存在しないために投票に行かないという行動がもたらされてしまっているのだ。

しかし、他方において、政治の問題に関心を持たない、いわゆる無関心層が広がっていることも事実だ。

憲法解釈を変えて、日本が集団的自衛権を容認すると、

日本が他国が創作する戦争に巻き込まれていくリスクが急激に高まる。

このことが、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を根底から脅かす

明白な危険になることは間違いない。

しかし、多くの国民が、このような切実な問題を真剣に考察しない風潮が強まってしまっている。

民主主義において、政治は国民の質を上回ることができない。

日本の主権者が意識を高めて、

自分の国のことは自分たちが決めるという認識を強く持たないと、

政治が一部の人々の意向で特定の方向に誘導されてしまう。

そして、この主権者の意識と行動に多大な影響を与えるのがマスメディアである。

全国放送のテレビ番組は、1%の視聴率で100万人への情報伝達を実現する。

文字や音だけの伝達と違い、テレビ放送の場合には、

音声と映像を重ね合わせて伝えることができるために、情報伝達のインパクトが極めて強い。

これに対して、直接伝達の方法を取っても、情報伝達の波及効果は限られる。

1000人の集会を1000回重ねて、やっと100万人への情報伝達が可能になる。

全国放送のテレビなら、1%の視聴率で、これが瞬時に可能になる。

インターネットを通じた情報伝達が可能になり、一つの風穴は開いた。

しかし、ネットメディア、SNSによる情報伝達は、

大きな規模のものでも10万というのが一つの限界である。

これを一桁、あるいは二桁拡大していかないと、マスメディアに対抗することは難しい。

いま、日本のマスメディアはどう行動しているか。

憲法を破壊するという暴挙である、違憲安保法制論議であるが、これを大きく取り扱わない。

連日、1面トップで大きく報道し続ければ状況は一変する。

テレビのニュース番組が連日連夜、最大ニュースとして報道し続ければ状況が一変する。

小沢一郎氏が政治謀略で総攻撃を受けた時期のマスメディア報道を思い起こせば、

マスメディア報道の影響力の大きさとその歪みがよく分かる。

無実潔白の事実を、マスメディアは連日連夜、極悪犯罪があったかのように報道し続けた。

世論調査の「小沢一郎氏は代表を辞任するべきか」のいかがわしい調査結果を

毎日のように報道し続けた。

いま日本で問題になっているのは、

安倍政権が日本国憲法について日本政府が40年以上の維持し続けてきた憲法解釈を、

勝手に変更し、その偏向解釈によって、

憲法違反の行動を容認する法制を整備しようとしていることである。

メディアが連名で、

「憲法を破壊する安倍政権の暴挙を容認しない」

の声明を発表するなら理解できる。

ところが、多くのメディアが問題を取り上げることすらしない。

最大の偏向報道を続けているのがNHKである。

安保法制審議については、すべての国会審議をテレビ放映するべきだろう。

憲法学者の大半が安倍政権の安保法制を違憲立法であると断じている。

安倍政権の安保法制のどこがどのように問題であるのかを、

徹底解説する特別番組をいくらでも制作するべきである。

極めつきは高村正彦外務大臣(当時)の1999年2月9日衆議院安全保障委員会における答弁だ。

「日本国国民自身がみずからの憲法をつくって、それは行使しないと、

その集団的自衛権の方は行使しないと決めたわけでありますから、

当然日本国政府はそれに縛られる、こういうことだと思います。」

この発言映像をテレビ番組で、繰り返し、繰り返し放映するべきだ。

テレビ朝日「報道ステーション」は安保関連法案の廃案を求めていると

受け取れる報道を展開しているのだから、

テレビの強みを生かして、この映像を繰り返し用いるべきである。

その上で、高村正彦氏をスタジオに読んで意見を求めるべきである。

日本政府が公式に政府見解を示し、

40年以上維持してきた憲法解釈を根底から覆す暴挙を、

立憲主義国家である日本が容認してよいわけがない。

日本の主権者が立ち上がり、政府の暴挙を阻止しなければならない。

「報道ステーション」が実施した憲法学者への緊急アンケートで、

安倍政権の安保法制が「合憲」であると回答した学者は、

回答があった151人にうち、たったの3人だった。

このうちの一人である大東文化大学教授の浅野善治氏がインタビューに応じてVTR出演した。

浅野善治氏は、私が在籍した東大経済学部のゼミに、

衆議院法制局から聴講生として加わっていた方である。

私が在籍したゼミでは、毎年1名、衆議院法制局の職員の方を聴講生として受け入れていた。

その浅野氏が衆議院法制局の仕事をやめて教職についたということなのだろう。

その浅野氏が圧倒的少数派の安保法制合憲の主張を示した。

しかし、政府が40年以上の長期にわたって明示し続けてきた憲法解釈を

根底から覆す新しい憲法解釈を提示することがもたらす、

法の安定性を損ねてしまう問題についての言及はなかった。

説得力のある合憲主張は示されなかった。

菅義偉官房長官が国会で、辻元清美議員の質問に答えて示した、

安保法制が合憲であるとしている「著名な憲法学者」は以下の三名である。

長尾一紘・中央大名誉教授
百地章・日本大教授
西修・駒沢大名誉教授

このことについて、菅野完氏が

「「集団的自衛権を合憲とする」憲法学者は全員、日本会議関係者」

http://hbol.jp/45061

と題する記事を掲載された。

表題にあるように、「安保法制を合憲である」とする、少数派の憲法学者が

「日本会議」関係者であることを指摘しているのである。

「日本会議」とはいかなる団体であるのか。

ここが問題になる。

菅野完氏は上記記事を含む連載記事

シリーズ【草の根保守の蠢動】

執筆の目的を次のように記す。

「本連載は、安倍政権を支える巨大組織・日本会議の全体像を、

関係者の来歴と、70年安保闘争で生まれた民族派学生運動に連なる歴史を

明らかにすることによって解明することを目的としている。」

このシリーズを連載するなかで、

「目下、取材と調査、および次回の大型原稿の準備のためしばらくお休みを頂戴していたが、

見逃せないニュースが飛び込んできた」

と記述した。

安倍政権の菅義偉官房長官が、

「集団的自衛権を合憲とする憲法学者がたくさんいる」と豪語したことについて、

辻元清美議員から、

「こーんなにいる、と示せなければ、法案は撤回した方がいい」

と追及されて菅義偉氏が挙げた名前が上記の3名なのである。

Wikipediaは、「日本会議」の国内報道について、

次の記述を掲載している(以下Wikipediaからの転載)。

朝日新聞は、この団体について、「右派」「保守系」とされる団体では

国内最大級の組織であり、安倍晋三と思想的にも近く、

集団的自衛権の行使を認める閣議決定の際にも、支持する見解を出した、と報道した。

また、男女共同参画に反対している団体である、とも報道している。

東京新聞は、この団体を「日本最大の右派組織」である、と報じた。

また、2012年に発足した第2次安倍内閣の閣僚19人のうち

13人が懇談会のメンバーであり、

また、日本会議地方議員連盟所属の議員が全体定員の40%を越える県議会が国に15に及ぶ。

朝鮮人強制徴用犠牲者追悼碑撤去請願を採択した群馬県議会もそのうちのひとつ、と報じた。

また、「日本会議の前身の『日本を守る会』は、

過去の満州地域侵略を主導した将校らの思想的バックボーンになった

宗教右派の流れとしたパートナーであり、

(もう一つの母体である)『日本を守る国民会議』は右翼と結びついた組織」等の識者の批判を報じている。

(ここまで転載)

菅野完氏によると、

「日本会議が今現在もっとも力を入れるのが憲法改正運動」

であり、

「日本会議はそのフロント団体『美しい日本の憲法をつくる国民の会』を通じて、

目下、1000万筆を目指して全国的な署名活動を展開している。」

「また、もう一つのフロント団体『「二十一世紀の日本と憲法」有識者懇談会』(通称・民間臨調)

を通じては、各界の識者や政治家を招聘して、

「憲法フォーラム」と題するパネルディスカッションを全国各地で展開中」

とのことである。

そして、菅野完氏は次の重要事実を指摘する。

「菅官房長官が挙げた三名の憲法学者

――長尾一紘・中央大名誉教授 百地章・日本大教授 西修・駒沢大名誉教授――は、

みな、この2団体の役員なのだ。」

極めて重要な事実である。

「日本会議」のWEBサイトに、

「日本会議が目指すもの」

http://www.nipponkaigi.org/about/mokuteki

というコーナーがあり、6項目が示されている。

1.美しい伝統の国柄を明日の日本へ
2.新しい時代にふさわしい新憲法を
3.国の名誉と国民の命を守る政治を
4.日本の感性をはぐくむ教育の創造を
5.国の安全を高め世界への平和貢献を
6.共存共栄の心でむすぶ世界との友好を

これらの内容を菅野氏は

「皇室を中心と仰ぎ均質な社会を創造すべきではあるが(1)、

昭和憲法がその阻害要因となっているため改憲したうえで昭和憲法の副産物である

行き過ぎた家族観や権利の主張を抑え(2)、

靖国神社参拝等で国家の名誉を最優先とする政治を遂行し(3)、

国家の名誉を担う人材を育成する教育を実施し(4)、

国防力を強めたうえで自衛隊の積極的な海外活動を行い(5)、

もって各国との共存共栄をはかる(6)」

と要約する。

そして、この「日本会議」と連携する国会議員の組織に

「日本会議国会議員懇談会」

地方議員の組織として

「日本会議地方議員連盟」

がある。

この「国会議員懇談会」には国会議員が約289名参加している。

2014年に発足した第2次安倍改造内閣では、

閣僚19人のうち15人が懇談会のメンバーで占められた。

特筆すべきことは、この「日本会議」に民主党議員である

寺田稔、長島昭久、原口一博、前原誠司、松原仁、笠浩史、

維新議員である松野頼久が加盟していることだ。

「安保法制は合憲」

とする憲法学者が「日本会議」関係者であることについて、菅野完氏は、

「集団的自衛権に関する議論は、日本の将来を左右する重大な課題だ。

このような課題を議論するにあたって、

特殊な政治意図をもった特殊な人々の主張に依拠するのは、問題と言わざるを得ない」

と指摘している。

安倍政権の大きな問題がここにある。

世間一般では、安倍政権はアベノミクスで経済を浮上させる政権であるとして

歓迎する向きがあるが、根っこの部分の本質に、こうした戦前回帰思想が存在するのである。

この方向に日本政治が強引に拉致されてしまうことが問題なのだ。

安保法制論議は、

日本の国の基本方向が戦前に完全回帰させられてしまうリスクの表れという意味で、

決定的に重大な意味を有するのである。

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